先読みの巫女を妄信した王子の末路

しがついつか

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バルト・フォックスの告白

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バルト・フォックスは抵抗することなく、騎士に連行されて貴族牢へ入った。

第一王子を洗脳した容疑をかけられた彼は、事情聴取で開口一番にこう言った。


「私は殿下のことが大嫌いです」



予想外の言葉に、取調官達は眉を寄せた。
記録係でさえ、速記の手を一瞬止めてしまった。

バルト・フォックスは次のように語った。








「私はリュウ殿下が大嫌いです。
 殿下は王族の1人としてならそれほど問題ないでしょう。
 けれど彼は第一王子――王位継承権第一位の方です。
 このままいけば殿下が次期国王になるのでしょう。
 けど…あの方は国王の器ではない。次代の国王が彼では、間違いなく国が潰れてしまうでしょう」

「彼の良いところは人当たりの良さだけです。――というか、舐められてるのに気づいていないんですよ。
 私が無礼な発言をしても、彼は苦笑して『仕方ないな』と言うんです。
 …友達でもないのに…」

「殿下は先輩――ルーイ・スワンがいるから、ボロを出してないだけですよ。
 先輩はクソ真面目で融通が利かない堅物だけど、仕事は早く公私混同はしないし、上下関係の線引きがしっかりしている。――そうですね、先輩のことは割と尊敬してます。
 …でも先輩が優秀すぎたから、殿下が成長しなかったんじゃないかと思ってます。
 先輩、殿下が優柔不断なことはお見通しだから、選択肢が5つあったら2つに絞り込んであげるんです。
 それでも殿下が迷うようなら、さりげなくより良い方を選ばせてやってるんです」

「生まれが良かっただけで、殿下は何も出来ないんだなって思いました。
 ――でもね、生まれが良かったからあんなに素敵な女性と婚約できたんです。
 イーグル嬢はとても努力家です。
 誰かさんと違ってね…」


「イーグル嬢は殿下に手紙や贈り物をしていました。
 けれど、殿下はそれを受け取っても、お礼状もお礼の品を送るのもすべて先輩に任せるんです!
 婚約者の誕生日だというのに、わざわざカタログを用意してくれた先輩に『良さそうなのを適当に見繕ってくれ』って丸投げですよ!
 信じられない!
 婚約者を何だと思ってるんだ!」


「それだけでも最低ですが、殿下はさらに酷かった。
 あろうことか、巫女様に想いを寄せるようになったのです。
 最低ですよ…。
 婚約者の誕生日は覚えていないくせに、巫女様の誕生日には贈り物を用意したんです。…ご自分でね」


「イーグル嬢は国内の問題を解決するために日々模索し、積極的に活動しています。
 彼女の活動記録や調査結果は都度、殿下に提出しているのです。
 殿下の役に立ってほしいってね。
 イーグル嬢の調査資料は丁度かゆいところに手が届くような内容となっており、私や先輩は大変重宝していました。
 ――殿下ですか? 読まずにポイですよ…。
 それどころか数年前に的中された巫女様の予知内容を、未だに絶賛してるんです…馬鹿ですよ。
 殿下にとっては、『今を見て未来のために活動する婚約者』の言葉より、『未来を視て今すべきことを考えさせる巫女様』の言葉を重視してるんです。
 巫女様を神聖視してるというよりは、ただ好きな女のことだけを考えていたいんじゃないですかね?」



「あの人…わざわざ図書室の管理人がいない時間を調べて、2人きりになれるように執務の合間を縫って会いに行くんです。
 ――最低でしょ?
 イーグル嬢のために時間を割いた事なんて無かったのに…。
 ――ええ、殿下のことを軽蔑しましたよ」

「だから私は図書室に盗聴器を仕掛けたのです。
 殿下の不貞の証拠を得ることが出来ないかと思ってね…。
 その証拠があれば、イーグル嬢に傷を付けずに婚約解消出来るのではないかと思ったのです。
 …結果として、巫女様の予知を拾ってしまうとう予想外なことが起きてしまいましたよ」



「…そうです。
 私は予知を聞いて、アイシャ・イーグルが罪を犯すのだと思ったのです。
 同時に、彼女を犯人にしてはいけないと思いました。
 ――予知の内容を宴の場で周知してしまえば、実現することはないだろうと思いました。
 巫女の予知は必ず実現するものではありません。回避することが可能です。
 だったら、大勢の前で予知の内容を暴露してしまえば、実際にイーグル嬢が犯人だとしても行動に起こすことはないだろうと思ったのです。
 名指しされた本人はもちろん、周囲の人間が警戒するはずですからね。
 予知が外れれば良いと思ったのです」


「後から冷静になって考えてみたら、巫女様はイーグル嬢が犯人だなんて一言も言ってないし、青い髪の女性なんてそこら中にいます。
 エマ・ラビリンスは現在9歳。巫女様の予知ではが被害者だと言っていたので、ラビリンス嬢が本当に被害者だとしてもだいぶ先のことでしょうね…」


「はい、殿
 殿下には『アイシャ・イーグルと婚約破棄する』、『収穫祭の宴の途中で断罪する』、『アイシャ・イーグルが罪を犯した』という3つの暗示を行いました。
 ――誤解しないでほしいのですがこの暗示は、暗示をかけられた者の意思に反することなら効果がないのです。
 殿下がイーグル嬢を信頼し『彼女がそんなことをするはずがない』と少しでも思ったなら、暗示になんてかからないのです。
 『断罪したい』『婚約破棄をしたい』と思う気持ちが少しでもなければ、実際に行動に移すようなことはないのですよ」


「暗示をかけたのは私ですが、行動に移すか決めたのは殿です」


「私が言うのもなんですが、リュウ第一王子殿下がこのまま次期国王となるのは非常に心配です。
 私ごときの暗示に簡単にかかったのですよ?
 もし先輩がいなくなったりしたら、あっという間に私腹を肥やすためにすり寄ってきた連中に食い物にされますよ」


「もちろん、私のやったことは許されないことです。王族に危害を加えたのですから。
 ――ですが、後悔はしておりません。
 これから恐ろしい拷問が待っているとしても、国が腐る要因を排除できるのならば本望です」



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