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その『声』はあまりに眩しい
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薫自身が聴覚過敏症を患っていることは知っていた。小学生の頃にあまりに馴染めない中、会話にも参加していないのに毎日音という音に呑まれていた。沢山の大きすぎる雑音に。
(教室の中がうるさい。お昼の放送なんていらない。頭が痛くなっちゃうじゃん……)
ただ、耳が良いだけなら良かった。けど、それにしては症状が違いすぎたらしい。耳について検査をするきっかけになったのは、さっき目覚める前に夢で見た体育の授業中に倒れたことでだ。
聴覚過敏症と直ぐに診断され、病院に通う事になり、治療の一つとしてイヤーマフを常につけて生活するようにもなった。イヤーマフの効果は凄まじかった。入ってくる音が小さくなり、余計な雑音も少しは遮断してくれたそのイヤーマフによって、以前より断然に生きやすくなったことに驚いた。これだったら『普通』の生活が出来るかもしれない。『普通』の音を感じて生きていけるかも。
なのに、幾度病院へ行き検査をしようとも症状は良くならなかった。そう簡単に治るとは思わなかったが想像以上に症状がちっとも良くならず、これはどれだけ治療してもこのイヤーマフの状態以上に良くはならないんだとだんだん理解をしてきて、思春期を迎えた薫はいつの日からか通院することも治すこともを辞めてしまっていた。
「一度、そのイヤーマフを外してもらえる?」
医者が薫に小さく言った。
治らないと思い続けていたこの病気が一人の青年の声と出会い、ブレが生じている。先の見えなかった治療に本当に微かな一筋の光が途切れ途切れだが薫に射している。
「はい」
耳の覆いが無くなると一気に聞こえる雑音。病室にいる誰も話などしていないのに、何が鼓膜を震わせるのか。手を耳に当てようとした瞬間だ。
「薫くん」
彼の声が響いた。声によって揺さぶられ、雑音が消し去った。
心にスッと入ってくる彼の心地よい声だ。
「俺の名前、悠生(ユイ)って言うんだ。よろしくね」
悠生の方へ顔を向ける。瞳孔が開いて驚く薫に悠生は「ん?」と首を傾げる。
「悠生……」
「そう。気軽に呼んでね」
ニッコリと微笑むその歌うたいは、この時はっきりと薫に希望を与えた。眩しくて目を向けられない。なのに心に入ってくる声だけは、不快も歯痒さも胸苦しさも無く、これまで聞いたどの音よりも澄んでいて心地良く優しく……幸せだった。
「悠生の声、なんでそんなに優しいの?」
「優しい…?なんでって言われると、分かんないなぁ……。そんなの初めて言われたから、なんか嬉しい」
心地良い理由は分からなかった。医者は彼らの会話を聞いて、薫の反応や動作を診ている。
「薫くんの声も素敵だと思うよ?低くて落ち着いていて、こう……声が耳にストンと入ってくるね」
(そういえば俺の声ってこんなんだったっけ……)
小さい頃からあまり話さなかった。
周囲の声が五月蝿いと思い始めた頃、自分の声も五月蝿いと感じるのではと、出せる声を出さないようにしていた。段々と会話をする機会も減っていき、遂には話すことを辞めていた。
「自分の声、久しぶりに聞いた気がする……」
声にならない苦しむ声しか出してなかった。助けてと暗闇を藻掻くしか出来ない叫びしか出せなかった。何も考えず自然と喉を通して『声』を出し、鼓膜を震わせる事が出来るなんて夢にも思っていなかった。
「じゃあ、これからは俺ともっと話してみようよ」
薫に向けられたその言葉が信じられないほど輝いていて、思わず目を細めて泣きそうな顔を伏せるように大きく頷いた。
(教室の中がうるさい。お昼の放送なんていらない。頭が痛くなっちゃうじゃん……)
ただ、耳が良いだけなら良かった。けど、それにしては症状が違いすぎたらしい。耳について検査をするきっかけになったのは、さっき目覚める前に夢で見た体育の授業中に倒れたことでだ。
聴覚過敏症と直ぐに診断され、病院に通う事になり、治療の一つとしてイヤーマフを常につけて生活するようにもなった。イヤーマフの効果は凄まじかった。入ってくる音が小さくなり、余計な雑音も少しは遮断してくれたそのイヤーマフによって、以前より断然に生きやすくなったことに驚いた。これだったら『普通』の生活が出来るかもしれない。『普通』の音を感じて生きていけるかも。
なのに、幾度病院へ行き検査をしようとも症状は良くならなかった。そう簡単に治るとは思わなかったが想像以上に症状がちっとも良くならず、これはどれだけ治療してもこのイヤーマフの状態以上に良くはならないんだとだんだん理解をしてきて、思春期を迎えた薫はいつの日からか通院することも治すこともを辞めてしまっていた。
「一度、そのイヤーマフを外してもらえる?」
医者が薫に小さく言った。
治らないと思い続けていたこの病気が一人の青年の声と出会い、ブレが生じている。先の見えなかった治療に本当に微かな一筋の光が途切れ途切れだが薫に射している。
「はい」
耳の覆いが無くなると一気に聞こえる雑音。病室にいる誰も話などしていないのに、何が鼓膜を震わせるのか。手を耳に当てようとした瞬間だ。
「薫くん」
彼の声が響いた。声によって揺さぶられ、雑音が消し去った。
心にスッと入ってくる彼の心地よい声だ。
「俺の名前、悠生(ユイ)って言うんだ。よろしくね」
悠生の方へ顔を向ける。瞳孔が開いて驚く薫に悠生は「ん?」と首を傾げる。
「悠生……」
「そう。気軽に呼んでね」
ニッコリと微笑むその歌うたいは、この時はっきりと薫に希望を与えた。眩しくて目を向けられない。なのに心に入ってくる声だけは、不快も歯痒さも胸苦しさも無く、これまで聞いたどの音よりも澄んでいて心地良く優しく……幸せだった。
「悠生の声、なんでそんなに優しいの?」
「優しい…?なんでって言われると、分かんないなぁ……。そんなの初めて言われたから、なんか嬉しい」
心地良い理由は分からなかった。医者は彼らの会話を聞いて、薫の反応や動作を診ている。
「薫くんの声も素敵だと思うよ?低くて落ち着いていて、こう……声が耳にストンと入ってくるね」
(そういえば俺の声ってこんなんだったっけ……)
小さい頃からあまり話さなかった。
周囲の声が五月蝿いと思い始めた頃、自分の声も五月蝿いと感じるのではと、出せる声を出さないようにしていた。段々と会話をする機会も減っていき、遂には話すことを辞めていた。
「自分の声、久しぶりに聞いた気がする……」
声にならない苦しむ声しか出してなかった。助けてと暗闇を藻掻くしか出来ない叫びしか出せなかった。何も考えず自然と喉を通して『声』を出し、鼓膜を震わせる事が出来るなんて夢にも思っていなかった。
「じゃあ、これからは俺ともっと話してみようよ」
薫に向けられたその言葉が信じられないほど輝いていて、思わず目を細めて泣きそうな顔を伏せるように大きく頷いた。
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