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第三部(貴族学校入学編)
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担任教師が話をしている最中に、教室の扉が控え目に開き、あの男爵令嬢が静かに入室する。足をひょこひょこと引き摺りながら歩いている。その様を見て私の方をチラチラと見てくる視線もある。
私としては、知らないわよそんなのとしか思わない。突然ぶつかってきて勝手に転けて怪我しているのだ。そんなことに責任などこれっぽっちも感じない。
担任教師の話が終わり、解散を告げて出て行ったあと。私の元にウィリアムとルーカスがやってきた。
「お前、騒ぎになってたけど大丈夫か?」
「なによ、気付いてたなら助けに来なさいよ」
「俺らが行く前にサラ殿下が行ったんだよ。別に知らない振りをしたわけじゃない」
ウィリアムが気まずそうな顔をしている。いつものウィリアムだったらこんなの冗談だって分かりそうなものなのに。
「冗談よ。マーカスもAクラスだったのね。頑張ったじゃない!」
「あぁ、休み明けもここにいられるかは分からないけど」
「大丈夫だ。俺が勉強くらい見てやる。寮の部屋も隣だしな」
「あら、そうなの? 相変わらず仲良しね」
そんなことを話していると、前の席に座ったサラ第一皇女殿下がくるっと振り向かれた。
「ウィリアム、久し振りね。これから3年間よろしくね」
「サラ殿下、一年振りでしょうか。こちらこそよろしくお願いします。こっちは幼馴染みのルーカス・フォスター侯爵令息です」
「お初にお目にかかります。サラ第一皇女殿下と同じ学舎で過ごせますこと光栄に存じます」
そのやりとりを眺めながら、ふとセレスト第三王子殿下が視界に入って、その視線の先を追うと……男爵令嬢がいる。
ちょっとちょっとあんた。嘘でしょ? お願い嘘だと言って。と念じているとサラ第一皇女殿下が『スタングロム侯爵令嬢』と声を掛けられる。
「はい、何でしょうか?」
「そろそろ行きましょう? 他の生徒も寮へ連れて戻り始めているわ」
「そうですね。リリーももう戻って大丈夫?」
「えぇ。私は寮へ戻り次第、昼食の手配をいたします。サラ第一皇女殿下や、お付きの騎士様達の分も部屋へ運ばせますが、よろしいですか?」
「そうね、もう少しでお昼時だし」
ちらとサラ第一皇女殿下の方を窺うと、にこりと微笑んで同意の意を示してくださる。
「私はスタングロム侯爵令嬢と話しながら食事をとらせてもらおうかしら」
「では、そのように」
寮に戻ったら私の私室でサラ第一皇女殿下とお話しすること、騎士様達は共用のお部屋でお待たせすること、昼食の手配が終わったら皆さまにお茶をお出しすること、昼食が運ばれてきたら私室に持って来て欲しいことをリリーにお願いしてその場で別れた。
サラ第一皇女殿下とセレスト第三王子殿下もその場で少し言葉を交わして、また夕食の時にと言って別れられた。
寮の部屋に入ると早速、サラ第一皇女殿下を私室にお招きして席を勧める。リリーが戻るまでお茶もお出しできないことを詫びた。
「さすがはあなたの部屋ね。想像していた何倍も良い部屋だわ」
「ここが一番広い部屋のはずですから」
「男爵令嬢の部屋とは比べ物にならないわね。持参した調度品も多いのかしら?」
「えぇ、入寮する前に家の者が手配したものがほとんどですわ」
「そうよね。さすがに学生寮でこの豪華さは無いわよね」
今回、入学するにあたってはリリーという専属侍女がいることが大きな違いで、そのために過ごしやすい部屋にしてほしいと家令を継いだジェームズにお願いしていたため、前回の人生より寮の部屋が充実していることは確かである。
前回は侍女のジェーンであったり別の者が、休みを取りながら入れ替わっていた状態で、私が使用人の居心地なんて気遣うこともなかったし、侯爵家で私が大事にされていなかったからここまでではなかった。
本当に、色んなことが変わったなと考えていると、サラ第一皇女殿下が話題を変えた。
「じゃあ本題に入るわ。時間を浪費するのも嫌だし単刀直入に言うわね。……あなたは、前世の記憶があるわよね?」
私としては、知らないわよそんなのとしか思わない。突然ぶつかってきて勝手に転けて怪我しているのだ。そんなことに責任などこれっぽっちも感じない。
担任教師の話が終わり、解散を告げて出て行ったあと。私の元にウィリアムとルーカスがやってきた。
「お前、騒ぎになってたけど大丈夫か?」
「なによ、気付いてたなら助けに来なさいよ」
「俺らが行く前にサラ殿下が行ったんだよ。別に知らない振りをしたわけじゃない」
ウィリアムが気まずそうな顔をしている。いつものウィリアムだったらこんなの冗談だって分かりそうなものなのに。
「冗談よ。マーカスもAクラスだったのね。頑張ったじゃない!」
「あぁ、休み明けもここにいられるかは分からないけど」
「大丈夫だ。俺が勉強くらい見てやる。寮の部屋も隣だしな」
「あら、そうなの? 相変わらず仲良しね」
そんなことを話していると、前の席に座ったサラ第一皇女殿下がくるっと振り向かれた。
「ウィリアム、久し振りね。これから3年間よろしくね」
「サラ殿下、一年振りでしょうか。こちらこそよろしくお願いします。こっちは幼馴染みのルーカス・フォスター侯爵令息です」
「お初にお目にかかります。サラ第一皇女殿下と同じ学舎で過ごせますこと光栄に存じます」
そのやりとりを眺めながら、ふとセレスト第三王子殿下が視界に入って、その視線の先を追うと……男爵令嬢がいる。
ちょっとちょっとあんた。嘘でしょ? お願い嘘だと言って。と念じているとサラ第一皇女殿下が『スタングロム侯爵令嬢』と声を掛けられる。
「はい、何でしょうか?」
「そろそろ行きましょう? 他の生徒も寮へ連れて戻り始めているわ」
「そうですね。リリーももう戻って大丈夫?」
「えぇ。私は寮へ戻り次第、昼食の手配をいたします。サラ第一皇女殿下や、お付きの騎士様達の分も部屋へ運ばせますが、よろしいですか?」
「そうね、もう少しでお昼時だし」
ちらとサラ第一皇女殿下の方を窺うと、にこりと微笑んで同意の意を示してくださる。
「私はスタングロム侯爵令嬢と話しながら食事をとらせてもらおうかしら」
「では、そのように」
寮に戻ったら私の私室でサラ第一皇女殿下とお話しすること、騎士様達は共用のお部屋でお待たせすること、昼食の手配が終わったら皆さまにお茶をお出しすること、昼食が運ばれてきたら私室に持って来て欲しいことをリリーにお願いしてその場で別れた。
サラ第一皇女殿下とセレスト第三王子殿下もその場で少し言葉を交わして、また夕食の時にと言って別れられた。
寮の部屋に入ると早速、サラ第一皇女殿下を私室にお招きして席を勧める。リリーが戻るまでお茶もお出しできないことを詫びた。
「さすがはあなたの部屋ね。想像していた何倍も良い部屋だわ」
「ここが一番広い部屋のはずですから」
「男爵令嬢の部屋とは比べ物にならないわね。持参した調度品も多いのかしら?」
「えぇ、入寮する前に家の者が手配したものがほとんどですわ」
「そうよね。さすがに学生寮でこの豪華さは無いわよね」
今回、入学するにあたってはリリーという専属侍女がいることが大きな違いで、そのために過ごしやすい部屋にしてほしいと家令を継いだジェームズにお願いしていたため、前回の人生より寮の部屋が充実していることは確かである。
前回は侍女のジェーンであったり別の者が、休みを取りながら入れ替わっていた状態で、私が使用人の居心地なんて気遣うこともなかったし、侯爵家で私が大事にされていなかったからここまでではなかった。
本当に、色んなことが変わったなと考えていると、サラ第一皇女殿下が話題を変えた。
「じゃあ本題に入るわ。時間を浪費するのも嫌だし単刀直入に言うわね。……あなたは、前世の記憶があるわよね?」
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