聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

文字の大きさ
41 / 297

【38話】

しおりを挟む
 ルークがマロンから説明をうけていた頃。

 サイヒは舞台で大男と向き合っていた。
 
『さぁ、始まりました準決勝第2試合!謎の美少年冒険者《リリー・オブ・ザ・ヴァリー選手》VS鉄球を木球に持ち替えた元傭兵《ゾーズ・オイズター選手》!力と力の闘いは一体、どちらに勝利の女神が微笑むのかぁぁっ!!』

 ゴーーーーン

 銅鑼が鳴る。
 
 ゾーズの武器は木製のモーニングスターだ。
 木球にはとげが付いておりミッチリトと中身が詰まった木の球はかなりの重量を誇るだろう。
 熊のような体でゾーズは片手で軽々と木球を振り回している。
 モーニングスターの鎖の部分も木で作られている。
 木球の重さに砕けぬよう、ルールで認められる必要最低限として【強化】の魔術が木の鎖に付与されていた。

「どらぁっ!!」

 木球がサイヒめがけて飛んでくる。
 誰もが思い木球にサイヒの体の骨が砕けるのではないかと想像した。

 パァッン!

 木球が弾けた。
 サイヒが軽い裏拳で木球を破裂させたのだ。

「な、なにぃっ!?」

「ほぅ、中々の衝撃だったぞ?あの重さの木の球を振り回せるとは納得の力自慢だ。だが私の相手をするにはこの木球は玩具みたいなモノだな」

「なら鎖で絞殺してやる!」

 ブン!
 ブン!
 ブン!

 鎖を振り回し鞭のように使う。
 その鎖をサイヒは紙一重で避ける。
 動くのが面倒臭いのだ。
 大きな動きを己がせずとも、相手の攻撃を避けておけばそれなりに試合は盛り上がる。

(帝国の武道大会だと言うから楽しみにしていたのだが…決勝に進もうと言う者でもこのレベルか……)

 これなら”魔の森”で暴れる方がよほど運動になる。

 サイヒは分かっていなかった。
 この試合に出ている出場者は全員S級冒険者並みの力がある。
 帝国の最高峰、とまでは言わなくてもその人ありと呼ばれるくらいには名の通った武人たちだ。
 サイヒが規格外過ぎるだけである。

 ***

 この化け物と決勝で戦わなければいけないのか、とクオンは閲覧しながら胃をキリキリさせていた。
 全くもって厄介ごとを増やしてくれる主である。
 そしてネーミングセンスがない主である。
 ちょっぴりクオンはリングネームに不満を抱いているのだ。

 ***

「さてこれくらい盛り上げたら十分だろう」

 サイヒが鎖の動きを掻い潜り、ゾーズの懐に入った。 
 鳩尾に拳を入れる。
 前のめりになって体勢を崩したゾーズの顔に蹴りを入れた。

 ガウンッ!

 ゾーズの巨体が空中に浮かぶ。
 たっぷり滞空時間を取った後、ゾーズは舞台の上に倒れ落ちた。
 体がピクピク痙攣し、口の端から泡を吹いている。

「まぁ派手に見えただろう」

『勝者!《リリー・オブ・ザ・ヴァリー選手》!!!何という回避力!何という膂力!!決勝に進むのは《リリー・オブ・ザ・ヴァリー選手》に決定しました―――――っ!!』

「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ♡」」」」」」」

「リリー君カッコ可愛い♡」

「またこっちに手を挙げて~♡」

「へっ、優男が。俺はコーン・ポンタージュを応援するぜ!」

「ハァハァハァ美少年と仮面の貴公子!萌えますわ!!o^)┐コッソリ」

 観客席では《コーン・ポンタージュ》と《リリー・オブ・ザ・ヴァリー》のどちらが勝つかで盛り上がっている。
 1人は仮面で顔の上半分は見えないが、それでも美麗であることが分かる鍛えられた肉体の剣士。
 1人は中性的な美貌に華奢な体ながら、自らより1周りも2周りも大きな男を倒した謎の冒険者。
 盛り上がること間違いなしの勝負カードだった。

『さぁこれで決勝の対戦相手は決まりました!素早さを売りにした《コーン・ポンタージュ選手》と力の《リリー・オブ・ザ・ヴァリー選手》!はたして優勝するのはどちらかぁっ!?決勝は30分の休憩の後に始まります。選手のお2人も、会場の観客の皆様も今の間にご休憩をお取りください!!』

 :::

「ふぅ、決勝はクオンとか。まぁ楽しませて貰おう」

 サイヒは控室で冷えた果実水をストローで飲む。
 ストローとコップに冷却魔術を使っているので、良く冷えた果実水が体を冷やす。
 特に戦闘で体温が上がった訳では無いのだが、晴天の日差しを一身に受けたので多少暑い。

「ん?何故このタイミングでだ?」

 バァンッ!

 サイヒの控室の扉が開いた。
 相変わらず扉の鍵を閉めない癖が治らない。
 代わりに【物理結界】と【隠遁】の結界を張ってあるが。
 まぁそれもこの相手には意味をなさない。

「そんなに急いでどうしたルーク?」

「はぁ、サイヒ……」

 急いで来たのか汗を大量にかいている。

 【氷風】

 サイヒの指がルークを指すと冷たい風がルークを包んだ。

「はぁ、気持ち良い…」

「汗をかいただろう?熱中症になったら困る。私の飲みかけだが果実水だ飲むと良い」

 ぽんぽん、と自分の隣の席を叩いて座るよう促す。
 それに従いルークはサイヒの横に座った。

「口を開けろ」

「ん」

 微かに開かれたルークの口にサイヒが持っているグラスのストローを挿し入れる。
 
「んん~」
 
 チュウ、とストローを口に含み液体をすするルークはやたらと色気がある。

「最後までしっかり飲むんだぞ」

「ん」

 上目遣いでサイヒを見て、ルークはこくりと頷いた。

(可愛らしいな、このまま愛でたいがまだ試合が残っているので我慢か)

 サイヒは優しい目でルークを見ている。
 サイヒにとってルークを愛でる事は1番の幸せなのだ。
 可愛らしい半身の喜ぶ顔を見るのは途轍もなく満たされる。

「ぷはぁ」

 ルークがストローを離す。
 随分喉が渇いていたようで、グラスの中には水分は残っていない。

「落ち着いたか?」

「あぁ」

「で、何があった?」

「私の父親とカカン国の間でサイヒの取り合いが始まった」

「あぁやはり皇族席に居たのか、姉上とローズ様は」

 ピクリ!
 
 ルークが反応した。

「サイヒの元婚約者が今はサイヒの姉と婚約していると聞いたぞ?姉妹で嫁ぐ予定だぅたのか!?その婚約者の事をサイヒは今でも好きなのか!?」

「好きだぞ」

 フラッ

 ルークの体から力が抜ける。
 椅子から落ちそうになったのをサイヒの腕が捉え、サイヒの腕の中へルークの身が預けられた。

「だが私が今1番好きなのも、愛しているのもルークだけだ」

「サイヒ、其方と私の好きは違うと思う……」

「いや、同じだ。私はルークと交わり子を生したいと思うぐらいにはルークの事を愛しているぞ?」

「え…こ、ども……?」

「今までどんな異性にも思った事のない感情だ。私はお前の子を孕みたいと思っているよルーク。これはお前と違う好きなのか?」

「おなじ、スキ、だ……」

 ルークのエメラルドの目がどんどん潤みだし、白い頬が赤く染まる。

「え?何時から……?」

「まぁ、厳密にいえば最初に会った時からだな。私は好意のない異性に膝を貸してやるほど出来た人間ではないぞ?好きな男で無ければ密着するなんて御免だ。言うなれば一目惚れだな。私を信じてスヤスヤと子供のように眠るルークが可愛らしくて、その頃から自分のものにしたいと思っていた。自覚するまでに少々時間はかかったが…お前はどうなんだルーク?」

「私は、サイヒに癒されて。大切にされて、甘やかされて、色々な事を教えて貰って、全部捨ててサイヒのモノになりたいと思うくらいサイヒが好きだ!法術が使えなくてもいい!魔術が使えなくてもいい!戦闘がからっきしでもいい!サイヒが何の能力を持たなくても、私はサイヒのモノになりたい……」

「あぁ泣くな…あんまり泣かれると我慢が利かなくなる。何時も言っているだろう?あまり可愛い顔をするなと」

 ポロポロとエメラルドの瞳から零れる水の玉をサイヒは唇で受け止める。

「お前の全てを私にくれるのかルーク?」

「私の全てをサイヒに明け渡すから、サイヒの全てを私に貰い受けたい」

「私は今後カカンに係る気はない。なので貴族でも無ければ聖女でもない。私たちが結ばれるならルークは帝国を相手にしなければならんぞ?皇太子の座も捨てねばならんかもしれん」

「サイヒとなら戦える!それが我が親であっても!それにいざとなったら私はサイヒと一緒に入れるなら皇帝の座などに興味はない」

「ならいざと言う時は駆け落ちをしようかルーク。勿論ルークが私のモノになる時には後宮を廃止して貰うが良いな?正直、そう言う意味で言うなら後宮と言う場所は不満だらけだ。皆がお前の寵愛を受ける事を願っている。ライバルと言うほどではないが集る子虫は鬱陶しい。始末はちゃんとしてくれ」

「私の全てはサイヒのモノだ。後宮などいらぬ」

「ならば、病める時も健やかなる時も…私のモノであり続けるかルーク?」

「どんな時でも、私はサイヒから離れないと誓う!」

 ブワッ!!

 青銀とエメラルドの光が交じり合い、天に光の柱を飛ばした。

「ふむ、どうやら我々は半身であり、伴侶である事も神に認められたらしい」

「サイヒ、幸せにする…」

「ふふ、私は勝手に幸せになるからルークも私の隣で勝手に幸せになれ。2人で幸せになろう」

 サイヒの顔がルークに近づく。

(あぁ、キスだ。治療の為じゃない、ちゃんとしたキスされるのだな)

 サイヒとルークの唇が重なり合う。
 初めての恋のキスにルークは息すら碌に出来ない。
 それでも必死にサイヒの唇を、舌を追いかける。

「可哀想なルーク。私のような執念深い魔女に見初められて。もう逃げる事は叶わぬぞ」

「魔女がいらないと言っても地の果てまで追いかけるよ」

 蕩けた瞳で見つめ合い、2人は何度も口づけを交わした。

 :::

「何故!?何故サイヒの控室からサイヒの色と殿下の色の光の柱が上がっているんだ!?今度は何の誓いが神に認められたんだ!?もういい加減にしてくれ!…グフッ!!!」

 精霊眼を持つためクオンは嫌でも隣の控室の”誓いの光の柱”に気付いてしまった。
 そしてその色もはっきりと認識できる。
 その色から誰と誰が神に認められたかも分かってしまう。
 胃への負担の為軽い吐血をしてしまった。
 ポーションは飲めないと言うのに……。
 クオンは決勝戦を前にしてすでにメンタルはボロボロだった。
しおりを挟む
感想 1,137

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました

夏見ナイ
恋愛
伯爵令嬢リリアーナは、強大すぎる聖女の力を隠し「地味で無能」と虐げられてきた。婚約者の第二王子からも疎まれ、ついに夜会で「お前のような地味な女は不要だ!」と衆人の前で婚約破棄を突きつけられる。 全てを失い、あてもなく国を出た彼女が森で出会ったのは、邪悪な呪いに蝕まれ死にかけていた一人の美しい男性。彼こそが隣国エルミート帝国が誇る「氷の皇子」アシュレイだった。 持て余していた聖女の力で彼を救ったリリアーナは、「お前の力がいる」と帝国へ迎えられる。クールで無愛想なはずの皇子様が、なぜか私にだけは不器用な優しさを見せてきて、次第にその愛は甘く重い執着へと変わっていき……? これは、不要とされた令嬢が、最高の愛を見つけて世界で一番幸せになる物語。

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

処理中です...