男として育てられた公爵家の令嬢は聖女の侍女として第2の人生を歩み始めましたー友人経由で何故か帝国の王子にアプローチされておりますー

高井繭来

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本編で語られなかったイチャラブ事情

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 目が覚めると白い天井が視界に入った。

「知らない天井だ」

 ルーシュは何故自分が知らない部屋で寝ていたのか思考を手繰る。
 そうだ、アンドュアイスの色気にやられたのであった。
 気を失ったが鼻血を出さなかっただけ褒めて欲しいものだ。
 それほど色気の塊なのである、ルーシュの婚約者のアンドュアイスと言う男は。

 色気の塊の純度とオーラのデカさで言えば、どこぞの心友の方が強烈なのだが、あいにくと心友の色気はルーシュには効かない。
 だから心友をやっていられるとも言う。

 そんなルーシュにとって、今の1番の難関はアンドュアイスである。

 保護犬モードも可愛いが、人前にいる時の皇太子モードは本当に…ほんっとうに、イイ男なのだ。
 顔も声もスタイルも洗礼された動作も、何もかもが特一級品。
 男も女も落としまくる。
 皇太子オーラが凄いので言い寄ってくるような自分の身の丈を顧みない者は多くないが、兎に角あちらそこらで人を魅了してしまうとんでもない人物なのだ。

 付け加えるなら法術が使えて聖獣を使い魔にしていて頭が切れて剣の腕も超一流。
 文句の付け所が無い。

(う”~~~~アンドュ様の色気にまだなれないんな私…………)

 仕方ない、相手が悪すぎる。

 その強敵アンドュアイスはルーシュの手を握ってベッドの端を枕にして座ったまま寝ていた。
 ずっとこの体制だったようだ。
 服の皺のつき方なんかでルーシュはそれを悟った。
 元フレイムアーチャの聖騎士団の騎士だったルーシュである。
 少しの情報から物事を知るための能力は常人より格段に高い。

(ずっと、手を握っててくれたんだ………)

 頬が上気する。
 だってこんなにも態度でルーシュが好きだと訴えてくる。
 こんな上質な男が小娘のルーシュに。

 短いけどサラサラの金糸の髪が綺麗だ。
 伏せられた相貌を縁取る睫毛も同じ金糸。
 量が多くて長い。
 女として負けた気がする。
 決してアンドュアイスは女性じみた顔はしていないのだが、綺麗に性別は関係ないらしい。
 す、と通った鼻筋。
 閉じられた唇は薄いけど形が良い。
 唇に艶があって、思わず触れたくなる。

(て、何を考えてる私!!)

 思わず己を叱咤するルーシュである。
 でも握られている手が気持ち良い。
 アンドュアイスの体温は普段はルーシュより低い。
 ルーシュの方が子供体温なのである。
 それでも長い時間握られた手は、お互いの体温が交じり合って心地良い温度になっている。

 その手を見る。

 剣を握るのに節くれだってない綺麗な手。
 でも女の手とは違う大きな手。
 爪の形も整っていて、綺麗な桜色をしている。
 女に生まれて来ていたら傾国の美女と呼ばれたであろう。

 いや、男でも十分傾国の素質はあるが………。

(どうしよう?ここ、お店の部屋だよな、早く出た方が良いんだろうけど。う~んこんな気持ちよさそうに寝ているアンドュ様起こしたく無いなぁ…あ~私の頭恋愛脳だ。またサイヒに馬鹿にされる出来事が1つ増えたよ………)

 多分様子を覗き見しているであろう、世界で1番偉い全能神の意地悪な笑みを思い浮かべてルーシュは少しげんなりした。
 まぁ見られたものはしょうがない。
 いかにしてアンドュアイスを起こすか?
 少し肩を揺すってみる。

 う~ん、と可愛い声を出して起きる様子はない。

「アンドュ様、起きて下さい」

 声をかけると長い睫毛がふるりと震えた。
 ゆっくりと瞼が持ち上がる。
 夏の青空のような瞳が現れる。
 息を飲むほどその碧は深い。

「ルーシュだぁ、おはょ…………」

 少し下っ足らずな声でルーシュを呼んで、アンドュアイスは蕩けた微笑を浮かべた。

 ガタガタガタガタガタガタッ!!

 外で色んなものが倒れる音がした。
 アンドュアイスを覗き見している輩が大勢いたのだろう。
 そりゃこんな綺麗なモノ見れる事なんてそうそう無いし、覗き見したくなる気分はルーシュにも分かる。
 分かる、が、一体何人覗きに来ていたのだろうか?
 天井からも音が聞こえたのは幻聴だと思いたい。

「アンドュ様、お城行きましょう?」

「ぅん、いこぉ」

「ん”ん”っ!」

 アンドュアイスの可愛い寝起きの愛らしさに耐えたルーシュは偉い。
 廊下や天井ではまたガタガタと音が鳴っている。

(迂闊に気絶しないように気を付けよう…アンドュ様の身が心配だわ……………)

 アンドュアイスがいくら強くて頭が切れても、こんな純粋な生き物誑かすのは簡単であろう。
 アンドュアイスの身は己が守らなくては、と心の中で力強く決心するルーシュなのであった。
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