そしてヒロインは売れ残った

しがついつか

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自称ヒロイン

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マーズ王国の住民は、貴賤に関係なく15歳になる年から3年間、王立学園に通うこととなっている。
学園は国の中央――王都にあるため、地方に住む者たちのために学生寮が完備されていた。

生徒の中には、学用品や日々の生活費を賄えるだけの財力を持たない者が少なくない。
特に平民の多くは幼いころから生活のため何らかの仕事に就いているが、学園に通うために退職せざるを得ない。
在学中は勉学に集中するため、特別な許可がない限りアルバイトが禁止されているため学園では、制服から学用品にいたるまで、生活するのに必要なものすべてが支給される。
学生寮の費用は無料だし、寮はもちろん学園の食堂でかかる食費も費用は国が負担している。

これらは身分や貧富に関係なく、全く同じものが支給される。
制服に関しては学年を識別するため、胸元に着けるバッジの色は学年によって異なるが、貴賤を区別するものはない。
富裕層からは質のいい物を使いたい、食事の質を上げたいという要望が毎年上がってくるが、学園長並びに国王により却下されている。
主に学園内での盗難を防ぐことが目的だ。また、特に裕福な貴族が民の暮らしを知るための、貴重な経験の場としているためだ。
王族も例外なく、学園在学中は格段にランクが下がった品質の衣服と食事をとることとなる。


教科書は生徒には配布されない。授業中は教師による口頭説明や板書の内容をノートに書き写し、聞き洩らしたことや不明瞭な部分があれば図書室に置いてあるものを確認するようになっている。


平民と貴族では学生寮と校舎が別となっている。
寮が別なのは主に安全面を考慮してのことだ。

校舎が別れているのは、貴族と平民では入学前の学習の進捗度合いが大きく異なるため、同じクラスで勉強することが難しいためだ。
文字の習得から始めなければならないような平民と、領地経営の書類を裁けるほどの知識を持った貴族の学生を同じ教室においた場合、平民に合わせたら貴族には無駄な時間となるし、貴族に合わせたら平民はついていけない。

講堂や食堂、図書室は共有であるし、放課後のクラブ活動は貴賤関係なく所属が可能だ。身分に関係ない交流はそこで行うことができる。




北方の村出身のリーリエは今年、学園入学のために入寮した一人だ。


貴族の学生は一人部屋であるが、平民の寮は4人部屋だ。
リーリエと同室となったのは、同じく北方の町村からきた少女たちだ。
金髪で桃色の瞳を持つ、愛らしい顔立ちのモモ。
赤毛でそばかすのある、溌溂としたエマ。
茶色の髪を一本のおさげにしている、おっとりとしたエミリア。

モモとエマは同じ町の出身だそうだ。


「みんな優しそうだし、モモより可愛い子いなくてよかった! っていうかがそう何人もいたら大変だもん、あたりまえか」


お互いの名前と出身地を言い合い、挨拶を済ませたところ、モモが邪気のない笑顔で言った。


驚くリーリエとエミリアに対して、エマが『ごめん、こういう子なの』と小声で謝った。

初対面でモモに対して『ん?』と思うことはあったが、同室の人間関係はまずまず問題なさそうだった。



(何となく、モモとはあんまり関わりたくないなぁ…)


同室である以上、これから毎日顔を合わせる必要があるため、無関係ではいられない。

その後の雑談でも、モモの発言で顔を引きつらせること数回。
エマの瞳がだんだん死んでいくのが気になった。









「ねえ、エマ…」
「わかってる。モモのことでしょ? あの子はあれが通常運転よ…」


雑談が一段落し、モモが『いい男がいないか探してくるわ!』と意気揚々と部屋を出て行った後、遠慮がちに声をかけるエミリアに、エマは疲れた顔で言った。


「まあ…通常運転…」
「なんか、『絶世の美少女』とか『世界中の男が私を放っておかない』とか言ってたけど、あれってさあ…」
「本気でそう思ってんのよ」
「「…」」


他にもモモは雑談の中で、
『私はみんなに愛されてる』
『学園でも男の子たちが私の取り合いをしちゃうだろうから、困っちゃう』
『きっと王子様だって私にメロメロ』
などと宣ったのだ。


しばしの沈黙。


「え…本気で? 心の底から、自分が美少女…いや、たしかに可愛いよ。可愛いけどさぁ」
「うん、わかる。リーリエの言いたいことはわかる。でも本当に心の底からそう思ってんの。ほらさ、よく物語でみんなに愛されるタイプのヒロインいるじゃない?自分もそういう存在だと本気で思ってんのよ」
「誰か、周りの人が言ってあげたりはしなかったの?」


エミリアの問いに、エマは深いため息をついた。


「モモの親も含めて、みんなで諭したけど…妄想が加速するだけだった…」
「そう…」
「うわぁ…」


両親も娘可愛さにぶっ飛んでいるのかと思ったが、エマから聞く限り、頭がおかしいのはモモだけのようだ。
4つ年上でよく似た顔の彼女の姉はなため、モモの奇行に頭を悩ませているらしい。



「止めてあげたほうがいいのかな…?」
「いや、あの子のお姉さんからは放っといていいって言われてる。変に構ったりすると、同類と思われて今後の進路に影響がでるだろうからってさ」
「そう…」
「やばそうな行動してたらその場で止めるよりも、遠慮なく先生に報告しちゃっていいよ。言って聞くような性格だったらとっくに矯正できてるんだから」
「なるほど…」
「わかったわ」



リーリエは疲れた顔のエマの肩を、『お疲れ様』というようにポンと叩いた。

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