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宴の終わり
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アイシャが追求している間に、宰相の下に騎士の1人が近づいた。
管理人と共に巫女を探しに行った騎士の1人で、巫女を見つけ出し王城に連れて戻ってきたのだ。
巫女は城下の出店で購入した商品を一度部屋に置きに戻るため、城門近くにいたのですぐに発見できたようだ。
騎士の報告によると、巫女は三日前に予知をしており、さらにその予知内容をリュウ第一王子に渡したという。
「あの馬鹿め…。確認も考察もせずに予知を鵜呑みにしたな…」
国王はこみ上げる怒りを静めようと、深呼吸をする。
巫女の予知内容の正確性は、巫女の知識や語彙力によって大きく左右される。
例えば『1人の男がコップを割る瞬間』を様々な立場の人間が見たとしよう。
彼らに見たことをそのまま報告してもらうと、『男がコップを割った』という事実は共通しているが、細部に違いが出るのだ。
美容師ならば髪型に注目し『男の髪型はツーブロックのオールバックで、カラーはアッシュグレー』という情報を出すかもしれない。
服に詳しい者なら衣服に注目し『ブティック・ラディッシュで仕立てたジャケットを着た男』と言うかもしれない。
男の友人であれば『トムが奥さん愛用のコップを落として割っていた』と報告するだろう。
この見た者によって情報量がバラつく予知内容から、『誰が』『いつ』『どこで』『何をしたか』を明確にしなければ、被害を防ぐことはできない。
今代の巫女は平民出身である。
司書として勤めてから積極的に勉強してはいるようだが、知識不足は否めない。
彼女が家紋を正しく理解できていたかは怪しいところだ。
巫女が予知した内容は、国王と一部の臣下、教会の最高責任者のみで確認し、事象が発生する時期を推理する必要がある。
時には巫女に確認を取りながら、予知が意味するところを突き止めていかねばならない。
王子はその作業を怠った上に、予知という不確かな未来の事象をもって婚約者を断罪したのだ。
不確かな証拠のみを信じるなど、王族として失格である。
国王は宰相に耳打ちすると、ひとまずこの場を納めるべく玉座へと向かった。
「そこまでだ」
「…陛下…」
人垣が割れ国王が現れると、リュウは泣き出しそうな迷子のような顔を父に向けた。
それを無視して国王は冤罪をかけられたアイシャに言葉をかける。
「アイシャ・イーグルよ、愚息がすまなかった。謂われ無き罪に問われ、さぞかし心を痛めたことだろう。話題に出たエマ・ラビリンスは健在であるし、この会場に来ておる。そなたが無実であることは火を見るより明らかだ。
――第一、三日前に巫女から予知があったなど、儂は聞いておらん」
巫女が予知したのならば、国王の耳に入らないわけがない。
これにより大半の者が、先程王子が言った予知は嘘だったのではないかと結論づけた。
国王はリュウを睨み付ける。
「リュウよ、何を思ってこの宴の場で婚約者に冤罪をかけようとしたのかはわからんが、詳しい話はこの後、別室にて聞くことにしよう」
「あ…う…」
「――連れて行け」
棒立ちになっている王子に騎士団長が近づき、声をかけ、会場の出口へと誘導した。
王子が会場から出て行くと、国王が宰相に合図をする。
宰相はグラスを盆に載せた給仕達を会場に入れた。
「――皆の者、騒がせてすまなかったな…。巫女の予知を騙り場を混乱させてしまった詫びとして、特級の葡萄酒とウィスキー、酒が飲めぬ者には隣国より取り寄せた最上級の林檎ジュースを振る舞おう。儂はしばし席を外すが、皆には引き続き宴を楽しんでもらいたい」
国王の言葉と共に、給仕達がグラスを配った。
貴族であっても滅多に口に出来ない特級の酒に、酒豪は大いに喜び杯を重ねた。
下戸や子供達は、この国でも評判となっている高級メーカーの林檎ジュースを喜んで口にした。
徐々に宴は元の賑わいを取り戻していった。
宴を王妃と宰相補佐に任せて、国王は宰相と共に会場を後にする。
宰相の部下に声をかけられ、関係者が数名会場の外へと消えていったが、気にする者はいなかった。
管理人と共に巫女を探しに行った騎士の1人で、巫女を見つけ出し王城に連れて戻ってきたのだ。
巫女は城下の出店で購入した商品を一度部屋に置きに戻るため、城門近くにいたのですぐに発見できたようだ。
騎士の報告によると、巫女は三日前に予知をしており、さらにその予知内容をリュウ第一王子に渡したという。
「あの馬鹿め…。確認も考察もせずに予知を鵜呑みにしたな…」
国王はこみ上げる怒りを静めようと、深呼吸をする。
巫女の予知内容の正確性は、巫女の知識や語彙力によって大きく左右される。
例えば『1人の男がコップを割る瞬間』を様々な立場の人間が見たとしよう。
彼らに見たことをそのまま報告してもらうと、『男がコップを割った』という事実は共通しているが、細部に違いが出るのだ。
美容師ならば髪型に注目し『男の髪型はツーブロックのオールバックで、カラーはアッシュグレー』という情報を出すかもしれない。
服に詳しい者なら衣服に注目し『ブティック・ラディッシュで仕立てたジャケットを着た男』と言うかもしれない。
男の友人であれば『トムが奥さん愛用のコップを落として割っていた』と報告するだろう。
この見た者によって情報量がバラつく予知内容から、『誰が』『いつ』『どこで』『何をしたか』を明確にしなければ、被害を防ぐことはできない。
今代の巫女は平民出身である。
司書として勤めてから積極的に勉強してはいるようだが、知識不足は否めない。
彼女が家紋を正しく理解できていたかは怪しいところだ。
巫女が予知した内容は、国王と一部の臣下、教会の最高責任者のみで確認し、事象が発生する時期を推理する必要がある。
時には巫女に確認を取りながら、予知が意味するところを突き止めていかねばならない。
王子はその作業を怠った上に、予知という不確かな未来の事象をもって婚約者を断罪したのだ。
不確かな証拠のみを信じるなど、王族として失格である。
国王は宰相に耳打ちすると、ひとまずこの場を納めるべく玉座へと向かった。
「そこまでだ」
「…陛下…」
人垣が割れ国王が現れると、リュウは泣き出しそうな迷子のような顔を父に向けた。
それを無視して国王は冤罪をかけられたアイシャに言葉をかける。
「アイシャ・イーグルよ、愚息がすまなかった。謂われ無き罪に問われ、さぞかし心を痛めたことだろう。話題に出たエマ・ラビリンスは健在であるし、この会場に来ておる。そなたが無実であることは火を見るより明らかだ。
――第一、三日前に巫女から予知があったなど、儂は聞いておらん」
巫女が予知したのならば、国王の耳に入らないわけがない。
これにより大半の者が、先程王子が言った予知は嘘だったのではないかと結論づけた。
国王はリュウを睨み付ける。
「リュウよ、何を思ってこの宴の場で婚約者に冤罪をかけようとしたのかはわからんが、詳しい話はこの後、別室にて聞くことにしよう」
「あ…う…」
「――連れて行け」
棒立ちになっている王子に騎士団長が近づき、声をかけ、会場の出口へと誘導した。
王子が会場から出て行くと、国王が宰相に合図をする。
宰相はグラスを盆に載せた給仕達を会場に入れた。
「――皆の者、騒がせてすまなかったな…。巫女の予知を騙り場を混乱させてしまった詫びとして、特級の葡萄酒とウィスキー、酒が飲めぬ者には隣国より取り寄せた最上級の林檎ジュースを振る舞おう。儂はしばし席を外すが、皆には引き続き宴を楽しんでもらいたい」
国王の言葉と共に、給仕達がグラスを配った。
貴族であっても滅多に口に出来ない特級の酒に、酒豪は大いに喜び杯を重ねた。
下戸や子供達は、この国でも評判となっている高級メーカーの林檎ジュースを喜んで口にした。
徐々に宴は元の賑わいを取り戻していった。
宴を王妃と宰相補佐に任せて、国王は宰相と共に会場を後にする。
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