勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環

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第三部(貴族学校入学編)

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「前世の記憶、でございますか?」

 これでも公爵夫人になると決め、努力してきた身である。どれだけ動揺していようとも素知らぬ顔で受け答えすることくらいはできる。

「あぁ、そういうのはいいの。私も切り出し方が悪かったわ。実は私も前世の記憶があるのよ。それであなたもそうだろうと思って、手を組みましょうと持ち掛けるつもりで近付いたの」

「……それは、内容によりますわ」

 サラ第一皇女殿下の仰ることが事実がどうか確かめる術はない。けれどこんな嘘を私につく必要もない。そもそもこんな突拍子もないことを言うということ自体、それが事実だと言っているようなものだ。

「『スミレが咲くたび君を想う』という乙女ゲームを知ってる?」

「スミレ、ですか? それに、オトメゲーム? どちらも存じ上げませんが……」

「えっ! ちょっと待って、前世が日本人じゃないパターンもあるの!?」

「ニホンジン? 何のことを仰っているのか私には全然分からないのですが」

 目の前で頭を抱えてブツブツ言っているサラ第一皇女殿下。『その発想はなかった』『作品を知らずにムソウしてる?』と聞こえてくるが、ムソウってどういう意味だろう。ヒュリゴの言語が完璧だと思っていたが、時折帝国語が混じるのだろうか? いや私だって帝国語はネイティブ並みに理解しているはずだがそんな文脈で出てくるムソウという言葉は知らない。

「ごめんなさい。もう少し、順序立てて話しましょう」

「えぇ、それがいいと思いますわ」

「ではまず、私のことから話すわ。私の前世は日本という国で、OLをしていた28歳の女性よ。紗良という名前はそのまま。乙女ゲームが好きで、その中でも一番好きだったのが、『スミレが咲くたび君を想う』というゲームだったのよ。『スミキミ』の舞台はヒュリゴ王立貴族学校だから、私はこれからの3年間に起こる出来事がおおよそ分かるわ」

「……ちょ、っと……仰る意味が……」

 知らない言語を聞いているみたいに、全く理解ができない。サラ第一皇女殿下は頷いて『そうみたいね』と言う。

「じゃあ、あなたの前世は?」

「私は前の人生も私でした」

「そうなの!? つまり、セレストの婚約者で、男爵令嬢を虐げた罪で平民落ちしたアドリアーナだったってこと!?」

「えっ、どうしてそのことを!?」

「そういう感じかー! 理解した!」

 一人で納得しているサラ第一皇女殿下。私は全く分からないのに。早く分かるように説明をしてほしいという思いを込めて見つめる。

「あ、ごめんなさい。……といってもどう説明したらいいか。もうここが乙女ゲームの世界じゃないってことは私も理解しているしね」

「まずそのゲームというのは?」

「恋愛シミュレーションゲームの目的は、プレイヤーがその世界のヒロインになって攻略対象の男性と恋に落ちて恋愛を楽しむというものね」

「そのゲームの舞台が、この貴族学校だと?」

「えぇ。ヒロインはあの男爵令嬢。攻略対象のメインヒーローはセレスト。あなたは悪役令嬢よ」

「悪役令嬢……?」

「ヒロインのライバルで、邪魔者。言ってしまえば恋のエッセンスね。ヒロインを虐げることで逆に二人の仲を強固にしてしまう。そして最後に断罪される役どころよ」

 まさに前回の人生での私である。
 どういうことか理解はできないが、サラ第一皇女殿下は前回の私の人生をゲームというものでシミュレーションして知っているということだ。

「ですが、今回の私はセレスト第三王子殿下の婚約者ではありません。それに、そんな私の運命を知っていながら、なぜサラ第一皇女殿下はセレスト第三王子殿下の婚約者になられたのですか?」

「あぁ、もう面倒だから私のことはサラでいいわよ。私もアドリアーナと呼んでいいかしら?」

「アドリアーナでもアニーでも構いません」

「敬語もいらないわ。さっき言ったように前世はOLなの。生粋の姫じゃないし、アニー相手に不敬だなんだとは言わないから」

「え、と……では、徐々に崩していきますわ」

「そうして。それで……」

 と、サラが話を戻そうとした時、私室のドアがノックされた。リリーがお茶を淹れてくれたのだ。
 喉の渇きを覚えていたので有り難く口にする。温かい紅茶を飲みながら一息つくと、混乱しきった頭も少し落ち着いたようだった。
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