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ライブ ――十五歳・女(高校生)
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ライブに行った。生まれて初めて、ライブに行った。
きっかけは、高校受験の時にたまたま見つけた動画だった。
衝動的にベストアルバムを買って、受験の時はよく聞いた。自分の周りで彼女の事を知っている人はいなかったけれど、優しい声が好きだった。特に、切ない感じのバラードは何回も聞いた。
高校に入ってからは割と忘れていたけれど、ふと検索したツイッターで『アコースティックライブ』とやらがあることを知ったのが夏休みの前。
『詳しくは公式ホームページのバナーから♡』と書いてあったのでクリックしていったら、チケットのページに飛んでびっくりした。どうやらライブの詳細を見るには、会員登録が必要なようだ。
……大丈夫かな。としばらくパソコンを睨み付ける。
自慢じゃないけど、私は真面目だ。と言うよりも、小心者だ。先輩やクラスのリーダー的な人達に目を付けられない様、スカートも髪形も校則通り。先生に怒られたこともほとんどないし、ノートンさんが『?』をつけたサイトをクリックすることも無い。ツイッターもクラスのラインも見る専門に留めている。ずっと、そういう感じの子でやってきた。
でも。でも。行ってみたい。ライブというモノに、行ってみたいと思った。
丁度いいと思った。アコースティックライブなら、なんか怖い人もいなそうだし、と。
えいっと会員登録し、まずはチケットの値段を確認する。四千円なら、払えなくはない。次に会場。吉祥寺。聞いたことある。東京だ。それから会場の写真。なんか暗い。あと、思ってたよりかなり狭い。お酒とか売ってるんだ。うわ、地下だ。地下だって。……地下……か。
ちょっとドキドキしながらお店の名前で画像検索。意外と綺麗そう。他のアーティストの人が歌っている写真の笑顔でちょっと安心。
それから、口コミサイトをチェックした。ご飯がおいしいとか、綺麗とか。……ご飯? 買わなくちゃいけないのかな? 結構高いけど。
……時間。時間は、十八時。十八時……開演。ライブって、どれくらいやるんだろ? 二時間くらい? 八時に出て、八時半の電車に乗れば、十時過ぎには駅に着くらしい。十時。十時って。補導されるかも? いや、でも、それくらい普通か? いやいやいや、私だぜ? 私の親だぜ? 怒られるに決まってる。ていうか、ベストアルバムしか知らない人が行っていいのかな? なんかコアなファンしか行っちゃいけないのかも……。そもそも違法動画で知りましたとか絶対言っちゃダメだよね?
そんな風に、ツイッターのリンクからチケットページを毎日みたいにうろうろしながら、何度も何度もドキドキした。
でも、やっぱり行ってみたい。なってみたいと思った。『ライブに行った私』に。
これなら、このライブなら。繰り返しそう思って見ていると、なんだかだんだん大丈夫な気になってきた。
決心したのは、先行販売というのが終わって、一般発売が始まる前日。まずは母親に相談し、行ってみたい旨を伝える。母を介して父にお伺いを立て、『付いて行ってやろうか?』と言った兄にはキレた。
コンビニで発券したチケットを引き出しにしまい、毎日みたいに確認しながら、日が近づくにつれて兄にキレた事を後悔し始める。入り口まで来てもらってその辺で待たせておけばよかったかも知れないなどと、今思えば血迷ったとしか思えない夜もあった。
そして、当日、金曜日。決戦はいつだって金曜日。急いで学校から帰り、服を着替えて母親に車で送ってもらった。
乗り換え案内を頼りに電車を三本乗り継いで、いよいよ辿り着いた吉祥寺。
暗くなり始めた九月初頭の大都会。最高にお洒落なつもりだった服の上から財布を押さえつつ、額には残暑の汗、脇には迷ったかもという冷えた奴。駅から三分の道のりを十五分かけてなんとかお店の看板を発見した時には、すでに割とヘトヘトだった。
ライブは、凄く、凄く良かった。他で聞くよりも、なんていうか、声が高かった。というか、高い声が混じってる感じがした。音源とは違って、一つの声の中に色々な音が混じっている感じ。ふわっとステージを照らすクリーム色の照明の中、ピアノとギターとボーカルと。
他のお客さんはおじさんばかりだったけれど、怖い人もいなくて、田舎者丸出しの私にもちゃんと店員さんは優しくて。
MCの軽い冗談で笑ったり、空気を読んで手拍子をしたり、一曲終わる度に拍手をして、とにかく必死で滅茶苦茶緊張したけれど、知らない曲もとても素敵で好きになった。
終盤はちらちらと時計を気にしつつ、最後の曲が終わるや否や、会場で和やかにお話を始めたお客さんを尻目に逃げる様に階段を上がって、眠らない街吉祥寺を駆け抜ける。
帰り路、満員電車なら見た事あったけど、まさか満員の駅があるとは思いもしなかった。ぶつかって来る新宿人をよけよけなんとか目的のホームに辿り着き、『酔っぱらって電車に乗っていいのかよ?』とか、制服で乗って来る高校生には、こんな時間まで何してたんだ――とか思いつつ。
やがてどんどんと人がいなくなりクーラーが効き過ぎになった田舎行きの電車が、ようやく見知った駅に到着したのはほぼ十一時。なんだかすごくほっとして、地元最高、と心の中で呟いた。
ロータリーで待っていた父の車に乗り込むと、父は発進しながら『どうだった?』と聞いてきた。
「ん。まあまあ」とだけ、私は言って。
家の玄関を開けながら「ただいま」と呟き、『お帰り』と出てきた母にも「うん」と返し、ポカリを片手にニヤニヤして来た兄は無視をして。
それから自分の部屋の机に座り、『きょうはありがとー♡』と言う彼女のツイートにリプを書いては消してを繰り返し、お風呂に入って、鼻歌を歌い、まぶたの裏にステージの残像を浮かべながら『夜の東京を知る女』として友達とふざけている内にいつの間にか眠っていた。どうやら『ライブに行った私』は、自分史上最高の眠り新記録を更新しそうだった。
きっかけは、高校受験の時にたまたま見つけた動画だった。
衝動的にベストアルバムを買って、受験の時はよく聞いた。自分の周りで彼女の事を知っている人はいなかったけれど、優しい声が好きだった。特に、切ない感じのバラードは何回も聞いた。
高校に入ってからは割と忘れていたけれど、ふと検索したツイッターで『アコースティックライブ』とやらがあることを知ったのが夏休みの前。
『詳しくは公式ホームページのバナーから♡』と書いてあったのでクリックしていったら、チケットのページに飛んでびっくりした。どうやらライブの詳細を見るには、会員登録が必要なようだ。
……大丈夫かな。としばらくパソコンを睨み付ける。
自慢じゃないけど、私は真面目だ。と言うよりも、小心者だ。先輩やクラスのリーダー的な人達に目を付けられない様、スカートも髪形も校則通り。先生に怒られたこともほとんどないし、ノートンさんが『?』をつけたサイトをクリックすることも無い。ツイッターもクラスのラインも見る専門に留めている。ずっと、そういう感じの子でやってきた。
でも。でも。行ってみたい。ライブというモノに、行ってみたいと思った。
丁度いいと思った。アコースティックライブなら、なんか怖い人もいなそうだし、と。
えいっと会員登録し、まずはチケットの値段を確認する。四千円なら、払えなくはない。次に会場。吉祥寺。聞いたことある。東京だ。それから会場の写真。なんか暗い。あと、思ってたよりかなり狭い。お酒とか売ってるんだ。うわ、地下だ。地下だって。……地下……か。
ちょっとドキドキしながらお店の名前で画像検索。意外と綺麗そう。他のアーティストの人が歌っている写真の笑顔でちょっと安心。
それから、口コミサイトをチェックした。ご飯がおいしいとか、綺麗とか。……ご飯? 買わなくちゃいけないのかな? 結構高いけど。
……時間。時間は、十八時。十八時……開演。ライブって、どれくらいやるんだろ? 二時間くらい? 八時に出て、八時半の電車に乗れば、十時過ぎには駅に着くらしい。十時。十時って。補導されるかも? いや、でも、それくらい普通か? いやいやいや、私だぜ? 私の親だぜ? 怒られるに決まってる。ていうか、ベストアルバムしか知らない人が行っていいのかな? なんかコアなファンしか行っちゃいけないのかも……。そもそも違法動画で知りましたとか絶対言っちゃダメだよね?
そんな風に、ツイッターのリンクからチケットページを毎日みたいにうろうろしながら、何度も何度もドキドキした。
でも、やっぱり行ってみたい。なってみたいと思った。『ライブに行った私』に。
これなら、このライブなら。繰り返しそう思って見ていると、なんだかだんだん大丈夫な気になってきた。
決心したのは、先行販売というのが終わって、一般発売が始まる前日。まずは母親に相談し、行ってみたい旨を伝える。母を介して父にお伺いを立て、『付いて行ってやろうか?』と言った兄にはキレた。
コンビニで発券したチケットを引き出しにしまい、毎日みたいに確認しながら、日が近づくにつれて兄にキレた事を後悔し始める。入り口まで来てもらってその辺で待たせておけばよかったかも知れないなどと、今思えば血迷ったとしか思えない夜もあった。
そして、当日、金曜日。決戦はいつだって金曜日。急いで学校から帰り、服を着替えて母親に車で送ってもらった。
乗り換え案内を頼りに電車を三本乗り継いで、いよいよ辿り着いた吉祥寺。
暗くなり始めた九月初頭の大都会。最高にお洒落なつもりだった服の上から財布を押さえつつ、額には残暑の汗、脇には迷ったかもという冷えた奴。駅から三分の道のりを十五分かけてなんとかお店の看板を発見した時には、すでに割とヘトヘトだった。
ライブは、凄く、凄く良かった。他で聞くよりも、なんていうか、声が高かった。というか、高い声が混じってる感じがした。音源とは違って、一つの声の中に色々な音が混じっている感じ。ふわっとステージを照らすクリーム色の照明の中、ピアノとギターとボーカルと。
他のお客さんはおじさんばかりだったけれど、怖い人もいなくて、田舎者丸出しの私にもちゃんと店員さんは優しくて。
MCの軽い冗談で笑ったり、空気を読んで手拍子をしたり、一曲終わる度に拍手をして、とにかく必死で滅茶苦茶緊張したけれど、知らない曲もとても素敵で好きになった。
終盤はちらちらと時計を気にしつつ、最後の曲が終わるや否や、会場で和やかにお話を始めたお客さんを尻目に逃げる様に階段を上がって、眠らない街吉祥寺を駆け抜ける。
帰り路、満員電車なら見た事あったけど、まさか満員の駅があるとは思いもしなかった。ぶつかって来る新宿人をよけよけなんとか目的のホームに辿り着き、『酔っぱらって電車に乗っていいのかよ?』とか、制服で乗って来る高校生には、こんな時間まで何してたんだ――とか思いつつ。
やがてどんどんと人がいなくなりクーラーが効き過ぎになった田舎行きの電車が、ようやく見知った駅に到着したのはほぼ十一時。なんだかすごくほっとして、地元最高、と心の中で呟いた。
ロータリーで待っていた父の車に乗り込むと、父は発進しながら『どうだった?』と聞いてきた。
「ん。まあまあ」とだけ、私は言って。
家の玄関を開けながら「ただいま」と呟き、『お帰り』と出てきた母にも「うん」と返し、ポカリを片手にニヤニヤして来た兄は無視をして。
それから自分の部屋の机に座り、『きょうはありがとー♡』と言う彼女のツイートにリプを書いては消してを繰り返し、お風呂に入って、鼻歌を歌い、まぶたの裏にステージの残像を浮かべながら『夜の東京を知る女』として友達とふざけている内にいつの間にか眠っていた。どうやら『ライブに行った私』は、自分史上最高の眠り新記録を更新しそうだった。
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