先読みの巫女を妄信した王子の末路

しがついつか

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巫女が見たもの2

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花を咥えた鷲。
それはリュウの婚約者の生家――イーグル家の家紋だ。
彼の婚約者は藍色の美しい髪をしている。普段は結い上げているが、ハーフアップにしていたこともあった。
薄紫のレースのドレスは、彼女のお気に入りではなかっただろうか。

彼は動揺した。
巫女の予知によると、婚約者が犯罪を犯すことになるのだ。
動揺しないわけが無かった。



ミミーは先読みによる視界のブレが落ち着くと、深呼吸した。
ゆっくりと立ち上がる彼女に、リュウが手を貸す。
彼に礼を述べると、ミミーは入り口上部の壁に掛けられた時計を見る。
もう10分もすれば、管理人が昼休憩から戻ってくるはずだ。


「――管理人が間もなく戻って参ります。この後私達は、予知の報告を行うために宰相様の所に向かうことになりますので、
 リュウ王子には申し訳ありませんが、その間は図書室を閉めることとなります。
 お読みになっている図鑑ですが、もしよろしければ今のうちに貸し出しの手続きをいたします」


予知の内容は、教会または王族への提出が義務付けられている。

彼女が司書となってからの報告方法は、まず予知したことを図書室の管理人に報告する。
次に管理人が宰相――宰相が不在ならば宰相補佐――に報告を行い、宰相はすぐさま国王に報告することとなっている。
またこの時、宰相は教会の最高責任者にも通知する。


国王は時間の余裕があれば謁見を許可し、自ら巫女から予知した内容――メモまたは録音機――を受け取る取り決めとなっている。

国王が多忙であれば王族の中でその時間最も適当な者を国王が指定し、宰相が呼びに行く。
宰相と管理人によって王族と巫女を引き合わせ、予知の内容を巫女から王族へと直接受け渡すのだ。
予知内容は国王に手渡すまでの間、受け取った王族が自ら厳重に保管する。
その間、予知の内容を見る――または聞くことはしないのが暗黙の了解となっている。

教会の最高責任者が城に到着した後、国王や宰相含むごく一部の臣下とともに、完全防音の会議室で予知の内容を確認するのであった。



「ミミー。その録音機は、私が預かろう」
「え…」


リュウの提案にわずかながら戸惑う。
数瞬遅れて彼女は気づいた。
目の前にいる青年こそ、彼女が予知内容を提出するべき相手――王族であるのだということに。



「これは私が陛下に直接提出しよう。これでも私は王族の一員であるし、目の前にいるのにわざわざ管理人と宰相を間に挟むのは手間で時間の無駄だろう」
「えっと…良いのでしょうか…?」
「取り決めには、予知した内容は教会か王族に提出することとなっている。もともと君個人では直接、私達王族にアポイントを取ることが出来ないから、間に管理人と宰相を挟んでいるにすぎない。これは私が責任を持って、陛下に提出しよう。
 …先程、不可抗力とはいえ予知の内容を耳にしてしまったからね…。それも含めて、陛下に報告しなければならないんだ」


リュウの言葉に、ミミーは納得した。

ミミーには先読みの巫女としての誇りがあった。

今視た予知が現実の物となるのなら、女の子が1人亡くなってしまう。その前に防いで欲しいと思った。
ミミーには何を意味するのかわからないことが多かったが、きっと王族ならばその意味を知ることが出来るのだろう。
彼女に出来ることは、視た内容を正確に記録し、しかるべき所に提出することだけだ。
女の子の無事はもちろんだが、女性が罪を犯す必要がないようにしてほしい。



「リュウ王子…。どうぞ、これをお役立てください」


彼女は目の前にいる王族――リュウ第一王子に録音機を手渡した。


「あぁ、確かに預かった。――これから私は陛下の元へ急がなければならない。悪いが、あの図鑑はまた預かっていて貰えないか。次に来たときにまた読みたい」
「かしこまりました」


ミミーはリュウに深く頭を下げた。
振り向くことなくリュウは図書室をあとにする。


リュウが図書室を出て数分後に、管理人が戻ってきた。
予知内容は提出済みであったため、ミミーは王子とのやりとりを管理人に報告しなかった。


第一王子に録音機を手渡したこと、休憩から戻った管理人に予知したことを報告しなかったことを、彼女は後悔するのだった。

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