趣味で官能小説を書いていた王子が、婚約者に誤解されて婚約破棄されそうになった話

しがついつか

文字の大きさ
2 / 6

ダメ出しを受ける

しおりを挟む
「――だめだ。ぜんっぜんだめ!」
「そんなぁ…」


顰めっ面で紙束に目を通していた少年は、ため息と共に紙束を机上に放り投げた。
紙はステープラーで左上を留めてあるためバラバラにならず、机上を滑って持ち主の元に戻った。

持ち主――紙束の作成者であるザカライアは、しょんぼりとした顔でそれを手に取った。


「…自信作だったんだけどなぁ…」
「はぁ?これが?」


テーブルを挟んでザカライアの向かいに座る少年――マックスは、冗談だろう?と返した。


「本気でこれがエロいと思ってんのかよ?」
「うっ…そりゃぁ、まあ…」
「はぁ…」


マックスは深いため息を吐いた。
『童貞丸出しじゃねぇか』という品がない感想は、すんでの所で飲み込んだ。

ザカライアが持つ紙束は、彼が一ヶ月かけて作成した小説だ。
その内容は男女の睦言――官能小説である。

作者本人が自信作だと言うだけあって、ストーリーの展開は悪くない。
――悪くはないのだが、官能小説において最も大事なシーンが酷すぎた。


「…あのなぁ、官能小説を書くなら濡れ場の描写をもっとどうにかしろよ。女はずーっと『あんあん』しか言ってないし、せめて『アッ』とか『イヤッ』とか入れて、もっと台詞のバリエーションを広げろっての。
 男は男でただ腰振って終わるってなんだよ、猿じゃないんだから」
「――そんなこと言われても…僕、経験無いし…」
「まあアンタの場合、経験あったらあったで問題なんだろうけどさあ…」


もうちょっとなんとかなんない?
呆れ顔のマックスに言われ、ザカライアは落ち込んだ。






祖父の遺品整理中に出会った宝物は、ザカライアの人生に大きな影響を与えていた。
もちろん彼は、手に入れた官能小説が祖父の自作であることを知らない。
それでも血は争えないとでもいうのだろうか。14歳を過ぎると彼は自分で小説を書きはじめたのだ。
ある日唐突に『僕もこんな小説が書きたい!』と思い、彼は筆を執った。

翌年、国中の貴族が通う王立学園に入学した彼は、ひょんなことから出版社社長の息子であるマックスと知り合い、自作した小説を読んで貰うことになったのだった。
ザカライアにとっては、作品を誰かに評価して貰うことができる。
マックスにとっては王族との縁が出来ることと、もし良作だったら独占契約を結んで出版し、大きな収益が得られることを期待した。
win-winの関係になる――はずだったのだが、今のところマックスの期待外れに終わっている。


ザカライアは小説を作り上げるとマックスに連絡を取り、放課後、図書準備室に集まった。

図書室とは違い、図書準備室には人が来ない。
司書が準備室で作業をするのはザカライア達が授業を受けている間だけで、昼休みや放課後は基本的に図書室の受付にいる。
父親の出版社で昔から雑用を行っていたマックスは、配達先の一つであるこの図書室の司書とは顔見知りであった。
さらに入学してからは時々昼休みや放課後に、準備室に積まれた本の山の整理を手伝っていたので、司書とさらに仲良くなっていた。
マックスが悪い子では無いことと、共にいる相手が王子であるため、司書は快く場所を提供してくれたのだった。



今日も今日とて図書準備室で作品のお披露目を行ったのだが――結果は散々であった。
マックスはどんなに酷い内容でも、必ず最後まで読んでくれる。
その上で評価をしてくれるので、例えボロクソに言われても怒りは沸いてこない。
落ち込むことはあるが…。

マックスとて、最初からボロクソに言ってやろうと思っていたわけではない。
初めて小説を読むことになった時、一応この国の第二王子であるザカライア相手に、『この小説くっそつまんねーなぁ』と正直に言うことはできなかった。
遠回しに伝えようとしたところ、ザカライア本人から『不敬には問わないから遠慮無く率直な意見を言ってくれ』と言われ、じゃあ、と本心を口にするようになった。
それ以降マックスは駄作ばかり読む羽目になり、ザカライアを敬う気持ちが徐々に少なくなっていき、最近では気安い友人と会ったときのようにため口で接している。
そのことをザカライアが怒ることは無い。





突き返された小説を鞄にしまい込むと、ザカライアは鞄から別の紙束を取り出した。


「――実はもう一つあるんだけど…」
「お、見て良いのか?」
「うん。時間は大丈夫かな?」
「んー。その枚数なら10分あればいけるだろう」


マックスは受け取った小説に目を落とした。


『"おいなりさん"を知っているかい?東の国ではね、男性の――――』


パンッ!
マックスは紙束をテーブルに叩きつけた。


「ド下ネタじゃねぇか!!」


思わず大きな声が出てしまったが、マックスは悪くないだろう。
ドン引きした表情で作者を見てしまうのも仕方のないことだ。



「ちょっ、やめて!そんな蔑んだ目で見ないで!感想言って!」
「…これは酷い…」
「そんなにっ!?そんなにしみじみ言うほど酷いの!?」
「…これは酷い…」
「2回言うほどっ!?」


今日も惨敗だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

幼馴染、幼馴染、そんなに彼女のことが大切ですか。――いいでしょう、ならば、婚約破棄をしましょう。~病弱な幼馴染の彼女は、実は……~

銀灰
恋愛
テリシアの婚約者セシルは、病弱だという幼馴染にばかりかまけていた。 自身で稼ぐこともせず、幼馴染を庇護するため、テシリアに金を無心する毎日を送るセシル。 そんな関係に限界を感じ、テリシアはセシルに婚約破棄を突き付けた。 テリシアに見捨てられたセシルは、てっきりその幼馴染と添い遂げると思われたが――。 その幼馴染は、道化のようなとんでもない秘密を抱えていた!? はたして、物語の結末は――?

愛を騙るな

篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」 「………」 「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」 王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。 「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」 「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」 「い、いや、それはできぬ」 「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」 「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」 途端、王妃の嘲る笑い声が響く。 「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!

ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。 ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~ 小説家になろうにも投稿しております。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

いなくなれと言った本当に私がいなくなって今どんなお気持ちですか、元旦那様?

睡蓮
恋愛
「お前を捨てたところで、お前よりも上の女性と僕はいつでも婚約できる」そう豪語するカサルはその自信のままにセレスティンとの婚約関係を破棄し、彼女に対する当てつけのように位の高い貴族令嬢との婚約を狙いにかかる。…しかし、その行動はかえってカサルの存在価値を大きく落とし、セレスティンから鼻で笑われる結末に向かっていくこととなるのだった…。

処理中です...