そしてヒロインは売れ残った

しがついつか

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ヒロインのやらかし

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入学から1か月。
モモは

『ついにやらかした』とかではない。彼女は『毎日やらかしている』のだ。


入寮した日には男子寮を探し当て突撃し、顔のいい男子生徒にのみ『あなたなら私の隣に並んでもいいわよ!』と宣言して回った。
突撃した男子寮は平民用だったので厳重注意のみで済んだのだが、貴族用だったら下手したら排除されていただろう。この世から。


入学式では、新入生代表挨拶を行ったロベルト・パシフィック侯爵令息に対して、入学式後に教室へと移動する生徒の流れを無視して一直線に彼のもとに行き、自己紹介とともに仲良くしてほしいと告げた。その際、無礼にも彼の手を両手で握った。
周囲が目を見張る中、令息はにこやかな笑みで「そう」とだけ言い、そっとモモの手を離した。
彼女はすぐさま教師に捕獲され、連行された。



拒絶されなかったためか、それからパシフィック侯爵令息は度々モモに絡まれることとなる。
その度に令息は、にこやかな笑顔で対応していた。

昼休みの食堂で彼が婚約者と昼食をとっていてもお構いなしだ。
婚約者であるアリア・オーシャン伯爵令嬢の存在など眼中にないようで、モモの視線はまっすぐに侯爵令息に向いていた。

リーリエが目撃した限りでは、オーシャン伯爵令嬢はモモに対して嫌悪や怒りはなく、ただ呆れているようだった。

あまりにもであり、彼女の目的が顔の良い男子生徒と近づくことだとはっきりしているため、貴族令嬢からは一周回って無害判定されているようだった。
罠を仕掛けるでもなく、婚約者の令嬢を陥れるでもなく、真正面からやってきて『私可愛いでしょ?』アピールをするだけなのだ。
これにひっかかるような男なら、こちらから願い下げである――と貴族だけでなく平民の女子生徒は思っていた。


モモのお眼鏡にかなう何人かの男子生徒が彼女に笑顔で接しているため、彼女はだと感じているようだ。







「ロベルト様にマイク様、ウィル様でしょ~。あと、ボブ君もね。みーんなモモのことが好きだから、困っちゃうわ~!」


モモは寮の部屋でリーリエ達に、毎日のように得意げに宣う。
日々、出てくる名前が増えていっているのが気になるところだ。
貴族と平民関係なく、顔のいい男の名前が追加されていく。


モモに声をかけられて『迷惑だからやめろ』とはっきり言った男子生徒がいたのだが、彼はモモの中で『自信がなくてモモの横に立つことができないのね。可哀そうに』とされていた。
はっきり拒絶すると、それ以降はモモから付きまとわれることがないとわかったため、男子生徒の方でも対処ができるようになっていた。
『いいわ、貴方が自信をもって私の横にたてるようになったら、貴方から声をかけてきてね』というスタンスのためである。




男子生徒にもモモと同郷の生徒が数名いたため、入学式から1か月たった今では、要注意人物であることが男女、学年関係なく学生たちの間に広まっていた。


病気や怪我で通学できない場合を除き、3年間の学園生活は義務であるため、よっぽどのことがなければ退学処分されることはまずない。
ましてやモモは、ただでしかない。
退学や停学処分とするには、大したことをやっていない。



時折、同郷であり寮が同室のエマに対して『どうにかしろ』と苦情を言ってくる生徒――主に顔の良い婚約者を持つ令嬢――もいるが、死んだ魚のような眼をしたエマとしばらく会話すると『あなたに言ってもしょうがないわね。ごめんなさいね』と同情した様子で帰っていった。




モモは都度都度、教師に叱られているのだが『先生、私が可愛いからって僻まないでくださいよぅ』と女性教師に言い、男性教師には『やだぁ、先生ったら。先生も私が好きなんでしょ?でもごめんね、先生は私の好みじゃないんだ!』と言い放つ。

お手上げであった。

最低限の人間としての常識は持ち合わせているようで、授業を妨害することはないため、教員たちも静観することにしたようだ。

長年この学園に努めている教師は、『貴族に無礼を働く平民は過去にもいたが、は初めてだ…』とボヤいているらしい。

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