先読みの巫女を妄信した王子の末路

しがついつか

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妄信した王子は婚約者を断罪する

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今日は秋の収穫祭だ。
今年は豊作であり、国中の至る所で、秋の収穫を祝う祭りが催されている。
町の大通りには屋台が建ち並び、人々は思い思いに料理と酒を楽しんだ。



城では国王主催のパーティーが開催され、国中の貴族達が集った
豊作を喜び、誰もが笑顔だ。
国王も傍目に見てわかるほど上機嫌である。

宴もたけなわとなった会場に、不届き者が現れるまでは――。



楽団が奏でる美しい音色が曲の終わりにさしかかり、徐々に小さくなった頃。
ホールにその声が響き渡った。


「アイシャ!――アイシャ・イーグルはいないか!」


この国の第一王子が突然声を上げたのだ。
王子の声は良く響いた。
参加する貴族達の誰もが、何事かと玉座の前に立つ王子を見上げた。

皆が国王の姿を見ることが出来るように、玉座は数段高い位置に造られている。
宴を楽しむため国王はフロアに降りていたので、玉座には誰もいなかった。


リュウはその隙を狙って、玉座の前ステージに躍り出たのだ。

国王は息子の突然の行動に眉をひそめるが、様子を見ることにしたようだ。
傍に控える護衛に、念のため会場内の騎士達に警戒するようにと伝えておく。

リュウに名を呼ばれたアイシャ・イーグルは、彼の婚約者である。
アイシャは慌てずゆっくりと歩み寄る。
彼女は藍色の美しく長い髪を持ち、それをハーフアップにまとめ上げており、水色のドレスを身につけていた。


「――お呼びでしょうか」
「アイシャ…。君には失望したよ」
「…どういうことでしょうか?」


突然呼び出されたかと思えば、婚約者から侮蔑の眼差しを向けられることに、アイシャは困惑した。
先程まで離れた場所にいたアイシャの家族――イーグル家の皆は、そっとアイシャの背後に集まった。
彼女を守ることが出来るようにするためだ。

第一王子らのやりとりを、会場の皆が注目していた。




「アイシャよ、イーグル家の家紋はだったな」
「家紋…でございますか? 確かに、我がイーグル家の家紋は花――でございます」
「では、君が好む色は?」
「…薄紫でございます」
「薄紫のレースをあしらったドレスを、君は好んで良く着ていたはずだ。間違いないか?」
「は、はい」
「そうか…」


質問の意図がつかめなかった。
アイシャだけでなく、周囲で聞いている者達すべてが困惑していた。
彼女との問答に納得したリュウは一つ頷くと、アイシャを真っ直ぐに見据えて宣言した。


「ならば私は、アイシャ・イーグルとこのまま婚姻することは出来ない。罪を犯す者を王族に迎え入れるわけにはいかないからだ!」
「罪…。――私は誓って、恥ずべき行いなどしてはおりません。私がいったいどのような罪を犯したとおっしゃるのですか!」


謂われ無き罪に問われ、アイシャはふらついた。
しかしすぐに気を取り直し、抗議する。
そんな婚約者の姿に、リュウはふんと鼻で笑う。


「三日前、今代の先読みの巫女が予知したのだ。そなたがエマ・ラビリンスを毒殺するとな」
「――なんですって?」


ざわり。
第一王子の発言に会場内にいる誰もが驚愕した。
国王でさえも、息子の発言に驚き目を丸くする。








巫女が予知したなら、必ず国王の耳に入るはずだ。
しかしこの三日間、巫女が予知したという報告は受けていない。

国王は傍に控えていた宰相に小声で問うた。

「巫女が予知したという報告は受けているか?」
「いえ、何も聞いておりません。――お前はどうだ?」
「私もです」



宰相は否定し宰相補佐に確認するが、彼も否定する。

宰相への報告義務がある図書室の管理人も、身分は貴族であるためこの宴に参加しているはずだ。
宰相は部下に管理人達を呼び寄せるよう指示した。

幸か不幸か、この場には教会関係者はいない。
彼らは例年通り王都の教会で秋の収穫を祝っている。
もし王族が巫女の予知を隠匿したとなれば、教会は黙ってはいないだろう。

部下はすぐに管理人の1人を連れて戻ってきた。
彼は巫女から報告を受けていないという。
もう1人の管理人も聞いていないそうで、宰相の部下の指示の元、数名の騎士を伴いそのまま巫女を探しに行った。
巫女は貴族ではないのでこの宴には参加する権利がないし、昨日彼女は城下におりて祭りを楽しむといっていた。


(リュウのやつ…いったいどういうつもりだ?)


国王は舞台に立つ息子に鋭い目を向ける。
何らかの意図があって、巫女が予知したと虚偽の発言をして場を騒がせているだけならば、理由によっては情状酌量の余地はあるだろう。
だがもし彼が巫女の予知を入手し、隠匿したのであれば重罪である。

部下から何かの報告を受けた宰相が、国王にそっと耳打ちする。


「陛下、エマ・ラビリンスはラビリンス家の三女で9歳。本日この会場に来ており、無事を確認いたしました」
「――あやつはと言ったな…」


既に毒殺された少女の名を出すのなら犯人捜しの意図があると推測できるが、生きている少女の名を出したのだ。
リュウは予知を入手し、それを元に行動している可能性が高い。


(馬鹿が…)


国王はそっとため息をつくと、第一王子を切り捨てる方向で思考を巡らせた。





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