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親子の会話(ザカライア)
しおりを挟むその日ザカライアは学園から帰ってきてすぐ父に呼び出された。
執務室を訪れると、酷く疲れた顔をした父が待っていた。
「来たか…。そこに座れ」
「はい。失礼します」
父は執務用のデスクではなく、部屋の一角に配置されているソファに座っていた。
ザカライアは父の対面に腰を下ろす。
「――ザカライア…。最近アンジェリカ嬢とはうまくやっているのか?」
「アンジェリカ嬢ですか?」
何を言われるのか緊張していたら、突然婚約者について問われた。
不思議に思うザカライアだが、思ったままを答えた。
「はい、お茶会も定期的にしていますし、彼女との仲は良好だと思います」
「そうか…そうなのか…うん…」
「――あの、アンジェリカ嬢になにかあったのでしょうか?」
父の様子を見て、ザカライアは不安になった。
父はため息を1つ吐いた。
「サニーレインからお前の回答次第では、娘との婚約解消を考えると言われていてな…」
「えっ!?」
驚いた。
アンジェリカとの仲は悪くないし、お茶会の席では終始和やかに過ごしている。
誕生日の贈り物は欠かすことはないし、手紙でのやりとりも続いている。
『婚約解消』の可能性が出てくる要素が思いつかない。
「な、何故でしょうか?」
「己の胸に手を当てて聞いてみろ――と言いたいところだがな。サニーレインの言い分が、私にもよくわからんのだ…」
王は一度言葉を切ると、ザカライアからそっと目を逸らした。
「その――お前にはアンジェリカ嬢の他に、懇意にしている者がいるのではないか?」
「懇意にしている者?」
「うむ。サニーレイン曰く、アンジェリカ嬢ではない者と恋仲になっているのだと。――それも、相手は男だと」
「――は?」
突然身に覚えの無い浮気疑惑をかけられたかと思えば、その相手は同性だという。
ザカライアは異性愛者であるし、婚約者であるアンジェリカのことをとても好ましく思っている。
いずれ結婚する彼女のことを、ザカライアなりに大事に想い接してきたつもりだ。
浮気など考えたことも無い。
「あの…いくらなんでもそれは、酷い誤解です…」
「事実では無いと?」
「はい。神に誓って」
「――そうだろうなぁ…」
父はホッとした表情をしている。
息子を疑うわけでは無いが、もしそれが事実ならば婚約を持ちかけた己に責任がある。
息子の性的指向を考えずに婚約者をあてがい、一人の令嬢を傷物にしてしまうところだったのだ。
婚約を解消したとしても、この件で騎士団長であるサニーレインとの仲に亀裂が入ることは避けられないだろう。
「私はアンジェリカ嬢のことをとても好ましく思っていますし、彼女とならばこの先共に支え合って国を良き方向に導くことができるだろうと信じています」
「そうか…」
「…しかし何故、そのような誤解が起きたのでしょうか?」
ザカライアの疑問はもっともだ。
彼は己の行動を振り返ってみるが、同性を相手に口説いた記憶はない。
悪い噂でも流されたのだろうかと考えていると、父から爆弾が投下された。
「あぁ、なんでもアンジェリカ嬢が聞いたらしい。図書準備室でザカライアと何者かが『半年も付き合っているが、いつまでこんなことを続けるのか』
『満足して貰えるまで続けるつもりだ』と」
「――え?」
(そ、それって…)
図書準備室というキーワードで思い当たることは1つ。
マックスに小説を読んで貰った時のことだ。
ザカライアの目が泳いだのを、父は見逃さなかった。
「――どうしたザカライア。その顔…何か思い当たる節でもあるのか?」
「い、いえ…その…」
「まさかお前、何かやましいことでもしているのではないだろうな!?」
やましいことかと聞かれると、否定することは出来ない。
未成年であるにもかかわらず卑猥な小説を隠し持ち、さらには自作までしているのだ。
ザカライアは答えに窮した。
どうやってこの場を切り抜けようかと考えを巡らせたが、眼光鋭い父にすべてを白状するまで、そう時間はかからなかった。
話を聞いた父が大笑いしてくれたのが、せめてもの救いだろう。
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