男として育てられた公爵家の令嬢は聖女の侍女として第2の人生を歩み始めましたー友人経由で何故か帝国の王子にアプローチされておりますー

高井繭来

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 司教にその日会えなかったアンドュアイスはスニャートホンにてルークに連絡をした。
 司教はしばらく留守にするらしい。
 アンドュアイスの滞在は予想よりも長くなりそうだ。

「アンドュアイス様、ルーク様やサイヒと離れ離れで寂しくありませんか?」

 ルーシュが不安気に声をかける。
 現在夜の22時。
 神殿側で用意された客室を抜け出してアンドュアイスはルーシュと密会を行っていた。
 そこに色気のあるものでは無いが。
 ようは何時もの剣の打ち合いである。

「ん~とね、ルーシュが居るから平気だよ~」

 ニッコリと無邪気な微笑みを受かべるアンドュアイス。
 その無垢な笑顔にルーシュは赤面する。
 本当にアンドュアイスは質が悪い。
 皇族の皮を被っている時も女に対し雄としての異常な色香を放っているが、本来の無垢な笑顔も十分に人の内側に容易く入り込む質の悪い笑顔である。
 こんな顔をされて、どうして嫌う事が出来ようか?

「少し休憩しましょうか。お茶の用意をするのでアンドュアイス様は敷物の上に座っていて下さい」

「うん、お菓子もある?」

 コテリ、とアンドュアイスが小首を傾げる。
 大変に可愛らしい動作である。
 図体のデカい成人男性がしているのに何故にここまでその仕種が似合うのか…。
 こんな仕種を見せられて堕ちぬ女がどれだけ居ようか?

「主殿の番のフェロモンは罪作りなのじゃ」

「んなっ、私とアンドュアイス様は番じゃないぞ!」

「誰も主殿の番がアンドュアイス殿とは言っておらぬのじゃ」

 ドラゴンフェイスでニヤリとルインが笑う。
 その言葉にルーシュは耳まで真っ赤にした。

『ルーシュ、にーちゃと番になるなの?』

「うむ、オグリが妾と番になるよりは可能性は高そうじゃ」

『オグだってルインちゃんと番になるなの!頑張るなの!』

「そこまで求められると女名利につきるのじゃ。早く強うなれオグリ」

『見てるなの!オグ、すぐにルインちゃんより強くなるなの!!』

「グリフォンがドラゴンより強くなったと言う話は聞いた事は無いが、楽しみにしておるぞオグリ」

『任せてなの!オグ、すぐにルインちゃんより強くなってルインちゃん護れる男になるなの!』

 ルーシュはテイマーでは無いのでオグリの言葉は分からないが、ルインの言葉を聞いているに随分と向こうは進展しているらしい。
 何よりルインが中々に乗り気である。
 このままでは自分より早く使い魔が番持ちになってしまうかも知れない。
 ルーシュは危機感を覚えた。

「…て、ルインが私より早くオグリと番になっても問題ないだろう!?何を考えているんだ私!!」

 真っ赤にした顔をぶんぶんと横に振る。
 降り過ぎて若干眩暈がした。

「平常心平常心…多分色気づいたサイヒに当てられているだけだ。私は恋愛に何か興味ないぞ!
確かにルーク様とイチャついているサイヒは幸せそうだが、私みたいな男みたいにデカいうえ可愛くない女が良いと言う男なんている訳が…」

「何が良いっていうの~?」

 ひょい、とアンドュアイスがルーシュの顔を覗き込んだ。

「あわわわっ!」

「ルーシュ、顔紅いよ?お熱ある?」

 コツン、と額に額が当てられる。
 サイヒにデコピンを喰らってないのに額から煙が出る思いだった。

「ん~少し熱いね?今日は帰る?」

「大丈夫です!今帰ったら勿体ない!少し熱魔術の使い過ぎでのぼせただけですから!」

(って、勿体ないって何を言っているんだ私は~!!)

「そうだよね~、折角ルーシュと2人きりなのに、もうバイバイは勿体ないよね」

(アンドュアイス様のこの笑顔が悪い!サイヒ並みに誑しだこの人、女限定だけど!)

「でね、ルーシュ。僕はルーシュの背の高い所も嫌いじゃないし、顔だって可愛いと思うよ~」

 先程のルーシュの1人言はばっちり聞かれていたらしい。

「いや、でも私、男みたいじゃないですか!?」

「それ言ったらサイヒも男みたいだと思うけど?」

 宦官として後宮に潜り込んでいたのだ。
 確かにサイヒも十分男らしい。

「でもサイヒは美形ですし!」

「サイヒは綺麗だけど、ルーシュは可愛いよ?」

 ボンッ、とルーシュの顔が赤くなる。
 茹蛸状態である。

「それにね、僕サイヒの目の色も好きだけど、ルーシュの黄色の目も好き。秋に実る稲穂の色だね。髪の色も春の芽吹いてきた葉の色で綺麗だと思うよ?ルーシュは恵みの女神様みたいだねー」

「アンドュアイス様、も、止めて下さい…」

 クタリと腰が抜けてしまった。
 甘いテノールボイスで何と言う口説き文句を言うのだ、この男は。
 自覚せずにやっているから質が悪い。

「止めるって何を?僕へんなことした?」

「いえ、その…」

「ん~?ルーシュ打ち合いで疲れた?じゃぁ僕がお茶の用意するね。マロンちゃんに教えて貰ったから上手だよ~」

 言うが早いかティーセットをアンドュアイスはルーシュの手から奪い、カップに茶を注ぎだした。
 手慣れた手つきとは言い難いが、確かに様にはなっている。
 と言うか、何をしても様になる男なのである。

(本当に…質が悪い……)

 楽しそうに茶の用意をするアンドュアイスの横顔を見ながら、ルーシュは胸の鼓動が何時もより早くなるのを自覚した。
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