職業:雑貨屋店主兼英雄

○山

文字の大きさ
10 / 23
第1章雑貨屋編

第9話:弟子

しおりを挟む
 ルチアちゃんが住み込みで働くと決まった後、一つ困ったことがあった。それは湯浴みについてである。女の子に対してこう言うのもアレなんだが・・・ルチアちゃんは結構汚かった。どうしてそんなことになっているのか話を聞いてみると、家出をしてこの半月程は湯浴みができなかったらしい。どんな生活を送っていたんだか。
 なので早速、湯浴みをしてもらったのだが・・・これがもう大変だった。まず今の家では魔石を使ってお湯を作り、そのお湯で体を拭いたり頭を洗ったりしていたのだが、何しろルチアちゃんは髪が長い。そのおかげで一人で髪を洗うと水浸しになってしまったのだ。確かに見た目は幼いが女の子で、しかもドワーフは小柄らしいので実際の年齢は見た目以上ということを考えると、男の俺が湯浴みを手伝うのはどうかと思ったのだが・・・本人がいいと言うので結局髪だけは手伝った。その時に分かった事なのだが、ルチアちゃんの髪色は実は明るい茶色だった。濃い茶色だったのは単に汚れていたからそう見えただけらしい。とまぁそんなことがあり、俺は風呂を作ることを心に決めた。

 そして翌朝、朝食の準備をしていると、少ししてからルチアちゃんが起きてきた。

「ソウタさん、おはようございます。」
「ルチアちゃん、おはよ・・・すごいことになってるね。」

 ルチアちゃんの髪はボサボサになっていた。まさに爆発と言ってもいいだろう。

「髪が長くなるとどうしてもこうなってしまうんです。短いともう少しマシなんですけど。」

 いつものことのようだ。そのままでは店に出られないので櫛を渡して髪を梳かしてもらった。すると量が多いのでそれなりに時間はかかったようだが、髪は見事にサラサラになった。

「この櫛というものはすごいですね。ここまできれいに整ったのは初めてです。」

 気に入ってもらえたようだ。そのあとヘアピンとヘアゴムをつけてもらった。長い髪を纏めるのにちょうどいいだろう。ついでに宣伝にもなればいいな。

「どうでしょうか、似合ってますか?」
「うん、似合ってるよ。」

 前髪は目が隠れないようにヘアピンで留め、後ろ髪はヘアゴムで纏めたようだ。そのおかげで彼女のかわいらしい顔がよく見えるようになった。纏めた長い髪もきれいだ。これはついでと思っていた宣伝効果に期待できそうだな。店の準備が終わったところでやって来たエリスさんがルチアちゃんをなでくりまわしたことからも見て取れる。

 そして開店時刻、今日はさすがに少し客足が遠退いているようで余裕をもって仕事ができている。ルチアちゃんの様子を見てみると、女性のお客さんにもみくちゃにされながらも商品説明を頑張ってくれている。
 昨日出会った当初から感じていたことだが、ルチアちゃんは非常に真面目で丁寧で、一言で表すなら良い子である。もしこんな子が娘であったならば溺愛してやまないであろうことは想像に難くない。結婚のけの字さえも見えなかった俺でさえそう考えるのだ、彼女の父はどれだけ彼女を溺愛しているだろうか。なのにも関わらずルチアちゃんは家出をした。そこにどんな理由があるのか定かではないし、人の家庭に他人が首を突っ込むのもどうかとも思うが・・・もし俺が協力できることがあるなら協力してあげたい。出会ってまだ1日も経っていないのにそう思ってしまうほど彼女は愛らしく、誠実だった。

 しかし、この調子なら明日からは俺とルチアちゃんの二人だけでもなんとかなりそうだ。いずれは商品も増やすので新たな店員も雇っていく予定ではあるが。午前中はそんな感じで多少は穏やかに時が進んだ。

 午後についてだが、午前中にルチアちゃんのことを聞いた人たちが大量に店に押しかけて来て、店を開店してからこの3日間で最高の売り上げを叩きだしたのはご愛敬。

 そしてその日の夜。店の片付けを終えた後、俺とルチアちゃんは工房に来ていた。スキルについて話をするためである。

「ルチアちゃんも俺の”創造クリエイト”に近いスキルを持ってるんだったよね?」
「はい、そうです。」

 近いスキルだからといって教えられることはあるんだろうか。俺のやってることなんて形や機能をイメージして、あとは頭で念じるだけだし。

「”作成メイキング”というスキルで、素材を用意すれば魔力を操作して自由に物が作れるというスキルです。素材を用意しなければいけないという点で創造クリエイトに劣っていますね。」

 なるほど、確かに似ている。

「それで俺の弟子になって、何をしたいんだい?」
「高い品質の物が作れるように魔力操作技術を教えていただきたいんです。」

 やはり俺にはわからないことだ。

「魔力の操作と言われても・・・俺は完成品をイメージして念じてるだけだから詳しいことは教えられないよ。」
「些細なことでもいいんです。何か注意していることや、これは必ずやってるなんてことはありませんか?」

 そう言われてもなぁ・・・。

「ん~・・・そうだなぁ・・・できるだけ映像でイメージしてるかな。」
「映像ですか?」
「うん、この錫製の食器を作るときでも、その形を映像でイメージしたんだ。」
「なるほど・・・参考になります。」
「あとは・・・このクリップタイプの髪留めとかだと、形だけじゃなくて動きも映像でイメージするかな。」
「動きも映像で、ですか・・・確かにそれはしたことが無いですね。」

 ルチアちゃんは納得したようにうんうんとうなずいている。

「とりあえずこんな感じで大丈夫?」
「はい、大丈夫です。いきなり多くを教えていただいてもすべてを習得できるわけではないので、少しずつ確実に学ばせていただきます。」

 どこまでも真面目な子だなぁ。すごく眩しく見えるよ。

「次は今教えていただいたことを実際にやってみます。」
「じゃあ素材は俺が用意するね。」

 そう言って俺は頭の中で”創造クリエイト:錫”と念じた。物質に関しては”過程省略ショートカット”に登録されないんだよな・・・特にイメージしてるわけでもないから別にいいんだけどさ。

「はい、錫を用意したよ。これで食器を作ってみようか。」
「わかりまし・・・この錫、見たことないくらい品質が良いです。もしかして素材もすべてこの品質でだせるのですか?」
「?たぶんできるよ?」
「すごいスキルですね・・・もう言葉が出ません。」

 勝手にそうなっていたことなので気にしていなかったのだがやはりすごいことらしい。まぁ俺もいくつか鑑定した中で品質がSランクの物質はまだ見たことがなかったので気付くべきだったのであろうが。

「あっ、もしかしなくても素材の品質が高ければ高いほど高い品質のものができるよね。俺が作ったものが高品質なのってその影響なんじゃないの?」

 もし素材の品質の影響が大きいのであればさっきの話ってほとんど関係ないんじゃ・・・。

「確かに素材の品質の影響はありますが、それだけで作ったものの品質が決まるわけではないので心配しなくても大丈夫ですよ。」

 心配していることも見抜かれてしまった。この子一体いくつなんだ。

 そんな感じで夕飯ギリギリまで工房に引きこもって製作を続けた。ルチアちゃん曰く、品質が上がっているらしいので安心した。

 これからはこれが日課になるだろう。それが少し楽しみだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

処理中です...