約束の虹は8色に輝いて

鐘雪花(かねゆきはな)

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第3章 叡智

第8話 目撃談と推理

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★◇◆◇◆◇◆◇


 荷台の幌に手をかけたノウェムは、それを一息にめくり上げた。
 すると、

「わ、わーっ!」

 荷台の中には、小さな男の子が座っていた。
 突然のことに驚いたのか、小さな身体をさらに小さくしてうずくまっている。
 しかし、驚いたのは男の子だけではなく、ターメリックたちもまた驚いていた。

 「え、ええっ!?」

 だ、だれ!?
 いつの間に!?
 ターメリックがバタバタと慌てている隣で、ノウェムも幌を手にして困惑している。
 すると、荷台の後ろに腰かけていたディッシャーが身軽に飛び降りて、中でうずくまる男の子を覗き込んだ。
 そして、

「マッシャー!」

 慌てたように荷台の中から男の子を抱き上げ、地面へと降ろした。
 男の子は5歳くらいだろうか、身長はディッシャーの腰のあたりまでで、必死にディッシャーの後ろに隠れようとしている。
 夕闇の中でも、フサフサの髪は銀色に輝いていた。
 ディッシャーと同じ髪色である。

 あれ、もしかして……
 お孫さん、かな。
 ターメリックが尋ねようとしたものの、その前にディッシャーは深々と頭を下げていた。

「申し訳ありません、うちの孫が大変なご迷惑をおかけしました……」

 ああ、やっぱりお孫さんだった!
 でも……
 どうして荷台の中に?
 というか、いつからいたんだろう。
 ターメリックの疑問を尋ねるように、ディッシャーは孫の顔を覗き込んだ。

「マッシャー、いったいどうして、いつからこんなところにいたんだい?」
「……」

 マッシャーは俯いたまま喋ろうとしない。
 辛抱強く待っていると、ようやく、

「……朝ごはん、食べた後」

 それだけを、ぽつりと口にした。
 どうやらマッシャーは、一行が出発するときに荷台の中に忍び込んだらしい。
 そして、だれも見てない間は荷台から降りていたようだが、空腹には耐えきれなかったようで、

「あの、ごめんなさい。中にあったパン、ぼく食べちゃって……! ごめんなさい……!」

 必死に泣くのを堪えて、謝り続けていた。
 ありゃ……
 お腹が空いたら、しょうがないよね。

 ターメリックは、うんうんと頷いて、怖い顔をしたクランがマッシャーに見えないように立ち塞がった。
 すっと場所を変えたクランだったが、その前にはクィントゥムが立っている。
 ノウェムはというと、今にも泣き出しそうなマッシャーの目の高さに屈んで、

「心配すんな、坊主。オレたち、だれもそんなことで怒ったりしねぇから」
「……ほんと……?」

 マッシャーのか細い声に、ノウェムは「ほんとほんと」と笑って頷いた。
 そして、マッシャーの頭をガシガシと撫でると、

「だからさ、どうしてこんなところまでついてきたのか、理由があるなら教えてくれねぇかな」

 そう尋ねると、マッシャーはようやく顔を上げて、大きく頷いた。

「あのね……ぼく、昨日の夜、見たんだ。泥棒みたいにコソコソしてる人たちが3人、村の外に走っていくとこ……」
「マッシャー、どうしてそんな大事なこと、おじいちゃんにすぐ教えてくれなかったんだい?」
「だって、起きたらもう出発するとこだったから……どうしようって考えて、それで……」
「それで、オレの荷台の中に乗り込んだんだな」

 ノウェムが先を読んで声をかけると、マッシャーは勢いよく頷いた。
 ノウェムも「そうかそうか」と頷いている。
 ふたりは、すっかり仲良くなっていた。

 それにしても……泥棒は3人組だったんだね。
 ターメリックは腕を組んだ。
 といっても、何かを考えているわけではない。
 なんとなく手持ち無沙汰なだけである。
 しかし、その隣に立つクィントゥムは違う。
 顎に指を添えて、何か難しいことを考えているようだ。

 まさか、クィントゥム君……
 もう何かわかっちゃったとか!?
 ターメリックがチラリと横顔を伺うと、

「少年」

 クィントゥムは顔を上げて、マッシャーを見つめた。
 そして、少し緊張気味のマッシャーに、確信を持ったように声をかけた。

「君が見た泥棒というのは、スプーン村での目撃情報にもあった『背の高い男』と『小柄な女』と……もうひとりは『太った男』で間違いないね?」

 その言葉に、マッシャーは目を丸くして、

「うん! そうだよ! すごい、ぼくまだ何も言ってないのに!」

 今にも飛び上がりそうなほど驚いていた。
 そしてもちろん、驚いたのはマッシャーだけではない。
 ディッシャーもまた、孫と顔を見合わせている。
 そして、

「ええーっ!? そ、そうなの!? クィントゥム君!!」
「マジかよ!! ってことは……ん? どういうことになるんだ?」
「僕も、ノウェムがうるさいってことしかわかんないんだけど」
「クランは黙っとけ」

 三人三様に驚いていると、クィントゥムは珍しく自信たっぷりといった顔で頷いてみせた。
 あ、懐かしい……
 そうそう、クィントゥム君って、いつもこういう顔でぼくにいろいろ教えてくれてたっけ。
 なんか、ちょっと嬉しそう。

 ターメリックが友人の様子に安心していると、その友人は得意げに、銀縁眼鏡を指先でクイッと押し上げた。
 そして、困った顔のディッシャーに告げたのである。

「次に狙われるのは、確実にナイフ村の特産品トマトでしょう。それから、これは私の推測ですが……トマトを盗み出すのは『背の高い男』と『太った男』です。そして……小屋の鍵を開け、2人を誘導するのは『小柄な女』とみてよいかと」


★◇◆◇◆◇◆◇


 名探偵クィントゥムの推理は見事に的中した。
 ナイフ村へと到着したターメリックたちは、その日の深夜すぎに、箱詰めされたトマトを見張るため、小屋のまわりを巡回していた。
 そして、何も知らずに現れた泥棒たちを確保したのである。
 ……といっても、活躍したのは身軽なノウェムと魔法の使えるクィントゥムだけで、ターメリックはオロオロしていただけ、クランにいたっては遠巻きに眺めていただけだったのだが。

 とにもかくにも……
 ナイフ村での盗難事件は無事、未遂に終わった。
 明け方のナイフ村、その中心にある村の広場には、縄で縛られた3人の泥棒が座らされていた。
 それぞれ、太った男と小柄な女、そして背の高い男である。
 この泥棒3人組は、それぞれ別の村の人間だったのだが……
 まだよくわかっていないターメリックに、すべてを理解したクィントゥムが説明してくれた。

 まず第1の事件、フォーク村での盗難事件にて『太った男』と『小柄な女』を手引きしたのが、フォーク村に住む『背の高い男』ことトックリという名の青年。
 続いて第2の事件、スプーン村での盗難事件にてトックリと『小柄な女』を手引きしたのが、スプーン村に住む『太った男』ことグイノミという名の中年の男。
 そして第3の事件、フォーク村での盗難未遂事件にてトックリとグイノミを手引きしたのが、フォーク村に住む『小柄な女』ことオチョコという名の派手な女。
 どうやら彼らは、協力して村の特産品を盗み出し、王都に高値で売りつけるつもりだったようだ。

「……どちらにせよ、王都ではこのような密売人を厳しく取り締まっていますから、あなたがたもすぐに捕まっていたでしょうねぇ」

 朝焼けに染まる村の広場で、ディッシャーが項垂れる3人組に嘆かわしげな視線を向けていた。

「……ちくしょう」

 盗人たちのリーダー格であるらしいトックリ青年が、凶悪そうな顔を歪めた。

「ここらの物を高値で売りさばいて、王都で大金稼いで、とっととどっかに高飛びするつもりだったってのに……! どうしてこんなところで捕まんなきゃいけねぇんだよ、このクソジジイ!」

 ディッシャーに詰め寄ろうとしたトックリだったが、その前にクィントゥムが立ち塞がった。


つづく
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