趣味で官能小説を書いていた王子が、婚約者に誤解されて婚約破棄されそうになった話

しがついつか

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親子の会話(アンジェリカ)

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「アンジェリカどうしたの? 具合でも悪いのかしら」


学園から帰宅したアンジェリカの表情を見た母は、心配そうに娘の顔をのぞき込んだ。
アンジェリカは首を横に振ると『何でもありません』とか細い声で答えた。

誰が見ても何かあったとしか思えない。
ひとまず娘に部屋着に着替えるように言い、居間でお茶をしながら話を聞くことにした。



着替えが終わり、居間にやってきたアンジェリカは浮かない顔をしたままだ。
いつもなら見ただけで満面の笑みを浮かべる焼きたてのクッキーと香りの良いハーブティーを目にしても、アンジェリカの表情は変らなかった。

何があったのか改めて母が問うと、アンジェリカは困ったような顔をした。


「お母様、どうしましょう…」
「どうしたの?」


母はできるだけ優しい声で先を促した。
アンジェリカは迷った末、言い淀みながら言葉を紡ぐ。


「その…ザカライア様…なのですけれど、その…どうやら他に…お付き合いしている方がいらっしゃるようなのです…」
「――え?」


娘の言ったことを理解するのに時間がかかった。
ザカライアとは、この国の第二王子であり娘の婚約者で間違いないだろう。
今までに何度も会っているため人柄は概ね把握していたつもりだ。
それにアンジェリカと一緒にいる様子をみても、娘のことを大事にしているようで安心していたのだ。
アンジェリカの他に付き合っている者がいる――それすなわち、浮気ということだ。


「アンジェリカ。あなたは殿下がどなたかと仲睦まじく過ごされている様子を、実際に目にしたのかしら?それとも、誰かから悪い噂を聞いたの?」


母は、娘の勘違いではないかと思った。
あるいは悪意のある者がアンジェリカとザカライアの婚約破棄を狙って、嘘の噂を流している可能性を考えた。



「いいえ、誰かに聞いたわけではないのです。今日の放課後、図書室に本を借りに行ったのですが、その時――」


アンジェリカが図書準備室から聞こえた会話を母に伝えると、段々と母の笑みが深くなっていった。
だがその目は笑っていない。
これは母が酷く怒っているときの表情だ。


「そう…そうなの、ザカライア様がねぇ。アンジェリカという最高に可愛くて素晴らしい令嬢と婚約しているにもかかわらず、殿方とお付き合いをしている、と…。へぇ、そうなの。ふぅん…」
「お、お母様?」
「大丈夫よ。このことは私からお父様にお話ししておきますからね。事実確認が必要ですけれど、これがもし本当のことだとしたら、私もお父様も貴方を傷つけた殿下を決して許しはしませんから。安心してちょうだい」


美しい笑みを浮かべる母に『安心する要素がどこにも無いです』とは言えず、とりあえず頷いておいた。


「――アンジェリカは、殿下のことを好きなのかしら?」


母に問われて、アンジェリカはしばし考え込んだ。


「好き…だと思います。今までずっと仲良くしてくださいましたし、一緒にいて心地良いです。ずっとザカライア様と結婚するのだと思っていましたので、余り考えたことはありませんでしたが。
 それでも、嫌いだと思ったことはありません。ザカライア様の婚約者であることを辞めたいと思ったこともないのです」
「そう…。もし殿下が、真実その殿方と真剣にお付き合いをなさっていたら、貴方はどうしたい?」
「…そう、ですね…。私は…殿下に幸せになっていただきたい、です…」
「殿下を取られて悔しいとは思わない?」
「悔しい?…いいえ、思いませんわ」
「では、悲しいかしら?」
「悲しくは、ないです。ただ…少し寂しいです」


口にしてから気づいた。
アンジェリカの気持ちに当てはまるのは『寂しい』なのだと。


「そう…」


母は頷くと、メイドにすっかり冷めてしまったハーブティーを淹れなおすように頼んだ。
一通り話をしてスッキリした顔の娘にクッキーを勧め、母娘のお茶の時間を楽しんだ。





その晩、アンジェリカの父が話を聞いて激怒していたことは、妻と一部の使用人のみが知っている。
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