やり直し令嬢と転生侍女のキャンプ飯

しがついつか

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丸芋とツノウサギのシチュー(2)

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翌日、カナリア達はキノコと山菜摘みのため山に入った。
昨日に引き続き快晴で、風も穏やかだ。
ちょうど良い獣がいれば、ついでに仕留めたいところだ。

「アナ、このキノコって食べられるやつかしら?」

手にしたキノコは普段採るものとそっくりだが、ほんの少し形に違和感があった。

「これは…怪しいですね…。別の袋に入れて分けておきましょう」
「わかったわ」

こんな時、鑑定の能力があれば…と、アナはいつも思う。
せめて毒のない食材を完璧に見分けることができたら良いのに。

今のアナにできるのは、怪しいものは別にしておいて、料理長や庭師のお爺さんに聞いてみることくらいだ。
彼らにも判別できない物は、もったいないが廃棄することにしている。

必要な分を収穫できたので、そろそろ場所を移してお昼にしようと考えたところ、カナリアはあることに気づく。
隣を歩くアナの袖を引き、前方の木立を指し示す。

「ねえ、あそこにツノウサギがいるわ」
「え、どこですか」
「まっすぐ前にある太い木の根本のところよ。木の皮を齧っているみたい」

アナがじっと目を凝らしてみると、なるほど、確かに木の根本に白い塊があるのが見える。
カナリアの言う通り、それはツノウサギだ。
獣に分類される通常のウサギとは違い、額に鋭い角を持つウサギ型の魔獣をツノウサギと呼ぶ。
体格はウサギの3倍あり、攻撃性も高い。

「あのウサギ、ツノが蒼くて綺麗ね」

カナリア達の見つけたツノウサギの角は、蒼く輝いていた。
通常は乳白色で、成長とともに、やや燻んだ色味になる。

「あれは…。お嬢様、あれは希少個体です。蒼いツノは珍しく、軽く見積もっても通常のツノの10倍で売れます」
「まあ!それは狩るしかないわね!」
「希少個体だけあってとても強いので、気を抜かないでください。それにウサギ属は耳が良いので、こちらが仕掛ける前に逃げられてしまう可能性も高いです」

ツノウサギは木の皮を削るのに夢中で、まだこちらには気付いていない。

ふとカナリアは思いついた。
ここから水鉄砲で角を狙い、撃ち落とせないだろうか。

「仕留めなくても、角が手に入ればいいのかしら?」
「――私たちにはとってはそれで充分です。ですが、ツノウサギの角は生えかわらないと聞きます。彼らにとって角は強さの証であるため、それを失うことは、生きる力を失うということと同じだそうです。角をなくしたままで生きろというのは、少し残酷なことだと私は思います」

命まで奪っては可哀想だと言うのなら、そもそも最初から手を出してはいけない。
相手を傷つける行為に違いはないのだから、中途半端な優しさなど持ってはいけないと、アナは思う。

「そっか…そうなのね。――じゃあ、きっちり仕留めるしかないわね!」
「え、ええ…。そうですね…」

切り替えの速さに、アナの方が困惑してしまった。
気持ちを切り替えたカナリアは、前方のツノウサギを見据え、気持ちを集中させた。
いつでも水鉄砲を撃てるようにする。

「アナ、防御魔法よろしくね」
「もちろんです。しかし、どうするおつもりですか?」
「走って近づきながら水鉄砲を撃つのよ!」
「――え?」

得意げに言うカナリアに、アナは目が点になった。
そうこうしているうちに、カナリアはツノウサギに向かって駆け出した。
アナの防御魔法はすでに重ね掛けされているので、心配はない。

(お嬢様、完全にノープランじゃないですか!)

ウソでしょう?と叫びたいのを堪え、カナリアの後を追った。





走り出してすぐ、カナリアは水鉄砲を放つ。
ツノウサギが動きを止め、耳をたてるのが見えたからだ。ツノウサギは彼女達の足音に気づいたようだ。

ツノウサギの頭を狙って放った鋭い一撃は、すんでのところで躱された。
木の皮がはじけ飛んだ。

(私の一撃を躱すなんて、やるじゃないの)

カナリアはワクワクしてきた。

カナリア達の存在に気付いたツノウサギは逃げようとはせず、臨戦態勢に入っている。
真っ直ぐに向かってくる人間を、返り討ちにするつもりだ。

ツノウサギは彼女に向かって突進した。ツノウサギが一度地面を蹴っただけで、あっという間にカナリアとの距離が縮まった。
予想以上に速いそれに、カナリアは驚くが、すぐに気を取り直して水鉄砲を連続で放つ。
ツノウサギは空中で体をひねり、器用に交わした。だが完全には避けきれず、水鉄砲がツノウサギの足や背をかすめる。

(――嘘でしょ、全然あたらない!?)

ツノウサギとカナリアの距離は3歩分程度までに縮まっている。
焦ったカナリアが三連続で水鉄砲を放つが、どれも交わされてしまい致命傷を与えられない。
そんな彼女をあざ笑うかのように、ツノウサギがカナリアめがけて最後の跳躍を見せた。


(――やられる!)

角がカナリアの腹部に突き刺さろうとしたその時、ツノウサギが横に吹っ飛んだ。
追いついたアナが殴り飛ばしたのだ。
目の前のカナリアのみに意識を向けていたツノウサギは、アナへの注意がおろそかになっていた。
飛ばされたツノウサギは木の幹に勢いよく打ち付けられ、重力に逆らえずにズルズルと地面に落ちた。


「お嬢様、お怪我は!?」

酷く焦った様子のアナは、カナリアが無事であると確認するとホッとして力が抜けそうになるが、すぐさま気を取り直してツノウサギを見やる。
気を抜くのは完全に仕留めたことを確認してからだ。
木の下のツノウサギは動かない。

「――ありがとう、アナ」

助かったという安堵感。
次いで襲ってきたのは怒りだった。
アナのおかげで実際には攻撃されていないが、刺されそうになったことが許せなかった。
それは、攻撃してきたツノウサギそのものではなく、刺されそうになった自分自身に対する怒りだった。


八つ当たりするかのごとく、カナリアは水鉄砲をツノウサギに放った。
それはツノウサギの頭を貫通し、血しぶきとグギィという声を上げた。

さらにカナリアは、水鉄砲を変化させた。
今までは針で穴を開けるかのように真っ直ぐ放っていたそれを、糸のように細くした水を横向きに放った。
それは的確にツノウサギの首を切り落とした。

血だまりの中でツノウサギの胴体ビクビクと痙攣を起こす。
完全に動かなくなるまで、彼女達は静かにその場で見守っていた。


お説教など言いたいことは山ほど有るが、血のにおいに誘われて他の魔獣が来る可能性があるため、アナはツノウサギを手早く仕舞うと、カナリアとともに山を下りた。

















川辺に準備された焚き火で、コトコトと鍋が煮えている。

その側では、仁王立ちするアナと小さく縮こまっているカナリアの姿があった。

カナリアは懇々と説教をされていた。
自分が悪いことはわかっているので、反論せずにただひたすらお説教を聞いている――というポーズをとっている。
反論や言い訳などすれば、お説教が長引くだけだとわかっているから。


「――いいですか。もう考えなしに突っ込んで言ってはいけませんからね」
「ごめんなさい」
「はあ・・・」

表向きはしっかり反省しているように見えるため、アナはもうこれ以上の説教をすることはやめ、鍋の仕上げにとりかかることにした。
瓶詰めされた白いペースト状の物をスプーンで掬い、鍋に入れていく。
以前、母屋の厨房で乳製品が大量に余った時に分けてもらい、ホワイトソースを作っておいたのだ。
ホワイトソースを溶かして、塩で味を調えていく。

ミルクの甘い匂いに、カナリアのお腹が鳴った。

これで完成と思いきや、アナはふと思いつき、異空間倉庫からチーズの塊を取り出した。
細かくナイフで削り取り、鍋の中に落としていく。
チーズが溶けて行く様子を、カナリアが目を輝かせてみている。

かるくかき混ぜれば、丸芋とツノウサギのシチューの完成だ。

木の椀に盛り、よだれを垂らしそうなカナリアに手渡す。カナリアはシチューの香りを深く吸い込み、満足そうに息を吐き出した。

「それでは、いただきましょう」
「いただきます!」

熱々なので木の匙でひとすくいし、息をふきかけてから口に運ぶ。
ミルクの甘みとチーズのコク、そして旨味が広がる。
少し冷えていた体がじんわりと温まって行くのを感じる。

シチューの味にうっとりしたカナリアは、小粒の丸芋は後回しにして、ツノウサギの肉を口に入れた。
よく煮込まれているものの、予想よりは硬く引き締まった肉質だ。
充分に下処理は施されているが、特有の獣臭さを感じる。
通常のウサギの肉と何ら変わりないように思えた。
以前の赤雉が想像以上に美味しかったこともあり、魔獣の肉に対して期待しすぎていたようだ。

あえて評価するならば「至って普通のウサギ肉のシチュー」である。

(うーん、お肉は鶏肉の方が私の好みだわ。でもシチューの味はバッチリね。さすがアナだわ)


肉の味については期待外れに終わったが、無事に希少個体の蒼い角を手に入れることが出来たし、水鉄砲の応用方法まで編み出すことが出来たのだ。
カナリアはシチューを満足そうに平らげた。

その隣でアナは、様々な思いを馳せる。
カナリアの無鉄砲さを今のうちにどうにかしなければ、いつか大怪我を負わせてしまうことになるだろう。
その都度お説教してはいるが、カナリアはきっと、一度痛い目を見なければわからないタイプのように思う。
このまま運良く無事でいて欲しいものだが、魔獣相手では運だけではどうにもならないときが来る。

(――それにしても蒼い角って、いくらで売れるのかしら・・・。これで一気に旅の準備を整えられたら良いのだけれど・・・)

希少個体なのだから、高値になることは予想できる。
だが、適正価格がわからないこともあり、店側に安く買いたたかれることもあるだろうから、余り期待しすぎないでおこう。
アナはそう思いながら、シチューを飲み干した。





――後日、アナが馴染みの店に角を持って行ったところ、欲しいと思っていた魔道具を買ってなお、軽くおつりが出るほどの値段で売れた。
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