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symphony 1
隣に引っ越してきたのは③
しおりを挟む私のことを「ブリンセス」なんてバカなあだ名で呼ぶ人はこの広い世界中どこを探してもケンボーしかいない。
しかし、その呼び方が懐かしい気持ちにさせてくれ、私は思わずふきだした。
「未だにブリンセスって‼︎」
「なっ——‼︎」
「ん?」
なんだかよく分からないけど、私が笑うと彼はなぜか顔を赤くさせた。
「どうしたの?」
「なっなんでもねぇ‼︎」
「変な健ちゃん……」
すると健ちゃんは、露骨に目を逸らして、今度は耳まで赤くさせる。
「大丈夫? 熱でもあるんじゃ——」
そう言って私が手を近づけると健ちゃんはひと言。
「触んなっ‼︎」
「あ……」
その姿に一瞬、今朝のお父さんが重なった。
そうだ……。
久しぶりの再会で私は嬉しかったけど、私は健ちゃんに嫌われてるんだった。
嫌いな子から触られるのは嫌だよね……。
「ごめ」
「ごめん‼︎」
私が謝ろうとすると、先に謝ったのは健ちゃんの方だった。
「え?」
「いや、その……」
バツが悪そうに頭を掻きながら口ごもる健ちゃん。
そんな姿がなんだか可愛く見えて、私はふふっと笑えた。
「変な健ちゃん」
私が笑うと、ますます顔を赤くさせて、健ちゃんの顔はどこまで赤くなるんだろう?
そんなことを思わせた。
「えっ⁉︎ 引っ越して来たの⁇」
「ああ、ついさっきな」
「そう、なんだ——」
びっくりした。
長らく空き家になっていた隣の家に引っ越して来たのは、健ちゃんだった。
これからは健ちゃんがお隣さんなんだ——。
「じゃあさ、これからよろしくねっ‼︎」
「は? なんでそうなるんだよ」
「だってお隣さんでしょ⁇ だったら仲良くしようよ!」
「——‼︎」
まただ。健ちゃんはまたしても視線を私から逸らした。
今日だけで何回目だろう?
それに健ちゃんの短い髪の毛では隠しきれない耳は、まるでりんごのよう。
健ちゃん、やっぱり具合悪いんじゃないかな?
「由香理——だっけ?」
「ん? そうだよ」
「……よろしく」
健ちゃんは不器用に言う。
私は顔が綻び、「よろしくね‼︎」と握手を求めて手を差し出した。
「なに」
「握手!」
「えっ……」
私が一歩近づくと、健ちゃんは一歩後ずさる。
なんだろ。
やっぱりあんまりよく思われてないのかな?
「嫌ならいい」
私が手を引っ込めようとしたら、健ちゃんは複雑そうな表情をしたけど、それには気づかないふりをした。
春風が良ちゃんと離れた日を思い出させて、ちょっぴり切なかった。
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