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誤解が生まれた
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この国の第二王子ザカライアには、婚約者がいる。
アンジェリカ・サニーレイン。
騎士団長の娘であり、7歳の時にザカライアの婚約者になった。
昔から可愛らしい少女だったが、年齢と共に美しい淑女として成長している。
婚約が結ばれてからは最低でも月に一度は会っており、婚約者同士の仲は良好といえる。
ザカライアと同い年であり、彼女もまた王立学園に在学中だ。
その日の放課後、アンジェリカは図書室を訪れた。
「こんにちは、レミィ先生。お願いしていた本が納品されたとお聞きしたのですが、もう貸し出しは出来るのでしょうか?」
「あらアンジェリカさん、耳が早いわね。今日の昼休みに納品されたのよ。
書籍の登録はもう済んでいるから、貸し出しは出来るわ。
――えっと、どこに置いたかしら…」
司書のレミィはカウンターの中を見回す。
ふと、彼女は思い出した。
「あぁそうだ、準備室に置きっぱなしだわ。放課後にこっちに並べようと思ってて――。ごめんなさいね、すぐに取ってくるわ」
「先生、貸し出しお願いします!」
「――あら、はいはい」
レミィがカウンターから出ようとしたところ、数冊の本を手にした生徒が彼女に声をかけた。
アンジェリカが周囲を見ると、本を借りようとしている生徒が他にも二人いる。
「レミィ先生、図書室準備室って私が入ることは出来ますか?
もし入って良いのなら、私がその本を持ってこようと思うのですが、いかがでしょうか?」
「あら本当?それは助かるわ。準備室には今日は鍵がかかってないから入れるわよ。
それに中に本の整理を手伝ってくれてるマックス君がいるから、わからなければ彼に声をかけてちょうだい」
「わかりました。行ってきます」
アンジェリカは図書準備室へと向かった。
準備室は図書室を出て階段がある方向とは反対側に進むと、廊下の突き当たりにある。
"マックス"という生徒がいるらしいので、礼儀としてドアをノックをしようとした時、中から声が聞こえた。
「――なあ、お前は本当にこのままでいいのか?」
「嫌だよ…。嫌だけど、僕にはどうしようも無いんだ…」
(ザカライア様?)
アンジェリカにとって、馴染みのある声だった。
だが声が似ているだけかもしれない。
そう思ったのだが、再び聞こえてきた声にドアを叩こうとしていた彼女は動きを完全に止めた。
「ここ半年ばかり付き合ってきたけど…。アンタはいつまでこんなことを続ける気だ?」
「僕は…。僕はマックスに満足して貰えるまでやるつもりだよ」
「満足、ねぇ…」
(な、なんのお話をしていますの?)
アンジェリカは困惑した。
扉越しに聞こえる彼らの声は、真剣だった。
行儀の悪いことだが、彼女は聞こえてくる会話に耳を澄ました。
「――そもそも俺じゃ無くてもいいんじゃないか?ザカライアには俺よりもっと他に良い相手がいるかもしれないだろう?」
「ダメだよ!僕は…僕はマックスじゃなきゃダメなんだ!マックス無しじゃ何も出来ない!」
「そう言われてもなぁ…」
「もっと頑張るから…悪いところはどんどん指摘して欲しいんだ」
「うーん、じゃあ言うけど…アンタは前戯が足りないんだよ」
「ぜ、前戯?」
「そうだよ。例えば、ハグやキスをして相手の緊張を解いたり、胸を舐めながら下腹部をほぐしていくとか。
それにな、突っ込む前にはほぐすってのは基本中の基本だぞ?」
「ほぐす…? ――ほぐさないと、どうなるものなの?」
「痛いに決まってんだろボケが! ほぐしもせずローションで濡らしたりもせずにいきなり突っ込んで、快感を感じられるならそりゃ相当なビッチだわ」
「えぇっ!痛いの!?」
「当たり前だろうがっ!」
(はわわっ…)
アンジェリカは口を手で覆い、どうにか声を出さずにすんだ。
衝撃的な話を聞いてしまった。
(どどど、どうしましょう!とんでもないことを聞いてしまいましたわ!)
アンジェリカの聞き間違いではない。
部屋の中にいるのは間違いなくザカライアであり、一緒にいるのは司書から聞いていた通りマックスという男だ。
(と、とにかく戻りましょう)
もう数分早く訪れているか、あと数分この場で彼らの話を聞いていれば誤解は解けたはずなのだが、間の悪いことに彼女はその場から立ち去ってしまった。
アンジェリカはどんなに急いでいても足音を立てずに歩くよう教育を受けていたため、準備室にいるザカライア達は彼女の存在に気づく事が出来なかった。
この出来事が大きな誤解を生んだ。
何も知らないザカライアは、いつも通り自作の小説をマックスにチェックしてもらい、指摘事項をノートに書き留めていった。
「うーん、小説って難しいなぁ…」
アンジェリカ・サニーレイン。
騎士団長の娘であり、7歳の時にザカライアの婚約者になった。
昔から可愛らしい少女だったが、年齢と共に美しい淑女として成長している。
婚約が結ばれてからは最低でも月に一度は会っており、婚約者同士の仲は良好といえる。
ザカライアと同い年であり、彼女もまた王立学園に在学中だ。
その日の放課後、アンジェリカは図書室を訪れた。
「こんにちは、レミィ先生。お願いしていた本が納品されたとお聞きしたのですが、もう貸し出しは出来るのでしょうか?」
「あらアンジェリカさん、耳が早いわね。今日の昼休みに納品されたのよ。
書籍の登録はもう済んでいるから、貸し出しは出来るわ。
――えっと、どこに置いたかしら…」
司書のレミィはカウンターの中を見回す。
ふと、彼女は思い出した。
「あぁそうだ、準備室に置きっぱなしだわ。放課後にこっちに並べようと思ってて――。ごめんなさいね、すぐに取ってくるわ」
「先生、貸し出しお願いします!」
「――あら、はいはい」
レミィがカウンターから出ようとしたところ、数冊の本を手にした生徒が彼女に声をかけた。
アンジェリカが周囲を見ると、本を借りようとしている生徒が他にも二人いる。
「レミィ先生、図書室準備室って私が入ることは出来ますか?
もし入って良いのなら、私がその本を持ってこようと思うのですが、いかがでしょうか?」
「あら本当?それは助かるわ。準備室には今日は鍵がかかってないから入れるわよ。
それに中に本の整理を手伝ってくれてるマックス君がいるから、わからなければ彼に声をかけてちょうだい」
「わかりました。行ってきます」
アンジェリカは図書準備室へと向かった。
準備室は図書室を出て階段がある方向とは反対側に進むと、廊下の突き当たりにある。
"マックス"という生徒がいるらしいので、礼儀としてドアをノックをしようとした時、中から声が聞こえた。
「――なあ、お前は本当にこのままでいいのか?」
「嫌だよ…。嫌だけど、僕にはどうしようも無いんだ…」
(ザカライア様?)
アンジェリカにとって、馴染みのある声だった。
だが声が似ているだけかもしれない。
そう思ったのだが、再び聞こえてきた声にドアを叩こうとしていた彼女は動きを完全に止めた。
「ここ半年ばかり付き合ってきたけど…。アンタはいつまでこんなことを続ける気だ?」
「僕は…。僕はマックスに満足して貰えるまでやるつもりだよ」
「満足、ねぇ…」
(な、なんのお話をしていますの?)
アンジェリカは困惑した。
扉越しに聞こえる彼らの声は、真剣だった。
行儀の悪いことだが、彼女は聞こえてくる会話に耳を澄ました。
「――そもそも俺じゃ無くてもいいんじゃないか?ザカライアには俺よりもっと他に良い相手がいるかもしれないだろう?」
「ダメだよ!僕は…僕はマックスじゃなきゃダメなんだ!マックス無しじゃ何も出来ない!」
「そう言われてもなぁ…」
「もっと頑張るから…悪いところはどんどん指摘して欲しいんだ」
「うーん、じゃあ言うけど…アンタは前戯が足りないんだよ」
「ぜ、前戯?」
「そうだよ。例えば、ハグやキスをして相手の緊張を解いたり、胸を舐めながら下腹部をほぐしていくとか。
それにな、突っ込む前にはほぐすってのは基本中の基本だぞ?」
「ほぐす…? ――ほぐさないと、どうなるものなの?」
「痛いに決まってんだろボケが! ほぐしもせずローションで濡らしたりもせずにいきなり突っ込んで、快感を感じられるならそりゃ相当なビッチだわ」
「えぇっ!痛いの!?」
「当たり前だろうがっ!」
(はわわっ…)
アンジェリカは口を手で覆い、どうにか声を出さずにすんだ。
衝撃的な話を聞いてしまった。
(どどど、どうしましょう!とんでもないことを聞いてしまいましたわ!)
アンジェリカの聞き間違いではない。
部屋の中にいるのは間違いなくザカライアであり、一緒にいるのは司書から聞いていた通りマックスという男だ。
(と、とにかく戻りましょう)
もう数分早く訪れているか、あと数分この場で彼らの話を聞いていれば誤解は解けたはずなのだが、間の悪いことに彼女はその場から立ち去ってしまった。
アンジェリカはどんなに急いでいても足音を立てずに歩くよう教育を受けていたため、準備室にいるザカライア達は彼女の存在に気づく事が出来なかった。
この出来事が大きな誤解を生んだ。
何も知らないザカライアは、いつも通り自作の小説をマックスにチェックしてもらい、指摘事項をノートに書き留めていった。
「うーん、小説って難しいなぁ…」
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