聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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【66話】

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「これはこれはローズ様お久しぶりです」

 空間が歪んだのをローズが気付いた瞬間に、人を魅了するかのような甘いアルトの声が聞こえて来た。

「これはサイヒ、久しぶりだね。だが君は国を捨てた身だろう?一国の王太子の部屋に不法侵入するのは不味いんじゃないのかい?」

「心配ないく、既に【隠匿】と【遮断】の結界ははっている」

「それはえらく用意周到だな。ところで君と一緒に来ている2人の名は?1人はルクティエス皇太子で、そちらの従者は何と言うのかな?」

「俺はルーク様の近衛兵のクo…」

「名乗るなコーン!」

「はっ?」

「コチラの男はコーン・ポンタージュだ以後お見知りおきを」

「サイヒ、どう言うつもりだ?」

「名前を知られるのは魂の主導権を与えるのと同じだ。私には免疫があるしルークには背中に聖刻印を仕込んである。無駄に色事にうつつを抜かしていた訳じゃないぞ?マーキングの際には背中に法力でルーク個人に働く破邪結界を刻み込んである」

「なるほど、だからあの時魂の所有権を奪えなかったわけだ」

「私の半身を誰かの好きにさせるつもりは無いのでな」

 ニッコリとサイヒが笑う。
 だが目は笑っていない。
 整った顔をしている分、低く出された声と相まって非常に凄味がある。
 普段のサイヒとは違う様子にルークとクオンはゴクリと唾をのんだ。

「さて、ローズ様から出て貰おうか、混沌のモノ」

「何の事かな?」

「大した力はないみたいだな。魂と波長が合わせきれていない。中位、と言ったところか?」

「サイヒ、君の無駄話に付き合いうつもりh――――――――っ!!」

 何時の間にかサイヒの手に絡まっていた銀色の鎖の先がローズの胸に埋まっていた。

「なっ、にぃ――――っ!!」

「出ろ」

 グン、とサイヒが鎖を引っ張る。
 ローズの中から鎖で全身を縛られた漆黒の男が排出された。

「「なっ!?」」

 ルークとクオンが声をあげる。
 当然だろう。
 人間の中から人間が出て来たのだ。

「馬鹿な!アストラル体の吾輩に直接触れるなど!?」

「少々特異体質でな、私は直接アストラル体に触れる事が出来る」

「ば、バケモノか……」

「私をバケモノ扱いして良いのは姉上とローズ様だけだ。それをローズ様の口からお前如きが発したなど、許しがたい事この上ない」

 サイヒの冷たい眼が漆黒の男を睨みつける。
 その瞳の温度に男はガタガタ体を震わせた。

「サイヒ、何者だソレは!?」

「あぁ、一般的に『悪魔』と言われている存在だな。呼び名が無くては不便だな。お前の名は?」

「馬鹿か!悪魔が真名を簡単に名乗る訳が、グッウッッ!!」

 悪魔の喉が閉まる。
 サイヒが首を絞めつけてある鎖を引っぱったのだ。

「悪魔!?そんな神話上の生物なのかコレが!?」

 ルークが驚きの声をあげる。
 目の前の男は見た目は人間の男と変わりはない。
 黒いローブを着こみ、顔立ちもそこそこ整っている。
 人間と違う点があるとすれば背中に生えた黒い翼の存在ぐらいだろう。

「今は私の鎖で魔力を無効化しているからな。鎖を解いたらそれはそれは大暴れしてくれるだろう。その気になれば半刻で国を落とすぞ。良かったら見てみるか?」

「好奇心で動くのを止めろ馬鹿が!」

「うむ、流石は心友。ツッコミのタイミングもばっちりだ」

「こんな場でそんな話を引っ張り込むな!!」

 サイヒがあまりにも普段通りになったのでクオンも何時もの様に返してしまう。
 国を半刻で落とす悪魔の魔力の無効化。
 それがどれほどのモノか、平和な世で生きる現代人では想像もつかない。

「さて、呼び名が無いから不便だ。ルーク、コイツに名前を付けてくれ」

「わ、私が名付けるのか……では、烏のような羽があるから『カー君』で」

「うむ、ではお前は今から『カー君』だ。ルークがくれた名前だ大切にしろ」

「ふざけるな!何がカー君だ!!」

「黙って膝まづけカー君」

 ドスン

 黒の男…カー君が強制的に口を閉ざされて膝まづかされた。

「!!!!!」

「真名を上書きした。もうお前は『カー君』だ」

「名前の上書きっ!?アストラル体の吾輩にあの一瞬で真名の上書きを行っただと!?」

「名づけるセンスは無いのでな、名づけはルークに行って貰ったが…今のお前は真名を知られた無力な『カー君』と言う悪魔に過ぎない」

「馬鹿な馬鹿な馬鹿な!そんな非常識が許される訳!!吾輩にはれっきとしたカーテラ・ステラと言う名がある!」

「五月蠅い」

「ヒィッ!」

 カー君が怯えた声を出す。
 真名を知られ服従させられた悪魔は発言権など与えられない。

「さて、している事を話して貰おうか?」

「あ、あぁぁ…」

「消えるか?」

「話します!話しますので消さないで下さい!!」

「ではとっとと話せ」

「はいっぃ!」

 涙と鼻水と涎を垂らしながらカー君は惨めにも膝まづきサイヒに全てを伝える。

 曰く、サイヒが消えたのを確認した上位悪魔がカカンを乗っ取ることを決めた事。
 マーガレットの体にカー君の上司が憑依している事。
 破邪結界をマーガレットの法力を使い細工をしたこと。
 そしてその細工により、カカンの国民から一切の恐怖心を取り除いた事。
 現在、大陸の各国で悪魔による国盗りが行われつつあること。

 ルークの感じたカカンの平和過ぎる違和感は結界が細工された故のモノであった訳だ。
 人間から恐怖心や警戒心を取り除きじわじわと侵略する予定であったのだろう。

「姉上に譲渡した法力が多すぎたか…逆手に取られるとは思わなかったな……」

 流石にサイヒでもそこまでは読み切れなかった。
 だが悪魔などと言う神話上の生物が現れるなど誰が想像しようか?

 悪魔と魔族は違う。
 魔族は魔力因子が高い亜種族だ。
 それに反し悪魔は肉体を持たない純アストラル体の存在だ。
 力の強さは比べるまでも無い。
 下位の悪魔でも半日もあれば王国1つを簡単に滅ぼして見せるだろう。

 だが悪魔が現れたなどというのは歴史上、2度しかない。
 1度めは神話時代。
 2度めが1000年前だ。
 つまり破邪結界が作られる事となった事象だ。

 それでも1000年前に悪魔が現れたのはたった1人だ。
 国を、世界を乗っ取ろうなどと考える組織で動いた事例など無い。

「嫌な予感が当たったか…お前らの主は『魔王』の座を冠する者か?」

「そ、そうで、あ、りま、す…」

 怒りの為にサイヒの鎖を引っ張る力が強くなっている。
 それに苦痛を感じているはずのカー君はその事に怒りを見せる様子もない。
 真名を征服されるとはそう言うことなのだ。
 拒否権などは許されない。

「成程な、これで私が規格外の能力をもって生まれてきた意味が分かった。神様の気紛れと言う奴か…」

「は、はい!貴方様は神が魔王を討伐させるために様々な力を持ち生み出された『世界の抗体』です。ですから貴方様が居なくなったのと同時に我々は動き出しました。姉と元婚約者を支配すれば貴方様を無力化出来ると考えたのです」

「それは甘く見られたものだ。で、魔王は何処に居る?」

「それが、吾輩たちには行方は知らされておりません。この世界の何処かに、とかしか言いようが無いのです…ただ人間に転生して生まれている事しか把握しておりません」

「サイヒ、本当にそんな重大な事が起ころうとしているのか?そいつの戯言ではないのか?」

「残念ながら真実だ。真名を支配された悪魔は主に嘘は付けん。だがどの人間が転生体か分からないから片っ端から大国の上層部を堕としにかかっていた訳か…」
 
 クオンの問いにサイヒが答える。

「サイヒが…魔王を倒す英雄……?」

「あぁ、ルークの言う通りその様に生み出されたらしい。だが人を抗体にする力があれば魔王など現世に現れることぐらい神なら止めれたはずだ。私1人に世界の業を何とかしろとは、何とも腹立たしい。サクッ、と魔王を倒してその後に神殺しを行うとしよう」

「何でそうなる―――――――っ!!」

 ガフッ!

 サイヒの神殺し発言に、久しぶりにクオンは突っ込みながらも大量の吐血と共に床に倒れ込んでピクピクと体を痙攣させていた。
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