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王子の事情聴取
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国王が宰相を伴い10人程度が入れる小会議室に入ると、椅子に座らされ項垂れている第一王子の姿があった。
彼の傍らには騎士団長が立っており、万が一王子が逃げだそうとしても押さえつけられるようになっている。
室内には他に法務大臣、機密情報管理責任者が席についており、記録係の2名が部屋の隅の文机に待機していた。
会議室の外では、入り口の両脇に騎士が2名控えており誰も通さないように見張っている。
関係者が揃っていることがわかると、国王は席に着くやいなや口を開いた。
「リュウよ、何か申し開きはあるか?」
「誠に申し訳ございませんでした…」
国王の問いに、リュウは頭を下げた。
「それは何に対する謝罪だ?」
「…私的なことで宴の場を台無しにしてしまったこと、そして――巫女の予知を隠匿したことです…」
隠匿したことを、リュウは素直に認めた。
国王は深いため息を吐いた。
「隠したと認めるか…。巫女から予知を預かったのならばなぜ儂に提出しなかった――いや、まずは順を追って聞こう。
そもそも、どうやって巫女の予知を入手した?」
リュウが顔を上げると、正面に座る国王の眼光の鋭さに震えた。
顔は青ざめ、冷や汗が伝う。
「…三日前、私が図書室で調べ物をしていると、書架の整理をしていた巫女の様子がおかしいことに気づきました。
駆け寄ると、彼女は録音機を取り出し予知した内容を記録し始めたのです。
私はその場で予知の内容を耳にしました」
「その場に、図書室の管理人の姿はありましたか?」
宰相が質問する。
「不在でした。1人は非番で、もう1人は昼休憩に出ていたのです。――図書室には私と巫女の2人だけでした」
「では、巫女があなたに録音機を渡したのですか?」
「いえ、違います。巫女は管理人が戻ったら録音機の提出に行くので、図書室を閉めると言いました。
私は図鑑で調べ物をしていたので、借りるのなら今のうちに貸し出しの手続きを行うと提案してくれたのです。
――私が、巫女に言ったのです…。私が録音機を預かる、と…」
「預かってどうするつもりだったのですか?」
「預かって、陛下に提出するつもりでした。もちろん、提出するまでは厳重に管理するつもりで…」
「巫女は素直に渡してくれたのですか?」
「――少し、戸惑ったようでした…。でも私が『私も王族だ』『予知は王族か教会に提出の義務がある』『ここに王族がいるのに管理人と宰相を挟むのは手間だ』と。それから『私が責任を持って国王陛下に提出する』と告げると、巫女は納得した様子で録音機を手渡してくれました…」
今のリュウの証言により、巫女への疑いは晴れた。
彼女は従来通りの方法で予知を報告しようとしていたのだ。
それを止めたのが第一王子であった。
「巫女には予知があったことを管理人に報告しないように口止めをしたのですか?」
「そんなことはしていません!」
静かに聞いていた国王が口を挟む。
「――巫女から管理人への報告義務はあったか?」
「いえ、ございません。王族と教会への報告義務があるのみです」
国王の問いに法務大臣が答える。
その隣で機密情報管理責任者も頷いた。
「管理人と宰相への報告も必須とせねばならんな…」
「次回の法案会議の議題で取り上げましょう」
法務大臣がメモを取る。
「それでは――巫女から預かった録音機は、その後どうしたのですか?」
「懐に入れ、自室に持ち帰りました。部屋に帰ったら録音機を金庫にしまい、遣いを出して陛下への謁見を願い出るつもりでした…」
「『つもりだった』ということは、実行しなかったのですよね。それは何故です?」
「――部屋に戻ったとき、秘書官のルーイが不在だったのです。彼は決裁書類の提出に出ていました。そして金庫に録音機をしまった時、バルト――従者の1人が部屋に入ってきたのです」
「ルーイ・スワンとバルト・フォックスですね」
「はい」
スワン家は『誠実であれ』という家訓の元、行動する。
時折、融通が利かないこともあるが嘘偽りを嫌うため、法務官の道を選ぶものが多い。
三日前の行動を振り返りながら、リュウは思う。
この時ルーイ・スワンが不在でなければ、と。
彼がいれば、きっと己の愚行を止めてくれただろうに。
「バルト・フォックスが入室して、それからどうしました?」
「バルトは鍵を閉めた金庫を見て…それで――そうだ、『予知を預かったのか』と聞いてきました」
リュウがそう言った途端、室内に緊張が走った。
「…バルト・フォックスは、殿下が金庫に録音機をしまうところを見ていたということでしょうか」
「――いえ、あの時は確か…金庫の扉を閉めて鍵をかけるタイミングで部屋のドアが開いて、バルトが入室してきたのです」
そう言ってからリュウは気づく。
金庫に仕舞ったものを見ていないはずなのに、彼は予知かと聞いてきた。
当てずっぽうだったのかもしれないが、それにしても真っ先に予知という言葉が出るものだろうか。
「殿下は、自室の金庫に予知以外の物を保管したことがないのですか」
違うとわかっていて、あえて宰相は聞いた。
問答を記録に残すためだ。
「いえ、そんなことはありません。…そもそも、巫女の予知を預かったのは今回が初めてです」
「その通りだ」
国王が同意する。
「今代の巫女の予知を受け取ったことがあるのは、儂と王妃のみだ。――もっとも、誰かが握りつぶしていなければな…」
「後ほど巫女にも確認を取りましょう」
宰相が言うと、次いで騎士団長が問うた。
「バルト・フォックスを拘束しますか?」
「事情を聞かねばならんな。事情を聞くまでは貴族牢に入れておけ。抵抗するようなら拘束せよ」
「承知しました」
入り口付近の席に座っていた宰相がドアを開け、騎士を1名部屋の中に招き入れた。
騎士団長に命じられると騎士は一礼した後、退室していった。
彼の傍らには騎士団長が立っており、万が一王子が逃げだそうとしても押さえつけられるようになっている。
室内には他に法務大臣、機密情報管理責任者が席についており、記録係の2名が部屋の隅の文机に待機していた。
会議室の外では、入り口の両脇に騎士が2名控えており誰も通さないように見張っている。
関係者が揃っていることがわかると、国王は席に着くやいなや口を開いた。
「リュウよ、何か申し開きはあるか?」
「誠に申し訳ございませんでした…」
国王の問いに、リュウは頭を下げた。
「それは何に対する謝罪だ?」
「…私的なことで宴の場を台無しにしてしまったこと、そして――巫女の予知を隠匿したことです…」
隠匿したことを、リュウは素直に認めた。
国王は深いため息を吐いた。
「隠したと認めるか…。巫女から予知を預かったのならばなぜ儂に提出しなかった――いや、まずは順を追って聞こう。
そもそも、どうやって巫女の予知を入手した?」
リュウが顔を上げると、正面に座る国王の眼光の鋭さに震えた。
顔は青ざめ、冷や汗が伝う。
「…三日前、私が図書室で調べ物をしていると、書架の整理をしていた巫女の様子がおかしいことに気づきました。
駆け寄ると、彼女は録音機を取り出し予知した内容を記録し始めたのです。
私はその場で予知の内容を耳にしました」
「その場に、図書室の管理人の姿はありましたか?」
宰相が質問する。
「不在でした。1人は非番で、もう1人は昼休憩に出ていたのです。――図書室には私と巫女の2人だけでした」
「では、巫女があなたに録音機を渡したのですか?」
「いえ、違います。巫女は管理人が戻ったら録音機の提出に行くので、図書室を閉めると言いました。
私は図鑑で調べ物をしていたので、借りるのなら今のうちに貸し出しの手続きを行うと提案してくれたのです。
――私が、巫女に言ったのです…。私が録音機を預かる、と…」
「預かってどうするつもりだったのですか?」
「預かって、陛下に提出するつもりでした。もちろん、提出するまでは厳重に管理するつもりで…」
「巫女は素直に渡してくれたのですか?」
「――少し、戸惑ったようでした…。でも私が『私も王族だ』『予知は王族か教会に提出の義務がある』『ここに王族がいるのに管理人と宰相を挟むのは手間だ』と。それから『私が責任を持って国王陛下に提出する』と告げると、巫女は納得した様子で録音機を手渡してくれました…」
今のリュウの証言により、巫女への疑いは晴れた。
彼女は従来通りの方法で予知を報告しようとしていたのだ。
それを止めたのが第一王子であった。
「巫女には予知があったことを管理人に報告しないように口止めをしたのですか?」
「そんなことはしていません!」
静かに聞いていた国王が口を挟む。
「――巫女から管理人への報告義務はあったか?」
「いえ、ございません。王族と教会への報告義務があるのみです」
国王の問いに法務大臣が答える。
その隣で機密情報管理責任者も頷いた。
「管理人と宰相への報告も必須とせねばならんな…」
「次回の法案会議の議題で取り上げましょう」
法務大臣がメモを取る。
「それでは――巫女から預かった録音機は、その後どうしたのですか?」
「懐に入れ、自室に持ち帰りました。部屋に帰ったら録音機を金庫にしまい、遣いを出して陛下への謁見を願い出るつもりでした…」
「『つもりだった』ということは、実行しなかったのですよね。それは何故です?」
「――部屋に戻ったとき、秘書官のルーイが不在だったのです。彼は決裁書類の提出に出ていました。そして金庫に録音機をしまった時、バルト――従者の1人が部屋に入ってきたのです」
「ルーイ・スワンとバルト・フォックスですね」
「はい」
スワン家は『誠実であれ』という家訓の元、行動する。
時折、融通が利かないこともあるが嘘偽りを嫌うため、法務官の道を選ぶものが多い。
三日前の行動を振り返りながら、リュウは思う。
この時ルーイ・スワンが不在でなければ、と。
彼がいれば、きっと己の愚行を止めてくれただろうに。
「バルト・フォックスが入室して、それからどうしました?」
「バルトは鍵を閉めた金庫を見て…それで――そうだ、『予知を預かったのか』と聞いてきました」
リュウがそう言った途端、室内に緊張が走った。
「…バルト・フォックスは、殿下が金庫に録音機をしまうところを見ていたということでしょうか」
「――いえ、あの時は確か…金庫の扉を閉めて鍵をかけるタイミングで部屋のドアが開いて、バルトが入室してきたのです」
そう言ってからリュウは気づく。
金庫に仕舞ったものを見ていないはずなのに、彼は予知かと聞いてきた。
当てずっぽうだったのかもしれないが、それにしても真っ先に予知という言葉が出るものだろうか。
「殿下は、自室の金庫に予知以外の物を保管したことがないのですか」
違うとわかっていて、あえて宰相は聞いた。
問答を記録に残すためだ。
「いえ、そんなことはありません。…そもそも、巫女の予知を預かったのは今回が初めてです」
「その通りだ」
国王が同意する。
「今代の巫女の予知を受け取ったことがあるのは、儂と王妃のみだ。――もっとも、誰かが握りつぶしていなければな…」
「後ほど巫女にも確認を取りましょう」
宰相が言うと、次いで騎士団長が問うた。
「バルト・フォックスを拘束しますか?」
「事情を聞かねばならんな。事情を聞くまでは貴族牢に入れておけ。抵抗するようなら拘束せよ」
「承知しました」
入り口付近の席に座っていた宰相がドアを開け、騎士を1名部屋の中に招き入れた。
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