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2/一瞬の閃光
大型フェスのサブステージ。
luminaのパフォーマンスは、間違いなく彼らの史上最高を更新していた。しかしその瞬間――。
突然、激しいノイズと共にスピーカーが沈黙した。
心臓を打っていた重低音が消え、代わりに押し寄せてきたのは、逃げ場のない静寂と、観客の冷ややかなざわめきだった。
(……あ。このまま、終わっちゃう)
類の視界が、スローモーションのように歪む。
脳裏に去来したのは、「何の特徴もない平凡なグループ」として扱われてきた日々の記憶だった。
「君たちは、綺麗だけど普通すぎて面白みがないんだよね」
「今の時代、もっと本能を揺さぶるような、α特有の華がないと売れないよ」
業界人から突き付けられる、残酷な評価。
類は心の中で毒を吐く。当たり前だ。僕がそう思われるように、必死に自分を殺しているのだから。
本当の性(Ω)がバレれば、βとして懸命に活動している誠那たちの居場所まで奪ってしまう。だから、類はあえて自分を「毒にも薬にもならない平凡なβ」の枠に押し込め、グループの空気さえもあえて平坦に保ってきた。
けれど、その慎重さのせいで、luminaは誰の記憶にも残らない「背景」のような存在に甘んじていた。
ようやくつかんだ、このフェスの切符。
なのに、また世界は、機材の故障という身勝手な理由で、自分たちから「声」を奪い、透明人間に戻そうとするのか。
最前列。不安そうにステージを見つめているPrismの顔。あの子たちが信じてくれた僕らを、こんな「βの限界」みたいな終わり方で納得させてたまるか。
(嫌だ。……終わらせない。僕が、壊す)
類は、震える足で一歩前に踏み出した。
自分を縛り付けていた「ベータの擬態」というブレーキを、今ここで踏み壊す。
喉の奥に沈めていた「オメガの熱」を、凍りついた空気を溶かすための、たった一つの燃料に変える。
「――っ!!」
マイクを通さない、肺のすべてを絞り出すような剥き出しの歌声が静寂を切り裂いた。
それは、平凡なベータを演じていた時とは別人の、艶やかで、強烈な自己主張をはらんだ魂の咆哮だった。
隣にいたメインボーカル、ハルの身体が電流が走ったように跳ねた。
(……類? なに、今の……体が、熱い……!)
ハルの瞳に宿る、自分でも気づいていない「Ω」の共鳴。類の声に含まれた、理屈を超えた本能の震えにあてられたハルは、吸い込まれるように類の隣へと走り寄り、突き抜けるような高音のフェイクを重ねた。
「普通」という殻を脱ぎ捨てた二人の異質な声は、磁石のように引き寄せ合い、火花を散らして共鳴した。
それを見た誠那たちが、その熱に導かれるようにリズムを刻み出す。楽器の伴奏なんて必要ない、七人の鼓動だけのライブが完成していく。
その「異様なまでの彼らの熱量」を、配信用の定点カメラが正面から射抜く。
類はレンズを掴み取るような距離まで顔を寄せ、カメラの向こう側で自分たちを「普通」と決めつけてきた世界へ向かって、不敵に微笑んだ。
『SMILE』
その瞬間、ネットワークの向こう側の時間が止まり、次の刹那、爆発的なバズりの濁流が世界を駆け巡った。
「伝説だろ」「放送事故を実力でねじ伏せた」「luminaっていったい何者!?」
熱狂の渦が広がる中、モニターを見つめていた黒崎 怜は、静かに椅子から立ち上がった。
無機質な画面越しですら、類が放った「歪なΩの香り」が鼻腔をくすぐるような錯覚に陥る。
「……見つけた」
怜は低く呟くと、まるで獲物を追う獣のような迷いのない足取りで、類たちが降りてくるはずの裏導線へと歩き出した。
luminaのパフォーマンスは、間違いなく彼らの史上最高を更新していた。しかしその瞬間――。
突然、激しいノイズと共にスピーカーが沈黙した。
心臓を打っていた重低音が消え、代わりに押し寄せてきたのは、逃げ場のない静寂と、観客の冷ややかなざわめきだった。
(……あ。このまま、終わっちゃう)
類の視界が、スローモーションのように歪む。
脳裏に去来したのは、「何の特徴もない平凡なグループ」として扱われてきた日々の記憶だった。
「君たちは、綺麗だけど普通すぎて面白みがないんだよね」
「今の時代、もっと本能を揺さぶるような、α特有の華がないと売れないよ」
業界人から突き付けられる、残酷な評価。
類は心の中で毒を吐く。当たり前だ。僕がそう思われるように、必死に自分を殺しているのだから。
本当の性(Ω)がバレれば、βとして懸命に活動している誠那たちの居場所まで奪ってしまう。だから、類はあえて自分を「毒にも薬にもならない平凡なβ」の枠に押し込め、グループの空気さえもあえて平坦に保ってきた。
けれど、その慎重さのせいで、luminaは誰の記憶にも残らない「背景」のような存在に甘んじていた。
ようやくつかんだ、このフェスの切符。
なのに、また世界は、機材の故障という身勝手な理由で、自分たちから「声」を奪い、透明人間に戻そうとするのか。
最前列。不安そうにステージを見つめているPrismの顔。あの子たちが信じてくれた僕らを、こんな「βの限界」みたいな終わり方で納得させてたまるか。
(嫌だ。……終わらせない。僕が、壊す)
類は、震える足で一歩前に踏み出した。
自分を縛り付けていた「ベータの擬態」というブレーキを、今ここで踏み壊す。
喉の奥に沈めていた「オメガの熱」を、凍りついた空気を溶かすための、たった一つの燃料に変える。
「――っ!!」
マイクを通さない、肺のすべてを絞り出すような剥き出しの歌声が静寂を切り裂いた。
それは、平凡なベータを演じていた時とは別人の、艶やかで、強烈な自己主張をはらんだ魂の咆哮だった。
隣にいたメインボーカル、ハルの身体が電流が走ったように跳ねた。
(……類? なに、今の……体が、熱い……!)
ハルの瞳に宿る、自分でも気づいていない「Ω」の共鳴。類の声に含まれた、理屈を超えた本能の震えにあてられたハルは、吸い込まれるように類の隣へと走り寄り、突き抜けるような高音のフェイクを重ねた。
「普通」という殻を脱ぎ捨てた二人の異質な声は、磁石のように引き寄せ合い、火花を散らして共鳴した。
それを見た誠那たちが、その熱に導かれるようにリズムを刻み出す。楽器の伴奏なんて必要ない、七人の鼓動だけのライブが完成していく。
その「異様なまでの彼らの熱量」を、配信用の定点カメラが正面から射抜く。
類はレンズを掴み取るような距離まで顔を寄せ、カメラの向こう側で自分たちを「普通」と決めつけてきた世界へ向かって、不敵に微笑んだ。
『SMILE』
その瞬間、ネットワークの向こう側の時間が止まり、次の刹那、爆発的なバズりの濁流が世界を駆け巡った。
「伝説だろ」「放送事故を実力でねじ伏せた」「luminaっていったい何者!?」
熱狂の渦が広がる中、モニターを見つめていた黒崎 怜は、静かに椅子から立ち上がった。
無機質な画面越しですら、類が放った「歪なΩの香り」が鼻腔をくすぐるような錯覚に陥る。
「……見つけた」
怜は低く呟くと、まるで獲物を追う獣のような迷いのない足取りで、類たちが降りてくるはずの裏導線へと歩き出した。
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