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第三部(貴族学校入学編)
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サラがカップをソーサーに戻し、ふぅ、と小さく息を吐く。私もそれに倣ってカップを置いた。
「何の話だったかしら……あ、632年の3月12日に覚えはある?」
「その日は、私が子供に戻ったと認識した日です」
「やっぱりね。私が転生していると気付いた日でもあるわ。そして……ヒロインの6歳の誕生日であり、セレストと出会った日よ」
「え……っ!」
「あの二人は初恋同士という設定なの。6歳の時に出会って、入学した時に再会し、そしてまた恋をする。そういうストーリーよ」
そういう『ストーリー』と言われることに違和感を覚えるが、私の役どころと言って前回の出来事を言い当てられたあとでは何も言えない。
「え……で、では、サラはそれを知っていて、どうするつもりで婚約者に……?」
理解が追いつかない私と、落ち着き払ったサラ。また紅茶を一口飲み、ゆっくりとカップを戻す。
「私は、セレスト推しなのよ」
「お、オシ?」
「ちなみに同担拒否よ」
「ドウタンキョヒ……ですか」
聞いたこともない言葉である。おそらくサラの前世で生きていた日本という国の言葉だろう。『セレストのことを想う女が私の他に存在するのが許せないということよ』と説明されてようやく理解する。
私もアレクに関してはドウタンキョヒだ。
「転生して、自分が乙女ゲームの世界にいると気付いた時、ゲームではモブですらない存在であることに一度は絶望したけれど、帝国の第一皇女という身分を最大限に利用してやろうと思った。セレストはたかが第三王子だし、帝国の第一皇女に望まれて縁を結べるなんて有り難いことこの上ないでしょう?」
「それは、確かに……」
「確認だけれど、アニーはもうセレストのことはいいのよね?」
「私はノヴァック公爵家のアレキサンダー卿一筋で、この夏に婚約予定ですわ」
「そうみたいね。セレストに未練が無いなら何でもいいの。でも確か、ウィリアムの兄はもうすぐ行方不明になるはずよ?」
「……はい?」
さっきからサラが爆弾を連続投下しているが、今のは最大級だった。アレクがもうすぐ行方不明になるですって? 何を……と思った時、はたと気づく。
アレクが右腕を失ったのが25歳だったこと。つまり、今年である。
「夏期休暇までにウィリアムの好感度を一定数上げておかないとウィリアムは学校を退学してしまって攻略不可能になるのよね。夏期休暇中にお兄さんが行方不明になって、ウィリアムが持ち上がりで次期騎士団長と次期公爵になっちゃって、学校どころじゃなくなるのよ」
アレクが右腕を失うのは今年の夏? ……だから、10年も前からこの夏に婚約しようと言っていた? 未来で起こることを知っていたから? アレクも、私と同じく記憶があるというの?
「動揺しているところ悪いけれど、私はウィリアムのお兄さんのことは何も分からないし、今あなたと話したいことはその人のことじゃないの」
「……えぇ、分かっています。アレクのことはあとで手紙を書いて確認します。さっきの話だと、ウィリアムも攻略対象ということですね? セレスト第三王子殿下だけでなくウィリアムも男爵令嬢と恋をするのですか? 前回の人生ではそのような様子はなかったと思いますが」
「あなたの前世、一周目と呼ばせてもらうわね。一周目の男爵令嬢は何という名前だったか覚えてる?」
「それが、ぶつかった時も思い出そうとしたのですが思い出せなくて……男爵令嬢としか」
「デフォルト名のヒロインはもう存在しないということなのかしら?」
「と言いますと?」
「今の男爵令嬢ユウカは、私と同じ転生者で、まず間違いなく『スミキミ』のプレイヤーだったはずよ」
「何の話だったかしら……あ、632年の3月12日に覚えはある?」
「その日は、私が子供に戻ったと認識した日です」
「やっぱりね。私が転生していると気付いた日でもあるわ。そして……ヒロインの6歳の誕生日であり、セレストと出会った日よ」
「え……っ!」
「あの二人は初恋同士という設定なの。6歳の時に出会って、入学した時に再会し、そしてまた恋をする。そういうストーリーよ」
そういう『ストーリー』と言われることに違和感を覚えるが、私の役どころと言って前回の出来事を言い当てられたあとでは何も言えない。
「え……で、では、サラはそれを知っていて、どうするつもりで婚約者に……?」
理解が追いつかない私と、落ち着き払ったサラ。また紅茶を一口飲み、ゆっくりとカップを戻す。
「私は、セレスト推しなのよ」
「お、オシ?」
「ちなみに同担拒否よ」
「ドウタンキョヒ……ですか」
聞いたこともない言葉である。おそらくサラの前世で生きていた日本という国の言葉だろう。『セレストのことを想う女が私の他に存在するのが許せないということよ』と説明されてようやく理解する。
私もアレクに関してはドウタンキョヒだ。
「転生して、自分が乙女ゲームの世界にいると気付いた時、ゲームではモブですらない存在であることに一度は絶望したけれど、帝国の第一皇女という身分を最大限に利用してやろうと思った。セレストはたかが第三王子だし、帝国の第一皇女に望まれて縁を結べるなんて有り難いことこの上ないでしょう?」
「それは、確かに……」
「確認だけれど、アニーはもうセレストのことはいいのよね?」
「私はノヴァック公爵家のアレキサンダー卿一筋で、この夏に婚約予定ですわ」
「そうみたいね。セレストに未練が無いなら何でもいいの。でも確か、ウィリアムの兄はもうすぐ行方不明になるはずよ?」
「……はい?」
さっきからサラが爆弾を連続投下しているが、今のは最大級だった。アレクがもうすぐ行方不明になるですって? 何を……と思った時、はたと気づく。
アレクが右腕を失ったのが25歳だったこと。つまり、今年である。
「夏期休暇までにウィリアムの好感度を一定数上げておかないとウィリアムは学校を退学してしまって攻略不可能になるのよね。夏期休暇中にお兄さんが行方不明になって、ウィリアムが持ち上がりで次期騎士団長と次期公爵になっちゃって、学校どころじゃなくなるのよ」
アレクが右腕を失うのは今年の夏? ……だから、10年も前からこの夏に婚約しようと言っていた? 未来で起こることを知っていたから? アレクも、私と同じく記憶があるというの?
「動揺しているところ悪いけれど、私はウィリアムのお兄さんのことは何も分からないし、今あなたと話したいことはその人のことじゃないの」
「……えぇ、分かっています。アレクのことはあとで手紙を書いて確認します。さっきの話だと、ウィリアムも攻略対象ということですね? セレスト第三王子殿下だけでなくウィリアムも男爵令嬢と恋をするのですか? 前回の人生ではそのような様子はなかったと思いますが」
「あなたの前世、一周目と呼ばせてもらうわね。一周目の男爵令嬢は何という名前だったか覚えてる?」
「それが、ぶつかった時も思い出そうとしたのですが思い出せなくて……男爵令嬢としか」
「デフォルト名のヒロインはもう存在しないということなのかしら?」
「と言いますと?」
「今の男爵令嬢ユウカは、私と同じ転生者で、まず間違いなく『スミキミ』のプレイヤーだったはずよ」
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