猫の花屋さん

そらいろ

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 その日は朝から空が暗く、花屋の開店時間になった時には雨が降り始めていた。徐々に強くなっていった大粒の雨はアスファルトに打ちつけられて、水滴の集まりをあちこちに広げていく。

(少し、寒い……)

 雨のせいで冷たくなった花屋の床に寝そべり出来るだけ身体を小さくして、自身の体温で温かさを保つ。
 室内でこれだけ寒いんだから、外はもっと震えるほど気温が下がっているんだろう。と頭の中で思いながらも時計をチラリと見た。時間なんて分からない。ただ俺は、短い針と長い針が決まった位置になると彼が現れると知っているだけ。

(あ。もうすぐ来る)

 寝ている場合では無いと、すぐに起き上がりドアガラス越しに外を見た。

(え……?) 

 いつもの男の子は、頭からずぶ濡れだった。
 傘を持っている様子も無い。
 それでもいつもと変わらず花を見つめていた。優しい表情で。
 あまりに心配になった俺は、重たいドアガラスの側へ行き、カリカリと爪を立てて扉を開けるように音を鳴らす。
 彼は、やっぱり僕に気づかない。
 彼の周りの地面はポタポタと彼から落ちる水滴で染みを作っていた。

(このままじゃ風邪、引いちゃう……)

「ふんにゃぁー!!」

 大きく喉を動かし、鳴き声を出す。
 すると、すぐに奥からパタパタと飼い主である店主がやってきた。俺が大きな鳴き声を出すなんて珍しいものだから、様子が気になったのだろう。

「なに?どうしたの?」

 やってきた店主は、扉の外から花を見る少年にすぐ気づいた。

「え。ちょっと、びしょ濡れじゃない!」

 あまりに雨に打たれて濡れている彼を見て、店主は慌てて扉を開ける。カラカランと荒々しく鈴は音を奏でた。
 それでも、彼は店主にまったく気づいていない。

「ねぇ、君。とりあえず中においで?」

 濡れた服を纏う彼の肩に店主がそっと手を掛けようとすれば、彼はとても驚いた表情をして走って店から離れていった。
 まだ、降りしきる雨の中。姿を消したんだ。

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