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006 口説いていたらしい
しおりを挟む陳腐な言葉しか出てこなかったが、心底で俺は空中でのこの舞に感嘆とする他はなかった。
俺が感じていたことはきっと誰もがそう思っていたらしい。棒高跳びを飛び終えた高梨さんは、たちまちのうちに皆からの黄色い歓声に出迎えられていた。
その喧騒で揉みくちゃにされていた人だかりの後ろのほうから、スルリと出てきたばかりの人物がいた。そいつはなんと、制服姿の高梨さんだ。
俺がそこにいるとはまったくに気が付かないままで、換気で窓が開いた保健室の近くまでやってきて、そこで立ち止まってから独り言を呟き始めた。
「はー、張り切っちゃったわね。体を動かすことは、ほどほどにしておかないといけないのに」
「どうしてだ? ああ、ひょっとして病気持ちとかそういうやつか?」
「違うわよ、あれで病気も裸足で逃げ出すような健康優良児よ。私が心配してるのは、おっとり、、、ぎゃああっ!! 今朝の男子!」
「今朝はどうも。健康優良児からのプレゼントで、危うく死にかけた日向透です」
ビックリした制服姿の高梨さんに、ようやく人の輪から開放された、体操着の高梨さんがこちらへやって来た。
「もーちょっとこれはやり過ぎだよ。棒高跳びが好きなのはわかるけど、、、って、わきゃあッ! 死んじゃう人だ!」
「よう。死んじゃう人の日向透です。っておい、なんでやねん!」
しばしぼう然とすることになったが、先に我に返った制服姿の高梨さんが口を開く。
「日向くん、頭のほうはなんともないの?」
俺のボケツッコミは一蹴にされたようだ。
「ああどうやらね。痛みのほうはだいぶ治まったよ」
このときに俺は、ポニーテールをする制服姿の高梨さんが、棒高跳びをしていた高梨さんの姿と、どことなく不思議と重なって見えていた。
「ウーン、、、なあ、突拍子のないことを言い出すと自覚するけれど、もしかして棒高跳びをしていたのは君なのか? 高梨さん、、、いや理香さん」
言われると理香さんは一瞬、的を突いたように体をビクンと震わせた。
「なぜそう思ったのか、聞いても構わない?」
理香さんが肯定も否定もせずそれだけ言うと、俺は感じたことを率直に述べてみた。
「棒高跳びをする高梨さんがとても美しくみえたんだ。跳んでいる姿が眩しくて、ついほれぼれと見惚れてしまうほどにね。目の前にあるものが素晴らしいと感じ取ることを知ったよ。あのときの高梨さんと理香さんとは、髪型も同じだったけど、どうも不思議と重ねて見えてしまうんだよなあ、、、あと余計だけど、天女が羽衣を纏って降りてくるとしたら、こんな風に見えたのじゃないのかって思ったんだ、、、」
つらづらと話を続けているうちに、顔が赤くなっていく理香さんを見て、ハタと気がついた。おれはどうやら口説いているらしいと。
「あっあんた、ばっ、ばっかじゃないの! なによそれッ」
理香さんは真っ赤になってうつむいてしまった。どうやら恥ずかしいとすぐ顔に出すタイプのようだ。
彼女が黙って静かになってしまったので、俺は自分が今更ながらに恥ずかしくなってきて、さらに要らぬ燃料を投下をすることになった。
「し、仕方がないだろ。あのその、悪気はなくて、、、いまになって考えてみると、さきほどのはその、口説いているかんじになるのかなあって気がしてきて、、、あ、さらにゴメン、、、」
「もう! 言われなくてもわかっているわよ! べ、別にあやまらなくてもいいのに、、、もぅぅ」
俺が言い訳的に感想を述べたことで、理香さんはさらに首筋を赤くしながら、しまいには顔を背けてしまった。
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