【完結】皮肉な結末に〝魔女〟は嗤いて〝死神〟は嘆き、そして人は〝悪魔〟へと変わる

某棒人間

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㉖ side 谷口広江

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「ふんふふ~ん♪」

 私谷口広江は、夜の帳が下りて早めの夕食も済ませた時間に、何時も通り自室でスマホを弄っていた。
 見ているのは主に男性俳優や推しアイドルのSNSだ。
 自分を美しく魅せる自分磨きには余念がない親友の柳川晴子と違い、自分は主に男性アイドルや俳優に興味を持っていた。とは言え、自分を奇麗にするのに興味がない訳ではない。実際にアイドルの握手会やコンサートなどに行く場合もあるので、自分を美しくコーディネートするのにも抜かりはないつもりだ。一瞬とは言え推しの男性達の視界に入る以上、身を奇麗に保たなくてはいけない。それが自分の信条だ。
 そしてそれはこの自室にも表れている。壁はもちろん、天井や机に所狭しと貼られているポスターや雑誌の切り抜き達。私の魂とも言えるモノだ。
 晴子はただ純粋に自分を上に魅せたい、自分で作った女子カーストの上位に食い込みたいという意識の高さから自分磨きという名のファッションに凝っているが、自分は晴子ほどではない。ただ推しの男性の目に留まっても、恥ずかしくないように。もしも推しの傍にいられたら、どんな服装で過ごそうか、等の妄想や欲望から自分は行動している。
 晴子と気が合うのはファッションという繋がりがあるからだ。同じグループの池田千佳や飯塚百合、音無希津奈よりも晴子と気が合うのは、そこが関係しているんのだろう。
 そして性格も似ている。即ち――後のことをあまり深く考えない。感情を優先し、直情的な行動をしてしまう。そんな刹那主義のような性格も、自分と晴子は似ていた。
 だから――晴子が仲間外れにしようと言い出した時も、「ああ、なるほど」と思ってしまったのだ。



   ◇   ◇   ◇


 希津奈が光輝君と二人だけで何か話をしていた現場を見た晴子がそれを昼休みの食事中に問い詰め、お昼ご飯を食べ終え希津奈だけを残して教室を去った後の私達は、何ともなしに通路を歩いていた。

『私が光輝君狙っているの知ってたのに! 希津奈の奴、マジむかつく!』

 キーっと怒る晴子。

(ああまったく、晴子はよく怒るなー)

 と、私はそれを苦笑しながら見ていた。

(まあ確かに光輝君はかっこいいけど……ついでに私も人のこと言えないけど)

 内心苦笑し、自虐する。何を隠そう私自身も、光輝君には多少なりとも好意を持っていた。

『ほんっと、ムカつく!』

 ……晴子程ではないにしろ。
 晴子の場合は、誰よりも上に立ちたいというよく言えば上昇志向、悪く言えば嫉妬深さがある。この親友のいやに大きな嫉妬深い、マウントを取りたいみたいな性根は、どうにも抑えがきかないらしい。
 どうしたものか……と私は困惑している様子の同じグループの眼鏡をかけた百合と視線を交わし合う。と、



『じゃあ……無視しちゃう?』



 急に、同じグループの残っていた千佳が、ニヤリと暗い笑みを浮かべ言葉を放った。

『……え』

 困惑する百合。ピタリと止まる晴子の体。

『……そうしよっか』

 悪い笑みを浮かべる晴子。

(ああもう、晴子は……)
 
 肩を竦める。全く、晴子の直情的な部分に火が付いた。

『そ、そんな……希津奈ちゃん、再婚の話とかで、今大変なのに……』

 百合がぼそぼそと止めるよう言う。が、

『なによ、百合。希津奈の肩を持つの?』
『そ、そういう訳じゃ……』

 晴子ににらまれ、縮こまる。うーん、百合は気が小さいからなあ。こういう時は、止めようとしても火に油。だから適当に合わせるしかないのだ。

『じゃ、決まりね。希津奈と関わらないこと!』

 晴子の、鶴の一声でグループに指令が下った瞬間だった。



   ◇   ◇   ◇

 子供っぽい、と親友の自分でも思う。私自身晴子と似ている為、理解出来る分自分自身に呆れてしまいそうになる。
 だが、まあ仕方ない。晴子のソレは、天候や自然災害と同じだ。起こるのはその時の運次第。だから起きたら、治まるのを待つしかない。
 他の希津奈や千佳、百合は中学からの付き合いだが――私広江は晴子とは小学校からの付き合いだ。そして私自身が無視のターゲットにされたこともある。
 だが私は持ち前の――自分で言うのもなんだが――コミュ力で他のグループに入ったり会話したりしていた。それで別に困らなかった。
 何時の間にか無視は治まり、またグループで、時には二人で、つるむようになった。
 だから私は晴子のソレを特に大きな問題だとは思っていなかった。「ああまたか」と思えるくらいの、大きな子供の癇癪でしかなかったし、事実その通りだと思う。晴子は精神的に幼いのだ。まあ、私自身も似たようなものだろうが。
 だから、今希津奈が受けている『無視』も、大したことない。そう信じて疑わないでいた。 
 
 ピコーン

「んあ?」

 見ていたスマホに、通知が来る。

「? 晴子?」

 SNSの一つを使って、晴子から連絡が来た。
 なんじゃらほい? と内容を読む。と、

『緊急 今から学校の教室に集合』
「……はぁ?」

 思わず、呟いた。次いでさらに連絡が来る。

『学校の裏の秘密の通路、開いているから』

 裏の秘密の通路……ああ、あれか。私は理解し、ふむと考えこむ。
 上級生が教えてくれた、秘密の通路。通路と言っても実際は裏口の門を飛び越え、学校の廊下の下に備え付けられた窓から入るというものだ。外と内の廊下とを繋ぐ地窓というらしい。この地窓の一つが、ひっそり鍵が壊れてそのままなのだ。なので学校に忘れ物した先輩達が、時折夜中に忍び込んで、忘れ物を取りに来たりしていると教えてもらったことがある。
 んー……と頭の中で考える。晴子に何があったか知らないが……夜の学校に忍び込むというのは、正直言って面白そうだ。晴子のことだし、何か面白いことでも思いついたのかもしれない。
 そんな風に考えていたら、

 ブゥウウウウウウウウウ

「んあ? 百合?」

 同じグループの飯塚百合から電話が来て、これを取る。

「もっしー? 百合?」
『あ、広江ちゃん? 晴子ちゃんからのメッセージ見た?』

 開口一番、今さっきの連絡のことを口にする百合に「うん、見た見た」と相槌を打つ。

「晴なんか面白いことでも思いついたのかんねー? 私は行くつもりだけど、百合は?」
『は、晴子ちゃんからのお誘いだから……行かないとって思うんだけど……私、夜の学校に忍び込むの初めてで……それで、一緒に行って欲しいな……って』
「ああー。オケオッケー。んじゃ一緒に行こうか? 学校の裏門に集合ね? いっそ千佳も誘っちゃう?」

 真面目でおとなしい百合は、こういった夜の学校に忍び込むという行為を前にし、まず真っ先にばれたら大人に怒られると恐れているのだろう。かと言って、呼び出しを無視するのも晴子の怒りを買いそうで出来ない。今現在進行系で希津奈が『無視』されているのも拍車をかけているのだろう。それでせめて一緒にということなんだろうな、と当たりをつける。

『千佳ちゃんも誘って大丈夫かな? よかったら、その、三人で一緒に……』
「うん、いいよいいよ。私から連絡しておくわ」

 一つ返事で頷いてやる。

『じゃ、じゃあお願いね。が、学校の裏門で待っているから……』
「ん。じゃ直ぐに行くってことで」

 笑って会話を終了する。百合は眼鏡をかけている、如何にも大人しい少女だ。見た目に気を付けて大人っぽさを目指す私や晴子と違い、女子高生にもなって未だに中学生と間違われたりもする。なんとなく庇護欲が出てしまい、晴子が居ないときに一緒に居たら、ついつい世話を焼いてしまったりする。
 因みになぜ晴子が居ないとき限定なのかというと、百合含め他の子に構い過ぎると晴子があからさまに不機嫌になるからだ。
 まあ私から言わせれば、そんな部分も子供っぽく、晴子らしいのだが。

「んじゃねー」

 笑って私は通話を終え、代わりに新たに池田千佳に電話をかけたのだった。
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