聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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そして全能神は愉快犯となった

【132話】

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「大変だ大変だ!」

 その日も【獅子の鉤爪亭】は賑やかだった。
 色んな人種が集まって、争いも無く皆で美味い酒を堪能していた。

「どうしたんだベイエイト、そんなに慌てて」

 常連のベイエイトがそそっかしいのはお馴染みだ。
 うっかり屋さんでお馴染みなのだ。
 そんなベイエイトが慌てて入って来ても動じる常連客などいない。

「ソレが、甘味処の【シャコレーゼ】の看板娘のクムリーちゃんが、伯爵様から求婚されてるらしいんだ!」

「何だそんな事か。良い話じゃないか、平民のクムリーちゃんが伯爵家に嫁げるなんて。貴族の仲間入りだぞ?」

 確かに平民の身で伯爵家に嫁ぐのなら貴族になれる。
 特に悪い話では無かった。

「その伯爵家に問題があるんだ!クムリーちゃんに求婚してるのは現当主で58歳のおっさんだぞ?しかも第65妃にしたいと言っているらしいんだ!」

「おいおい、クムリーちゃんは15歳だったよな…?」

「それより第65妃?初婚の娘が65妃?色ボケしすぎだろうその伯爵!」

「そんな女好きに伯爵と言えば…アック・ダイカーン伯爵か?」

「いやいやあのダイカーン伯爵はヤバいだろう?嫁いでから行方知れずになった側室が何人もいるって話じゃないか!?」

「屋敷の中でダイカーン伯爵しか入れない部屋があるらしいな」

「あぁ、開かずの間の話だろう?そこで若い娘をいたぶるのが好きなダイカーン伯爵がクムリーちゃんを!?」

「あんな可愛い女の子がそんな鬼畜野郎の手に落ちるなんて、どうにかならないのか…!」

 客たちはダイカーン伯爵の名が出た事で興奮し始めた。
 天界ではめったに居ない鬼畜な性癖の持ち主だ。
 比較的温和な天人の中でその性癖は際立っている。
 貴族と言う身分で若い娘を手籠めにすることもある、根からの悪党だ。
 王宮迄話しがあがらないのは、美味くその手前で話を潰しているからだ。
 いつの世も下の者が苦い汁を舐めさせられる。
 それは天界であっても変わらない。

 だが例外がある。
 暗行御史と言うものを知っているだろうか?

 神話時代、朝鮮,朝鮮王朝  時代に設けられた特命監察官の呼称だ。
 別称一別繍衣,直指。その身分は若い堂下官で必ずしも高官ではないが,国王から直接に視察内容を記した命令書を手交され,事目,馬牌  ,鍮尺をもって各地を探察し,郡県の守令などの非違を調べ,国王に直接復命するほか,場合によっては地方官に代って裁判もするなど強力な権限をもっていた。
 御史の起源はすでに高麗朝時代から存在するが,朝鮮王朝になって暗行御史の名称が生じた。暗行御史はその任務内容の性格から後期には党派争いの渦中に巻込まれることもあったが,制度としては朝鮮王朝末,高宗  時代まで存続した。
 有名な『春香伝』にも暗行御史の活動が記されている。

 現在の天界ではこの暗行御史が居るのだ。
 全能神が上まで上がってこない問題を知るために暗行御史の制度を設けたらしい。
 事実、暗行御史によって解決された事件も多々ある。

 だが、上に上がっている事件を解決しているのは何も暗行御史ばかりでない。
 上の者でも気紛れに王宮を抜け出して、街の平和を人知れず片付けている存在も居るのだ。

「今日はえらく賑やかだな?」

「おぉ、リリーさん!いや、これがちょっとした事件があってな」

「ふむ、私にも聞かせて貰えないだろうか?」

「リリーの旦那、聞いてくれよ!こんな酷い話があるかってもんだ!」

 ベイエイトがリリーに最初から懇切丁寧に説明する。

「ふむ、ダイカーン伯爵、な。上に上がらない様に話を途中で潰し私利私欲を貪る鬼畜か…放っておける話ではない。うら若き乙女がそんな好色爺の犠牲になるのは何とかせねばな……」

「せめて暗行御史様でも居てくれたら…」

「暗行御史、か…それを呼び寄せる時間も勿体ないな………」

「ん?リリーの旦那何か言ったかい?」

「いや、独り言だ。取り合えずベリーの果実酒と腹に溜まるモノを3品ほど用意してくれ。食べている間、良ければダイカーン伯爵の話も是非聞かせて頂きたいな」

「へい!聞いてくんなさいよ旦那!!」

 こうしてリリー・オブ・ザ・ヴァリーは己から渦中に飛び込もうとしているのであった。
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