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その日フレイムアーチャの神殿は落ち着きなく皆が騒いでいた。
大帝国より使者が来ると言うのだ。
それも王位継承権第2位の王家の者だ。
”あわよくば”
普段から男っ気のない修道女たちが浮き立つのも仕方ないだろう。
神に身を捧げるため修道女になった者もいるが、大抵は職業適性があったから、と言う者も多い。
神官たちは何処か頼りない。
女心を擽らないのだ。
男の身で神に全てを捧げる者。
そう、雄の匂いがしないのだ。
年を取った者なら気にもならないが、まだ若い10代や20代、ともすれば30代から40代の者迄心此処に在らずと言った様子だ。
まだまだ子供を産める雌の性か。
そして玉の輿に乗りたい。
まだ婚姻を結んでいないところか、婚約すらしていない大帝国の王族は肉食獣の前に差し出された生贄とすら思えてくる。
相手は25歳の美丈夫。
有能で剣の腕、法術の腕迄立つのだと言う。
飢えた女たちが目を血走らせているのも仕方が無かった。
:::
「アンドュアイス・システル・ガフティラベルだ。忙しい時期に申し訳ない。今日はこちらの司教にお目通りを願いたく散じました」
ざわっ
金糸の髪に碧い眼。
男らしい凛々しい美貌。
長身に鍛え抜かれた体。
アンドュアイスからは、まさに修道女たちが飢えていた雄の匂いをさせた男だった。
女の本能に訴える色香を放っている。
男に慣れていない修道女たちはその色香に我を忘れた。
目が完全に発情期の獣の目だ。
”あの雄は自分の物だ!”
誰もが視線でそう訴えている。
修道女どころか一部の神官迄その目をしていた。
そして神殿で2番目の地位を持つ聖女もアンドュアイスに魅了された。
「アンドュアイス様、司教様は今席を外しております。半刻ほどで戻られるので、どうぞ応接室の方でゆっくりくつろいでいて下さい」
幼い顔の下に欲望の色を纏わせた聖女が、いち早くアンドュアイスを連れ出そうとした。
「聖女様、私がお茶の用意をします!」
「お茶菓子を用意しますわ!」
「では私は神殿の説明を!」
我先にとアンドュアイスの傍に居ようと女たちが姦したてる。
「そこの若葉色の髪のメイド。其方に私の世話を頼もう。他の者は良い、下がっていてくれ」
アンドュアイスは1人のメイドを指名した。
若葉色の短めの髪に稲穂色の瞳。
背の高いメイドだった。
神殿に置いて、その少女は異質な存在感だった。
アンドュアイスの言葉に苦虫を噛みつぶしたような表情をしたメイドは、次の瞬間には笑顔を浮かべる。
「承知いたしましたアンドュアイス様、私が歓迎を申し上げさせていただきます」
見本のような礼をして、少女…ルーシュ・サウザント・ドラゴニアはアンドュアイスを応接室へと案内するのだった。
:::
「ル~シュ~、怖かったよう~」
グスン、と鼻をすするのは先程女たちを魅了した絶品の雄だ。
アンドュアイスは眦に涙を浮かべ、泣き出す前の子供のような顔でルーシュに抱き着いた。
「はいはい、頑張りましたねアンドュアイス様。折角用意したので紅茶とクッキーを召し上がって下さいな」
「うん、食べる」
ちょこん、と椅子に腰かけたアンドュアイスはルーシュの言葉に従って紅茶を口に含みクッキーを齧る。
「美味しいですか?」
「うん、僕ここのクッキー好きだよ。でも女の人みんな香水の匂いとかして気持ち悪かったの…」
思い出したのかアンドュアイスは涙ぐむ。
「普段は香水なんて付けない人たちなんですけどねぇ…よほどアンドュアイス様の気を引きたかったのでしょう」
「僕の気を引いてどうするの?」
「玉の輿狙いってやつです」
「玉の輿?僕と結婚したいの?なんで?」
「鈍感な主を持ってオグリは不憫ですね」
ルーシュが呆れた顔をした後、クスクスと笑った。
それにアンドュアイスはぷくっと頬を膨らませる。
「僕とオグリは仲いいもん!ルーシュのイジワルー」
「はいはい、御免なさいですよ~」
ルーシュがワシャワシャとアンドュアイスの頭を撫ぜる。
毎夜の剣の打ち合いで随分と2人の距離は縮まっているらしい。
「でも僕はあんな香水の匂いが臭い怖い人たちと結婚したくない!どうせなら一緒に居て楽しいルーシュとなら結婚するほうがいいもん!」
「へあっ!?」
「あ、でも結婚は男が女を守れるくらい強くないと駄目なんだっけ?オグリが言ってたもんね、ルインちゃんより強くなるって…じゃぁ僕まだルーシュに1本取られる事あるから、まだ結婚できないねー。早く絶対負けない様になりたいなー」
ニコニコ笑うアンドュアイスの無邪気さに、流石にルーシュも赤面せざるをえなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
フレイムアーチャの質の悪いモノの始末はアンドュアイスとルーシュのお仕事です。
オグリとルインも合流予定。
神殿側にざまぁの準備です(*´▽`*)
大帝国より使者が来ると言うのだ。
それも王位継承権第2位の王家の者だ。
”あわよくば”
普段から男っ気のない修道女たちが浮き立つのも仕方ないだろう。
神に身を捧げるため修道女になった者もいるが、大抵は職業適性があったから、と言う者も多い。
神官たちは何処か頼りない。
女心を擽らないのだ。
男の身で神に全てを捧げる者。
そう、雄の匂いがしないのだ。
年を取った者なら気にもならないが、まだ若い10代や20代、ともすれば30代から40代の者迄心此処に在らずと言った様子だ。
まだまだ子供を産める雌の性か。
そして玉の輿に乗りたい。
まだ婚姻を結んでいないところか、婚約すらしていない大帝国の王族は肉食獣の前に差し出された生贄とすら思えてくる。
相手は25歳の美丈夫。
有能で剣の腕、法術の腕迄立つのだと言う。
飢えた女たちが目を血走らせているのも仕方が無かった。
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「アンドュアイス・システル・ガフティラベルだ。忙しい時期に申し訳ない。今日はこちらの司教にお目通りを願いたく散じました」
ざわっ
金糸の髪に碧い眼。
男らしい凛々しい美貌。
長身に鍛え抜かれた体。
アンドュアイスからは、まさに修道女たちが飢えていた雄の匂いをさせた男だった。
女の本能に訴える色香を放っている。
男に慣れていない修道女たちはその色香に我を忘れた。
目が完全に発情期の獣の目だ。
”あの雄は自分の物だ!”
誰もが視線でそう訴えている。
修道女どころか一部の神官迄その目をしていた。
そして神殿で2番目の地位を持つ聖女もアンドュアイスに魅了された。
「アンドュアイス様、司教様は今席を外しております。半刻ほどで戻られるので、どうぞ応接室の方でゆっくりくつろいでいて下さい」
幼い顔の下に欲望の色を纏わせた聖女が、いち早くアンドュアイスを連れ出そうとした。
「聖女様、私がお茶の用意をします!」
「お茶菓子を用意しますわ!」
「では私は神殿の説明を!」
我先にとアンドュアイスの傍に居ようと女たちが姦したてる。
「そこの若葉色の髪のメイド。其方に私の世話を頼もう。他の者は良い、下がっていてくれ」
アンドュアイスは1人のメイドを指名した。
若葉色の短めの髪に稲穂色の瞳。
背の高いメイドだった。
神殿に置いて、その少女は異質な存在感だった。
アンドュアイスの言葉に苦虫を噛みつぶしたような表情をしたメイドは、次の瞬間には笑顔を浮かべる。
「承知いたしましたアンドュアイス様、私が歓迎を申し上げさせていただきます」
見本のような礼をして、少女…ルーシュ・サウザント・ドラゴニアはアンドュアイスを応接室へと案内するのだった。
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「ル~シュ~、怖かったよう~」
グスン、と鼻をすするのは先程女たちを魅了した絶品の雄だ。
アンドュアイスは眦に涙を浮かべ、泣き出す前の子供のような顔でルーシュに抱き着いた。
「はいはい、頑張りましたねアンドュアイス様。折角用意したので紅茶とクッキーを召し上がって下さいな」
「うん、食べる」
ちょこん、と椅子に腰かけたアンドュアイスはルーシュの言葉に従って紅茶を口に含みクッキーを齧る。
「美味しいですか?」
「うん、僕ここのクッキー好きだよ。でも女の人みんな香水の匂いとかして気持ち悪かったの…」
思い出したのかアンドュアイスは涙ぐむ。
「普段は香水なんて付けない人たちなんですけどねぇ…よほどアンドュアイス様の気を引きたかったのでしょう」
「僕の気を引いてどうするの?」
「玉の輿狙いってやつです」
「玉の輿?僕と結婚したいの?なんで?」
「鈍感な主を持ってオグリは不憫ですね」
ルーシュが呆れた顔をした後、クスクスと笑った。
それにアンドュアイスはぷくっと頬を膨らませる。
「僕とオグリは仲いいもん!ルーシュのイジワルー」
「はいはい、御免なさいですよ~」
ルーシュがワシャワシャとアンドュアイスの頭を撫ぜる。
毎夜の剣の打ち合いで随分と2人の距離は縮まっているらしい。
「でも僕はあんな香水の匂いが臭い怖い人たちと結婚したくない!どうせなら一緒に居て楽しいルーシュとなら結婚するほうがいいもん!」
「へあっ!?」
「あ、でも結婚は男が女を守れるくらい強くないと駄目なんだっけ?オグリが言ってたもんね、ルインちゃんより強くなるって…じゃぁ僕まだルーシュに1本取られる事あるから、まだ結婚できないねー。早く絶対負けない様になりたいなー」
ニコニコ笑うアンドュアイスの無邪気さに、流石にルーシュも赤面せざるをえなかった。
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フレイムアーチャの質の悪いモノの始末はアンドュアイスとルーシュのお仕事です。
オグリとルインも合流予定。
神殿側にざまぁの準備です(*´▽`*)
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