【完結】皮肉な結末に〝魔女〟は嗤いて〝死神〟は嘆き、そして人は〝悪魔〟へと変わる

絆

④ 魔女との邂逅

「え……あ……」

　急な知り合いの登場に、私は面食らう。
　彼女――回夜歩美さんは、まるでおとぎ話に出てくるような黒のローブを身に纏い、後ろ手に両手を組んでうすら笑みで此方を見下ろす。
　さわさわと風が吹くと同時に街路樹の梢が騒めき、背景の夜天にちりばめられた宝石のような星々が装飾となり、それはまるでドラマのワンシーンを切り取ったかのような光景。
　その中で、艶然と優雅に微笑む少女――回夜歩美の姿は、まさに一つの絵画のように自分には映った。
　
「………………っ⁉」

　夜中に公園で、クラスメイトの女子に遭遇するという珍事と非現実的な光景に、何を言い出すべきか分からず……思わず絶句してしまう。
　そんな私に対して、

「うふふふふふ……」

　微笑を携え此方を猫のように目を細めて笑う回夜さん。その姿は、格好も相まって……まさに〝魔女〟と呼ぶにふさわしいものだった。

「ぁ………………」

　何か、何か反応を返さないと――私のかろうじて残っていた思考が、そう結論付ける。ぎこちなく笑みを浮かべて、会釈する。

「こ、こんばんは……」

　顔が引きつる。まさかこんな真夜中にクラスメイトに出会うなんて思わなかった。
　夜中に公園でブランコに乗るという少しばかり恥ずかしい場面を見られ、混乱する。

「こんばんは。いい夜ね」

　しかし私の動揺も意に介した様子もなく、回夜さんは淡く笑う。

「そ、そうですね……」

　当たり障りない言葉を選ぶ。内心ではどうしたものかと慌てふためいているが。

「音無さんは、買い物か何かの帰り？」
「あ……いえ……私は、バイトの帰りで……」

　しまった、と後悔する時遅し。こういった私生活を見せたくはなかった。何よりも、

（クラスメイトに知られて、変な空気になったりしたら……！）

　友人を失うこと、絆が無くなること。もっと言えば母の教えに背くことに自分自身にひどい抵抗があるからだ。グループの晴子達には言ってはいるが……学校という狭いコミュニティで悪目立ちするのは避けたい。

「バイトの？　そう、偉いわねえ」

　しかし、回夜さんはそのことに関しては訊いてこない。そのことにひそかに安堵する。

「えっと……回夜さんこそ……どうかしたの？　夜中に、公園なんて……」

　此方も質問を返す。自分はバイトの帰りだが、回夜さんが態々魔女のような格好で夜の公園に佇む理由が分からなかった。

「私？　私はねぇ……」

　クスッと悪戯っ子のように笑って一言。

「人間観察をしていたの」