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祖父の秘密
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ザカライアが12歳になる年に、彼の祖父――この国の前国王が亡くなった。
自他共に厳しい祖父は国王であった時代、腐りきった貴族社会を変えるべく様々な法を整備し、国民のために手を尽くしてきた。
そのため平民からは今でも根強い人気を誇っているが、祖父の政治は一部の貴族にとってはかなり息苦しいものであったため嫌われてもいた。
ザカライアの父が王位を継いだことにより、国民のための政治方針はそのままに貴族達への救済措置も行われるようになった。
貴族たちの息苦しさは多少和らいだようで、反発する声は徐々に減ってきている。
祖父は息子にも孫にも厳しい男だったが、遺品整理を手伝ったザカライアは、偶然にも祖父の秘密を知ってしまった。
それは形見分けとして、祖父の書物の一部を譲り受けたことに始まる。
「――あれ、なんだこの本。ページがめくれないぞ」
もらい受けた書物を、手元に残すものと図書館に寄付するもので選別している最中のこと。
植物図鑑と書かれた分厚い本を手に取ると、なにやら違和感があった。
適当なページを開こうとしたが、紙がぴたりとくっついていて開かないのだ。
表紙の厚紙を開けようとすると、抵抗感がある。
のり付けされてでもされているのか、次のページとくっついてしまっている。
他のページや裏表紙と違い、隙間ができているので、開けられるとしたらここしかない。
ザカライアは少し力を入れて、表紙を開いた。
――ぱこっ。
「開いた! …ん?」
どうやら磁石でくっついていたようだ。
「これ…箱になってるのか」
本の中央がくりぬかれており、小箱のようになっていた。
ザカライアは知らなかったが、これは三十年以上前に秘密の小物入れとして一時流行ったものだ
多くはへそくりを隠すことに使用されていたが、ザカライアが開けた小物入れには丸まった紙の束が数本納められていた。
「なんだろうこの紙の束。…小説か?」
束の一つを手に取り紐をほどくと、そこには文章が記載されていた。
読んでみると台詞もあり、物語となっているようだ。
ザカライアの祖父が隠したかったのは小説だった。
――しかし、ただの小説では無い。
『がさついた指先に胸の突起を摘ままれ、女はひっと啼いた――』
「――っ!?」
読み進めたザカライアの顔は赤く染まった。
胸がドキドキして、体中が沸騰したようだ。
祖父の秘密。
それは、官能小説を自作することだった。
このことはザカライアはもちろん、彼の父も知らない。
祖父は妻――ザカライアの祖母であり、先代王妃――にも側近達にも秘密にしていた。
今となっては知る由も無いことだが、祖父自身は別に官能小説を書きたかったわけでは無い。
ただ官能小説が読みたかっただけなのだ。
しかし国王という立場にあるため自分で書物を購入することは出来ず、さらには書物を取り扱う商人は祖父の政治を嫌っているため、いつどこで足下を掬われるかわかったものじゃない。
隙を見せることが出来なかった祖父は、仕方なく己で自作することにしたのだ。
その小説が、孫の手に渡ってしまったのを知れば、きっと祖父は恥ずかしさの余り床を転げ回ったことだろう。
だが祖父はもういない。
ザカライアの読書の邪魔をする者はいなかった。
祖父の小説が詰められた小箱は3箱あった。
一つ残らず回収すると、ザカライアは自室の本棚の左下に押し込んだ。
ついでに祖父の遺品の中から高さの合う辞書を数冊見繕い、カモフラージュのために横に配置した。
祖父の小説は時代を超えて、孫の宝物となったのだ。
自他共に厳しい祖父は国王であった時代、腐りきった貴族社会を変えるべく様々な法を整備し、国民のために手を尽くしてきた。
そのため平民からは今でも根強い人気を誇っているが、祖父の政治は一部の貴族にとってはかなり息苦しいものであったため嫌われてもいた。
ザカライアの父が王位を継いだことにより、国民のための政治方針はそのままに貴族達への救済措置も行われるようになった。
貴族たちの息苦しさは多少和らいだようで、反発する声は徐々に減ってきている。
祖父は息子にも孫にも厳しい男だったが、遺品整理を手伝ったザカライアは、偶然にも祖父の秘密を知ってしまった。
それは形見分けとして、祖父の書物の一部を譲り受けたことに始まる。
「――あれ、なんだこの本。ページがめくれないぞ」
もらい受けた書物を、手元に残すものと図書館に寄付するもので選別している最中のこと。
植物図鑑と書かれた分厚い本を手に取ると、なにやら違和感があった。
適当なページを開こうとしたが、紙がぴたりとくっついていて開かないのだ。
表紙の厚紙を開けようとすると、抵抗感がある。
のり付けされてでもされているのか、次のページとくっついてしまっている。
他のページや裏表紙と違い、隙間ができているので、開けられるとしたらここしかない。
ザカライアは少し力を入れて、表紙を開いた。
――ぱこっ。
「開いた! …ん?」
どうやら磁石でくっついていたようだ。
「これ…箱になってるのか」
本の中央がくりぬかれており、小箱のようになっていた。
ザカライアは知らなかったが、これは三十年以上前に秘密の小物入れとして一時流行ったものだ
多くはへそくりを隠すことに使用されていたが、ザカライアが開けた小物入れには丸まった紙の束が数本納められていた。
「なんだろうこの紙の束。…小説か?」
束の一つを手に取り紐をほどくと、そこには文章が記載されていた。
読んでみると台詞もあり、物語となっているようだ。
ザカライアの祖父が隠したかったのは小説だった。
――しかし、ただの小説では無い。
『がさついた指先に胸の突起を摘ままれ、女はひっと啼いた――』
「――っ!?」
読み進めたザカライアの顔は赤く染まった。
胸がドキドキして、体中が沸騰したようだ。
祖父の秘密。
それは、官能小説を自作することだった。
このことはザカライアはもちろん、彼の父も知らない。
祖父は妻――ザカライアの祖母であり、先代王妃――にも側近達にも秘密にしていた。
今となっては知る由も無いことだが、祖父自身は別に官能小説を書きたかったわけでは無い。
ただ官能小説が読みたかっただけなのだ。
しかし国王という立場にあるため自分で書物を購入することは出来ず、さらには書物を取り扱う商人は祖父の政治を嫌っているため、いつどこで足下を掬われるかわかったものじゃない。
隙を見せることが出来なかった祖父は、仕方なく己で自作することにしたのだ。
その小説が、孫の手に渡ってしまったのを知れば、きっと祖父は恥ずかしさの余り床を転げ回ったことだろう。
だが祖父はもういない。
ザカライアの読書の邪魔をする者はいなかった。
祖父の小説が詰められた小箱は3箱あった。
一つ残らず回収すると、ザカライアは自室の本棚の左下に押し込んだ。
ついでに祖父の遺品の中から高さの合う辞書を数冊見繕い、カモフラージュのために横に配置した。
祖父の小説は時代を超えて、孫の宝物となったのだ。
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