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絆
⑧ 忠告。しかし……
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朝――。
学校で自分の席に着いた私は、昨日の出来事を反芻する。
(何だったんだろう……昨日の……)
回夜さんが『絆』について話してくれたこと。
そして、光輝君が回夜さんのことを『魔女』と呼んでいたことを。
「………………」
光輝君の表情を思い出す。あれは、どう考えてもからかっている雰囲気ではなかった。
ぎゅっと拳を握り締める。二人は親戚だ。昔に何かあったのだろうか?
(出会ったらどうしよう……一応挨拶しておく? でも、なんか近寄りがたい雰囲気……回夜さんも、光輝君も)
視線を彷徨わせる私。そこに、
「おはよう、回夜さん」
「あ……回夜、さん」
にっこり笑顔の回夜さんが、教室に入って来るなり挨拶してきた。
「お、おはよう……」
ぎこちなく挨拶をすれば、そのまま回夜さんは自分の席へと座り来た早々鞄から本を取り出して読書を始める。
何時も通りの行動に呆気にとられる。光輝君の忠告を気にして、どうしたものかと思案していた自分が馬鹿に思えるほど回夜さんは通常運転だ。
「はあ……」
溜息を吐く。うん、そう。特に何も問題はないはずだ。
そう思った、瞬間だった。
「音無」
「っ⁉」
背後から不意打ちの声が響き、心臓が飛び出るほどに驚く。聞き知った、そして警戒していた声に、振り返って予想通りの声の主の顔を見る。
「っ光輝……君」
やはり、そこには想像通りの人物、回夜光輝君が立っていた。しかし、その表情は険しい。
「少し、いいか?」
有無を言わせないその表情に、私はただ黙ってこくりと頷くことしかできなかった。
◇ ◇ ◇
一階の階段横の狭い通路に連れ出された私は、光輝君と対峙した。途端、
「昨日も言ったが……一応もう一度度言っておく。歩美には気を付けろ」
「あ、うん……分かって……います」
いきなりの先制パンチと言わんばかりの念押し。なんとなく、敬語で話す私。
「えっと……光輝君、と回夜さん……は、その、何かあった……の?」
口調が変なので軌道修正。ついでに一番訊きたいことを訊く。
「……何かあったと言えば、そうだ」
苦虫を噛み潰したように頷く光輝君。うう、訊かなかった方がよかった?
「前話した通り、あいつと関わった人が不幸になるのを何人も知っている。その中に、俺の……知り合いもいた」
「そ、そうなんだ……」
なんとなく、それ以上訊けない。その人とどういった関係なのか、その人はどうなったのか。知りたい、けど……知るのが怖い上に、なんとなく訊くのが憚られた。
「……あいつは、『〝絆〟という言葉について、教えてあげただけ』とのたまったが、本当か?」
「え、それは……」
光輝君の問いに、言葉を濁す。
『〝絆〟という言葉について、こんなお話を知っている?』
反芻し……頷く。うん、そう。嘘は言っていない……はずだ。
「う、うん……た、ただのお話なので、別に……」
あはははははは、と笑ってこの空気を変えようと画策。しかし、光輝君の表情は険しいまま。
「……どんな話か、訊いてもいいか?」
「え”?」
思わず、固まる。そ、それは……。
「あ、えっと、それ……は……」
言いたくない。別に、言えないわけではない。何故言いたくないのかも、自分では分からない。否、分かってはいる。しかし、それを認めるのが怖い。そして何よりも、思い出したくない。
私の態度に光輝君も分かってくれたのか、顔を曇らせ一言。
「……無理にとは言わない」
ほっと息を吐く。うん、思い出したくないことは思い出さない。蓋をして、忘れるに限る。
「う、うん……それじゃ……」
作り笑いでその場を去る。じっと背後から視線を送られている気がする。が、あえて無視する。これ以上関わるとなんかドツボにはまりそうな気がした。
「はぁ~……一体なんだったんだろう……」
独り言を呟きながら、私は教室へと帰っていった。
――この時、私はまだ知らなかった。
この後、私がどういう目に遭うか。何故光輝君が回夜さんを警戒しろと忠告していたのか。
私は――この後、身を以て知ることとなる。
学校で自分の席に着いた私は、昨日の出来事を反芻する。
(何だったんだろう……昨日の……)
回夜さんが『絆』について話してくれたこと。
そして、光輝君が回夜さんのことを『魔女』と呼んでいたことを。
「………………」
光輝君の表情を思い出す。あれは、どう考えてもからかっている雰囲気ではなかった。
ぎゅっと拳を握り締める。二人は親戚だ。昔に何かあったのだろうか?
(出会ったらどうしよう……一応挨拶しておく? でも、なんか近寄りがたい雰囲気……回夜さんも、光輝君も)
視線を彷徨わせる私。そこに、
「おはよう、回夜さん」
「あ……回夜、さん」
にっこり笑顔の回夜さんが、教室に入って来るなり挨拶してきた。
「お、おはよう……」
ぎこちなく挨拶をすれば、そのまま回夜さんは自分の席へと座り来た早々鞄から本を取り出して読書を始める。
何時も通りの行動に呆気にとられる。光輝君の忠告を気にして、どうしたものかと思案していた自分が馬鹿に思えるほど回夜さんは通常運転だ。
「はあ……」
溜息を吐く。うん、そう。特に何も問題はないはずだ。
そう思った、瞬間だった。
「音無」
「っ⁉」
背後から不意打ちの声が響き、心臓が飛び出るほどに驚く。聞き知った、そして警戒していた声に、振り返って予想通りの声の主の顔を見る。
「っ光輝……君」
やはり、そこには想像通りの人物、回夜光輝君が立っていた。しかし、その表情は険しい。
「少し、いいか?」
有無を言わせないその表情に、私はただ黙ってこくりと頷くことしかできなかった。
◇ ◇ ◇
一階の階段横の狭い通路に連れ出された私は、光輝君と対峙した。途端、
「昨日も言ったが……一応もう一度度言っておく。歩美には気を付けろ」
「あ、うん……分かって……います」
いきなりの先制パンチと言わんばかりの念押し。なんとなく、敬語で話す私。
「えっと……光輝君、と回夜さん……は、その、何かあった……の?」
口調が変なので軌道修正。ついでに一番訊きたいことを訊く。
「……何かあったと言えば、そうだ」
苦虫を噛み潰したように頷く光輝君。うう、訊かなかった方がよかった?
「前話した通り、あいつと関わった人が不幸になるのを何人も知っている。その中に、俺の……知り合いもいた」
「そ、そうなんだ……」
なんとなく、それ以上訊けない。その人とどういった関係なのか、その人はどうなったのか。知りたい、けど……知るのが怖い上に、なんとなく訊くのが憚られた。
「……あいつは、『〝絆〟という言葉について、教えてあげただけ』とのたまったが、本当か?」
「え、それは……」
光輝君の問いに、言葉を濁す。
『〝絆〟という言葉について、こんなお話を知っている?』
反芻し……頷く。うん、そう。嘘は言っていない……はずだ。
「う、うん……た、ただのお話なので、別に……」
あはははははは、と笑ってこの空気を変えようと画策。しかし、光輝君の表情は険しいまま。
「……どんな話か、訊いてもいいか?」
「え”?」
思わず、固まる。そ、それは……。
「あ、えっと、それ……は……」
言いたくない。別に、言えないわけではない。何故言いたくないのかも、自分では分からない。否、分かってはいる。しかし、それを認めるのが怖い。そして何よりも、思い出したくない。
私の態度に光輝君も分かってくれたのか、顔を曇らせ一言。
「……無理にとは言わない」
ほっと息を吐く。うん、思い出したくないことは思い出さない。蓋をして、忘れるに限る。
「う、うん……それじゃ……」
作り笑いでその場を去る。じっと背後から視線を送られている気がする。が、あえて無視する。これ以上関わるとなんかドツボにはまりそうな気がした。
「はぁ~……一体なんだったんだろう……」
独り言を呟きながら、私は教室へと帰っていった。
――この時、私はまだ知らなかった。
この後、私がどういう目に遭うか。何故光輝君が回夜さんを警戒しろと忠告していたのか。
私は――この後、身を以て知ることとなる。
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