9 / 11
バルト・フォックスの告白
しおりを挟む
バルト・フォックスは抵抗することなく、騎士に連行されて貴族牢へ入った。
第一王子を洗脳した容疑をかけられた彼は、事情聴取で開口一番にこう言った。
「私は殿下のことが大嫌いです」
予想外の言葉に、取調官達は眉を寄せた。
記録係でさえ、速記の手を一瞬止めてしまった。
バルト・フォックスは次のように語った。
「私はリュウ殿下が大嫌いです。
殿下は王族の1人としてならそれほど問題ないでしょう。
けれど彼は第一王子――王位継承権第一位の方です。
このままいけば殿下が次期国王になるのでしょう。
けど…あの方は国王の器ではない。次代の国王が彼では、間違いなく国が潰れてしまうでしょう」
「彼の良いところは人当たりの良さだけです。――というか、舐められてるのに気づいていないんですよ。
私が無礼な発言をしても、彼は苦笑して『仕方ないな』と言うんです。
…友達でもないのに…」
「殿下は先輩――ルーイ・スワンがいるから、ボロを出してないだけですよ。
先輩はクソ真面目で融通が利かない堅物だけど、仕事は早く公私混同はしないし、上下関係の線引きがしっかりしている。――そうですね、先輩のことは割と尊敬してます。
…でも先輩が優秀すぎたから、殿下が成長しなかったんじゃないかと思ってます。
先輩、殿下が優柔不断なことはお見通しだから、選択肢が5つあったら2つに絞り込んであげるんです。
それでも殿下が迷うようなら、さりげなくより良い方を選ばせてやってるんです」
「生まれが良かっただけで、殿下は何も出来ないんだなって思いました。
――でもね、生まれが良かったからあんなに素敵な女性と婚約できたんです。
イーグル嬢はとても努力家です。
誰かさんと違ってね…」
「イーグル嬢は殿下に手紙や贈り物をしていました。
けれど、殿下はそれを受け取っても、お礼状もお礼の品を送るのもすべて先輩に任せるんです!
婚約者の誕生日だというのに、わざわざカタログを用意してくれた先輩に『良さそうなのを適当に見繕ってくれ』って丸投げですよ!
信じられない!
婚約者を何だと思ってるんだ!」
「それだけでも最低ですが、殿下はさらに酷かった。
あろうことか、巫女様に想いを寄せるようになったのです。
最低ですよ…。
婚約者の誕生日は覚えていないくせに、巫女様の誕生日には贈り物を用意したんです。…ご自分でね」
「イーグル嬢は国内の問題を解決するために日々模索し、積極的に活動しています。
彼女の活動記録や調査結果は都度、殿下に提出しているのです。
殿下の役に立ってほしいってね。
イーグル嬢の調査資料は丁度かゆいところに手が届くような内容となっており、私や先輩は大変重宝していました。
――殿下ですか? 読まずにポイですよ…。
それどころか数年前に的中された巫女様の予知内容を、未だに絶賛してるんです…馬鹿ですよ。
殿下にとっては、『今を見て未来のために活動する婚約者』の言葉より、『未来を視て今すべきことを考えさせる巫女様』の言葉を重視してるんです。
巫女様を神聖視してるというよりは、ただ好きな女のことだけを考えていたいんじゃないですかね?」
「あの人…わざわざ図書室の管理人がいない時間を調べて、2人きりになれるように執務の合間を縫って会いに行くんです。
――最低でしょ?
イーグル嬢のために時間を割いた事なんて無かったのに…。
――ええ、殿下のことを軽蔑しましたよ」
「だから私は図書室に盗聴器を仕掛けたのです。
殿下の不貞の証拠を得ることが出来ないかと思ってね…。
その証拠があれば、イーグル嬢に傷を付けずに婚約解消出来るのではないかと思ったのです。
…結果として、巫女様の予知を拾ってしまうとう予想外なことが起きてしまいましたよ」
「…そうです。
私は予知を聞いて、アイシャ・イーグルが罪を犯すのだと思ったのです。
同時に、彼女を犯人にしてはいけないと思いました。
――予知の内容を宴の場で周知してしまえば、実現することはないだろうと思いました。
巫女の予知は必ず実現するものではありません。回避することが可能です。
だったら、大勢の前で予知の内容を暴露してしまえば、実際にイーグル嬢が犯人だとしても行動に起こすことはないだろうと思ったのです。
名指しされた本人はもちろん、周囲の人間が警戒するはずですからね。
予知が外れれば良いと思ったのです」
「後から冷静になって考えてみたら、巫女様はイーグル嬢が犯人だなんて一言も言ってないし、青い髪の女性なんてそこら中にいます。
エマ・ラビリンスは現在9歳。巫女様の予知では15歳くらいの少女が被害者だと言っていたので、ラビリンス嬢が本当に被害者だとしてもだいぶ先のことでしょうね…」
「はい、殿下に暗示をかけたのは私です。
殿下には『アイシャ・イーグルと婚約破棄する』、『収穫祭の宴の途中で断罪する』、『アイシャ・イーグルが罪を犯した』という3つの暗示を行いました。
――誤解しないでほしいのですがこの暗示は、暗示をかけられた者の意思に反することなら効果がないのです。
殿下がイーグル嬢を信頼し『彼女がそんなことをするはずがない』と少しでも思ったなら、暗示になんてかからないのです。
『断罪したい』『婚約破棄をしたい』と思う気持ちが少しでもなければ、実際に行動に移すようなことはないのですよ」
「暗示をかけたのは私ですが、行動に移すか決めたのは殿下の本心です」
「私が言うのもなんですが、リュウ第一王子殿下がこのまま次期国王となるのは非常に心配です。
私ごときの暗示に簡単にかかったのですよ?
もし先輩がいなくなったりしたら、あっという間に私腹を肥やすためにすり寄ってきた連中に食い物にされますよ」
「もちろん、私のやったことは許されないことです。王族に危害を加えたのですから。
――ですが、後悔はしておりません。
これから恐ろしい拷問が待っているとしても、国が腐る要因を排除できるのならば本望です」
第一王子を洗脳した容疑をかけられた彼は、事情聴取で開口一番にこう言った。
「私は殿下のことが大嫌いです」
予想外の言葉に、取調官達は眉を寄せた。
記録係でさえ、速記の手を一瞬止めてしまった。
バルト・フォックスは次のように語った。
「私はリュウ殿下が大嫌いです。
殿下は王族の1人としてならそれほど問題ないでしょう。
けれど彼は第一王子――王位継承権第一位の方です。
このままいけば殿下が次期国王になるのでしょう。
けど…あの方は国王の器ではない。次代の国王が彼では、間違いなく国が潰れてしまうでしょう」
「彼の良いところは人当たりの良さだけです。――というか、舐められてるのに気づいていないんですよ。
私が無礼な発言をしても、彼は苦笑して『仕方ないな』と言うんです。
…友達でもないのに…」
「殿下は先輩――ルーイ・スワンがいるから、ボロを出してないだけですよ。
先輩はクソ真面目で融通が利かない堅物だけど、仕事は早く公私混同はしないし、上下関係の線引きがしっかりしている。――そうですね、先輩のことは割と尊敬してます。
…でも先輩が優秀すぎたから、殿下が成長しなかったんじゃないかと思ってます。
先輩、殿下が優柔不断なことはお見通しだから、選択肢が5つあったら2つに絞り込んであげるんです。
それでも殿下が迷うようなら、さりげなくより良い方を選ばせてやってるんです」
「生まれが良かっただけで、殿下は何も出来ないんだなって思いました。
――でもね、生まれが良かったからあんなに素敵な女性と婚約できたんです。
イーグル嬢はとても努力家です。
誰かさんと違ってね…」
「イーグル嬢は殿下に手紙や贈り物をしていました。
けれど、殿下はそれを受け取っても、お礼状もお礼の品を送るのもすべて先輩に任せるんです!
婚約者の誕生日だというのに、わざわざカタログを用意してくれた先輩に『良さそうなのを適当に見繕ってくれ』って丸投げですよ!
信じられない!
婚約者を何だと思ってるんだ!」
「それだけでも最低ですが、殿下はさらに酷かった。
あろうことか、巫女様に想いを寄せるようになったのです。
最低ですよ…。
婚約者の誕生日は覚えていないくせに、巫女様の誕生日には贈り物を用意したんです。…ご自分でね」
「イーグル嬢は国内の問題を解決するために日々模索し、積極的に活動しています。
彼女の活動記録や調査結果は都度、殿下に提出しているのです。
殿下の役に立ってほしいってね。
イーグル嬢の調査資料は丁度かゆいところに手が届くような内容となっており、私や先輩は大変重宝していました。
――殿下ですか? 読まずにポイですよ…。
それどころか数年前に的中された巫女様の予知内容を、未だに絶賛してるんです…馬鹿ですよ。
殿下にとっては、『今を見て未来のために活動する婚約者』の言葉より、『未来を視て今すべきことを考えさせる巫女様』の言葉を重視してるんです。
巫女様を神聖視してるというよりは、ただ好きな女のことだけを考えていたいんじゃないですかね?」
「あの人…わざわざ図書室の管理人がいない時間を調べて、2人きりになれるように執務の合間を縫って会いに行くんです。
――最低でしょ?
イーグル嬢のために時間を割いた事なんて無かったのに…。
――ええ、殿下のことを軽蔑しましたよ」
「だから私は図書室に盗聴器を仕掛けたのです。
殿下の不貞の証拠を得ることが出来ないかと思ってね…。
その証拠があれば、イーグル嬢に傷を付けずに婚約解消出来るのではないかと思ったのです。
…結果として、巫女様の予知を拾ってしまうとう予想外なことが起きてしまいましたよ」
「…そうです。
私は予知を聞いて、アイシャ・イーグルが罪を犯すのだと思ったのです。
同時に、彼女を犯人にしてはいけないと思いました。
――予知の内容を宴の場で周知してしまえば、実現することはないだろうと思いました。
巫女の予知は必ず実現するものではありません。回避することが可能です。
だったら、大勢の前で予知の内容を暴露してしまえば、実際にイーグル嬢が犯人だとしても行動に起こすことはないだろうと思ったのです。
名指しされた本人はもちろん、周囲の人間が警戒するはずですからね。
予知が外れれば良いと思ったのです」
「後から冷静になって考えてみたら、巫女様はイーグル嬢が犯人だなんて一言も言ってないし、青い髪の女性なんてそこら中にいます。
エマ・ラビリンスは現在9歳。巫女様の予知では15歳くらいの少女が被害者だと言っていたので、ラビリンス嬢が本当に被害者だとしてもだいぶ先のことでしょうね…」
「はい、殿下に暗示をかけたのは私です。
殿下には『アイシャ・イーグルと婚約破棄する』、『収穫祭の宴の途中で断罪する』、『アイシャ・イーグルが罪を犯した』という3つの暗示を行いました。
――誤解しないでほしいのですがこの暗示は、暗示をかけられた者の意思に反することなら効果がないのです。
殿下がイーグル嬢を信頼し『彼女がそんなことをするはずがない』と少しでも思ったなら、暗示になんてかからないのです。
『断罪したい』『婚約破棄をしたい』と思う気持ちが少しでもなければ、実際に行動に移すようなことはないのですよ」
「暗示をかけたのは私ですが、行動に移すか決めたのは殿下の本心です」
「私が言うのもなんですが、リュウ第一王子殿下がこのまま次期国王となるのは非常に心配です。
私ごときの暗示に簡単にかかったのですよ?
もし先輩がいなくなったりしたら、あっという間に私腹を肥やすためにすり寄ってきた連中に食い物にされますよ」
「もちろん、私のやったことは許されないことです。王族に危害を加えたのですから。
――ですが、後悔はしておりません。
これから恐ろしい拷問が待っているとしても、国が腐る要因を排除できるのならば本望です」
170
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?とっくにしてますけど笑
蘧饗礪
ファンタジー
ウクリナ王国の公爵令嬢アリア・ラミーリアの婚約者は、見た目完璧、中身最悪の第2王子エディヤ・ウクリナである。彼の10人目の愛人は最近男爵になったマリハス家の令嬢ディアナだ。
さて、そろそろ婚約破棄をしましょうか。
【完結】お姉様!脱お花畑いたしましょう
との
恋愛
「私と結婚して頂けますか?」
今日は人生で最高に幸せな日ですわ。リオンから結婚を申し込まれましたの。
真実の愛だそうです。
ホントに? お花畑のお姉様ですから、とっても心配です。私の中のお姉様情報には引っかかっていない方ですし。
家族のため頑張って、脱お花畑目指していただきます。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。不慣れな点、多々あるかと思います。
よろしくお願いします。
完 これが何か、お分かりになりますか?〜リスカ令嬢の華麗なる復讐劇〜
水鳥楓椛
恋愛
バージンロード、それは花嫁が通る美しき華道。
しかし、本日行われる王太子夫妻の結婚式は、どうやら少し異なっている様子。
「ジュリアンヌ・ネモフィエラ!王太子妃にあるまじき陰湿な女め!今この瞬間を以て、僕、いいや、王太子レアンドル・ハイリーの名に誓い、貴様との婚約を破棄する!!」
不穏な言葉から始まる結婚式の行き着く先は———?
これまでは悉く妹に幸せを邪魔されていました。今後は違いますよ?
satomi
恋愛
ディラーノ侯爵家の義姉妹の姉・サマンサとユアノ。二人は同じ侯爵家のアーロン=ジェンキンスとの縁談に臨む。もともとはサマンサに来た縁談話だったのだが、姉のモノを悉く奪う義妹ユアノがお父様に「見合いの席に同席したい」と懇願し、何故かディラーノ家からは二人の娘が見合いの席に。
結果、ユアノがアーロンと婚約することになるのだが…
【完結】王太子は元婚約者から逃走する
みけの
ファンタジー
かつて、王太子アレン・リオ・アズライドは、婚約者であるセレナ・スタン公爵令嬢に婚約破棄を告げた。
『私は真実の愛を見つけたのだ!』と、ある男爵令嬢を抱き寄せて。
しかし男爵令嬢の不義により、騙されていたと嘆く王太子。
再びセレナと寄りを戻そうとするが、再三訴えても拒絶されてしまう。
ようやく逢える事になり、王太子は舞い上がるが……?
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる