魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

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2章

25

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「リタ、変わった様子はありませんか?」

リタの部屋へ着くと、魔王様はリタにかけていた術を解いた。リタは固まっていた身体を確かめるように、上半身を起こして、右手、左手と順番に動かしていく。

「私は大丈夫です。……天帝はどうなりましたか?」

リタにしては珍しく言い淀んだ。面持ちもいつも以上に固くなっている。

「天帝は、元天帝へと安全降格しましたよ」

魔王様の表情は何の感情も浮かんでおらず、皮肉を言うことしかできなかった。城へついた途端に、魔王様はどっと疲れ、椅子に勢いよく腰掛けた。

魔王様は、前髪をかき上げながら天井を仰ぎ見て、落ち着くように、目を閉じ、大きく息を吐いた。

「何か、食事やお茶でも用意しましょうか?」

リタは、これ以上今は触れないようにと気を効かして話題を逸らした。その気持ちが今の魔王様には有り難かった。

「はい。食事をして、湯浴みをして、寝て、そしたら今後の事を考えます」

リタは「はい」と答えると、直ぐに食事の用意をする為に厨房へと向かった。





それから3日後

魔王城に魔王様の姿は無く、広間にリタの姿だけがあった。3日前に食事を用意しようと魔王様のそばから離れた隙に、消えてしまったのだ。

リタは探しに行くべきだと思ったが、ある人物を待った方が話が円滑に進むだろうと、その人物を今か今かと待ち構えていた。

そうしているうちに3日が経っていたのだ。
そしてこの日、魔王城の大きな扉をそろそろと開けて入ってくる人影がいた。

「リタだけ?レイリンは?」

「見ての通りです」

元天帝が気まずそうに入ってきてリタに声をかけた。

「どこいる?」

「知りません」

リタは目を合わせることもなく答えた。その態度に元天帝は吐息をついた。

「何か言っていた?」

「何も」

もう少し積極的に考えろと元天帝は思ったが、自分の蒔いた種のせいだろうと、リタを責めることはできなかった。

「何でもいい、私が居なかった時の事を全て話して」

リタは、魔王様を足止めする手筈だった為、自分がしくじった話をあまりしたくは無かったが、元天帝が訊いた以上、答えなければ済まないと分かっていた。

そこでリタは、最初に魔王様と2人きりになった時の話を簡単にした。

「私の術が切れて、陛下に出て行かれました」

「止めなかったのか?」

「あれ以上、私が陛下を止めることは出来ません」

あの時の、魔王様の悲嘆に満ちた表情をリタは2度と思い返したくなかった。いっそ自分を咎めてくれたら楽なのに、魔王様はしてくれなかった。

元天帝はその話や表情から、リタには本当に無理だったのだろうと思った。

「あれほどのことをしても、陛下は私を家族だからと咎めもしなかった。それと貴方の事は、もっと前に諦めたら良かったと言っていました」

その言葉で元天帝の表情が強張った。

リタの事を家族だと言うのは魔王様らしい。
だが自分のことを諦めた方が良かっただなんて、魔王様らしくない。
こんな言葉を言わせてしまったと思うと、胸が脈打つ度に、痛くて痛くて仕方がなかった。

だがきっと、それ以上に魔王様は辛かったに違いない。今直ぐにでも魔王様を見つけ出して、抱きしめて、キスをして、安心してもらわなくてはならない。

元天帝は大きく息を吐いて呼吸を整えた。

「帰って来てからは?」

「その後は何も言わずに、私が食事の用意をしている最中に何処かへ行ってしまいました」

何の手がかりもないが、動かないわけにはいかない。

「レイリンを捜す。1人になりたい時に、レイリンが行きそうな所に心当たりは?」

リタは目を閉じて思索に耽る。静かに1分程待ってから口を開いた。

「1人になりたいのであれば、私の知らない場所でしょう。私が知らず、陛下だけが知っている場所」

リタは魔王様と会ってから3000年以上経っている。だが、リタは今まで魔王様と過ごした場所を全て覚えている。場所だけでなく、言葉も全て。

「昔、魔界の森で暮らしていたと話を聞いたことがあります」

魔王様が山籠り修行をすることは元天帝も知っていた。その中で行ったことのない場所を消去法で探す。

「そういえば、最下層の北西の方は特に避けていた気がします」

元天帝は魔界にはそれほど明るくないが、魔界の奥には広大な森が広がっているとは聞いたことがあった。

「場所がある程度特定できれば、あとは直ぐにわかる」

そうと分かれば、元天帝は居ても立っても居られない。直ぐに魔王城を後にし、魔界へと入っていった。リタもその後を急いで追いかけた。

魔界は人間界よりも数倍も広く、深いところにあり、太陽の光も届かないような場所も多くある。

2人は一言も話すことなく、最下層まで降りて行き、魔界の北西の奥へと飛んでいった。
3時間ほど飛び続けて、相当奥まで入り込んだ所で元天帝は一度止まった。

「疲れたんですか?」

魔王様に負けず劣らずリタは煽るのが好きだった。
その言葉を無視して、元天帝はゆっくり目を閉じた。

「聞こえた」

リタの耳には何も聞こえていなかった。下には薄暗い森が広がり、葉の掠れる音や獣の声は聞こえるだろうが、そもそもここは上空だ。

だが、それだけ呟くと今まで以上に速く元天帝は飛んで行ってしまい、リタは殆ど追いつけなくなってしまった。

元天帝は自分の神力を最大限使って感知能力を高め、自分にしか聞こえない鈴の音を追った。

もし、あのチョーカーだけが置かれていたらと思うと怖くなる。元天帝は考えるのを止めて、また10分飛び続けた。

地上からうっすらと煙が上がっているのが見えた。
元天帝は地面に降りると、木で出来た小屋が建っており、煙はそこからだった。
誰かが昔住んでいたようで、何も植えられていない花壇もある。

この中に魔王様がいると思うと、扉を開けるのを躊躇ってしまったが、元天帝は自分を奮い立たせて、ノックをした。

「レイリン?入ってもいい?」

中からは何も返事が無かった。数分ドアの前で待ってみたが変わらない。

無言は了承と捉え、もう一度ノックをしてから元天帝はドアを開けた。
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