243 / 297
2章
【215話】
しおりを挟む
地上からリリィ・オブ・ザ・ヴァリーの気配が亡くなった事を魔王は魔界で感じ取った。
リリィ・オブ・ザ・ヴァリーは魔王が唯一執着する存在。
どんなに美しい悪魔も。
どんなに頭が良い悪魔も。
どんなに魔力が強い悪魔も。
魔王は興味を示さない。
魔王は天界の御使いリリィ・オブ・ザ・ヴァリー以外には興味を示さないのだ。
リリィ・オブ・ザ・ヴァリーの香りに包まれて寝ていた魔王は覚醒する。
一体自分が求める相手は何処に消えた?
魔王はベッドから降りるとその白い体を正装で覆った。
黒を基調とした正装。
マントの留め金の部分の宝石は世にも珍しい青銀色。
こんな色の宝石などこの世に存在しない。
魔王が自ら作り出したのだ。
魔王は黒と青銀の色を好む。
己は雪の化身であるかのように白い髪と肌をしているのに。
何故その色を好むかは分からない。
これは魔王自身も分かっていないのだ。
他者が分かる筈が無い。
だがこの色を纏っていると、何か優しいものに包まれている気分になる。
きっと、リリィ・オブ・ザ・ヴァリーがこの色を纏ったらさらに美しくなるだろう。
その時は純白と銀糸とエメラルドをあしらった正装を着せてみたい。
それはこれ以上なくリリィ・オブ・ザ・ヴァリーに似合うであろうから。
「つぅっ………」
魔王は頭を押さえた。
ズキン、と頭が痛む。
一瞬意識を失いかけた。
その瞬間、リリィ・オブ・ザ・ヴァリーによく似た黒髪に青銀の瞳の少女が微笑むのが見えた。
「ー--ッ!!!」
魔王は叫んだ。
その少女の名前を。
叫んだつもりだった。
だがそれは声に出なかった。
少女の正体も名前も魔王は分からなかったからだ。
ただその少女が酷く大切なものだと言う事だけが魔王には理解できた。
夜の帳のような漆黒の長い髪。
海面を照らす光が反射したかのような青銀の切れ長の瞳。
あんな美しい存在を魔王は知らなかった。
いや、思い出せなかった。
知っている。
自分はあの少女を知っている。
何故思い出せない?
『ワスレロ』
何処からか思念が届く。
声にならない声。
頭の中にその声が響く。
『ソレハホロボスモノ…ヒツヨウナイキオク…………』
「…………黙れ」
『スベテワスレテスベテホロボセ』
「黙れぇぇぇっぇぇぇぇえぇぇっぇぇぇっ!!!」
ガシャ――――ッン
テーブルの上の水差しを腕を振るって落とす。
意識の無い魔王が初めて荒ぶった声を上げた。
何事かと執事が様子を見に来る。
「魔王様!大丈夫ですか!?」
「探せ!」
「な、何を、ですか…?」
「リリィ・オブ・ザ・ヴァリーをここに連れて来い!姿が似たものなど必要ない!あの者を、私の前に連れてくるのだ!一刻も早く!!」
エメラルドの瞳がギラギラと輝いていた。
ソレは狂気すら孕んだ光だった。
頭の痛みも、思い出せない少女も、不愉快な思念も。
リリィ・オブ・ザ・ヴァリーの存在があれば、あの香りに包まれてあの声で語りかけられたら全て忘れられる。
この日、初めて魔界の全土に魔王が怒りで落とした黒い雷で命を落としたものが続出したと言う。
そうして「魔王を怒らすべからず」と魔界の民は、魔王のその存在に憧れながらも恐れるようになるのであった。
リリィ・オブ・ザ・ヴァリーは魔王が唯一執着する存在。
どんなに美しい悪魔も。
どんなに頭が良い悪魔も。
どんなに魔力が強い悪魔も。
魔王は興味を示さない。
魔王は天界の御使いリリィ・オブ・ザ・ヴァリー以外には興味を示さないのだ。
リリィ・オブ・ザ・ヴァリーの香りに包まれて寝ていた魔王は覚醒する。
一体自分が求める相手は何処に消えた?
魔王はベッドから降りるとその白い体を正装で覆った。
黒を基調とした正装。
マントの留め金の部分の宝石は世にも珍しい青銀色。
こんな色の宝石などこの世に存在しない。
魔王が自ら作り出したのだ。
魔王は黒と青銀の色を好む。
己は雪の化身であるかのように白い髪と肌をしているのに。
何故その色を好むかは分からない。
これは魔王自身も分かっていないのだ。
他者が分かる筈が無い。
だがこの色を纏っていると、何か優しいものに包まれている気分になる。
きっと、リリィ・オブ・ザ・ヴァリーがこの色を纏ったらさらに美しくなるだろう。
その時は純白と銀糸とエメラルドをあしらった正装を着せてみたい。
それはこれ以上なくリリィ・オブ・ザ・ヴァリーに似合うであろうから。
「つぅっ………」
魔王は頭を押さえた。
ズキン、と頭が痛む。
一瞬意識を失いかけた。
その瞬間、リリィ・オブ・ザ・ヴァリーによく似た黒髪に青銀の瞳の少女が微笑むのが見えた。
「ー--ッ!!!」
魔王は叫んだ。
その少女の名前を。
叫んだつもりだった。
だがそれは声に出なかった。
少女の正体も名前も魔王は分からなかったからだ。
ただその少女が酷く大切なものだと言う事だけが魔王には理解できた。
夜の帳のような漆黒の長い髪。
海面を照らす光が反射したかのような青銀の切れ長の瞳。
あんな美しい存在を魔王は知らなかった。
いや、思い出せなかった。
知っている。
自分はあの少女を知っている。
何故思い出せない?
『ワスレロ』
何処からか思念が届く。
声にならない声。
頭の中にその声が響く。
『ソレハホロボスモノ…ヒツヨウナイキオク…………』
「…………黙れ」
『スベテワスレテスベテホロボセ』
「黙れぇぇぇっぇぇぇぇえぇぇっぇぇぇっ!!!」
ガシャ――――ッン
テーブルの上の水差しを腕を振るって落とす。
意識の無い魔王が初めて荒ぶった声を上げた。
何事かと執事が様子を見に来る。
「魔王様!大丈夫ですか!?」
「探せ!」
「な、何を、ですか…?」
「リリィ・オブ・ザ・ヴァリーをここに連れて来い!姿が似たものなど必要ない!あの者を、私の前に連れてくるのだ!一刻も早く!!」
エメラルドの瞳がギラギラと輝いていた。
ソレは狂気すら孕んだ光だった。
頭の痛みも、思い出せない少女も、不愉快な思念も。
リリィ・オブ・ザ・ヴァリーの存在があれば、あの香りに包まれてあの声で語りかけられたら全て忘れられる。
この日、初めて魔界の全土に魔王が怒りで落とした黒い雷で命を落としたものが続出したと言う。
そうして「魔王を怒らすべからず」と魔界の民は、魔王のその存在に憧れながらも恐れるようになるのであった。
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました
夏見ナイ
恋愛
伯爵令嬢リリアーナは、強大すぎる聖女の力を隠し「地味で無能」と虐げられてきた。婚約者の第二王子からも疎まれ、ついに夜会で「お前のような地味な女は不要だ!」と衆人の前で婚約破棄を突きつけられる。
全てを失い、あてもなく国を出た彼女が森で出会ったのは、邪悪な呪いに蝕まれ死にかけていた一人の美しい男性。彼こそが隣国エルミート帝国が誇る「氷の皇子」アシュレイだった。
持て余していた聖女の力で彼を救ったリリアーナは、「お前の力がいる」と帝国へ迎えられる。クールで無愛想なはずの皇子様が、なぜか私にだけは不器用な優しさを見せてきて、次第にその愛は甘く重い執着へと変わっていき……?
これは、不要とされた令嬢が、最高の愛を見つけて世界で一番幸せになる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる