2 / 8
ヒロインのやらかし
しおりを挟む
入学から1か月。
モモはやらかしていた。
『ついにやらかした』とかではない。彼女は『毎日やらかしている』のだ。
入寮した日には男子寮を探し当て突撃し、顔のいい男子生徒にのみ『あなたなら私の隣に並んでもいいわよ!』と宣言して回った。
突撃した男子寮は平民用だったので厳重注意のみで済んだのだが、貴族用だったら下手したら排除されていただろう。この世から。
入学式では、新入生代表挨拶を行ったロベルト・パシフィック侯爵令息に対して、入学式後に教室へと移動する生徒の流れを無視して一直線に彼のもとに行き、自己紹介とともに仲良くしてほしいと告げた。その際、無礼にも彼の手を両手で握った。
周囲が目を見張る中、令息はにこやかな笑みで「そう」とだけ言い、そっとモモの手を離した。
彼女はすぐさま教師に捕獲され、連行された。
拒絶されなかったためか、それからパシフィック侯爵令息は度々モモに絡まれることとなる。
その度に令息は、にこやかな笑顔で対応していた。
昼休みの食堂で彼が婚約者と昼食をとっていてもお構いなしだ。
婚約者であるアリア・オーシャン伯爵令嬢の存在など眼中にないようで、モモの視線はまっすぐに侯爵令息に向いていた。
リーリエが目撃した限りでは、オーシャン伯爵令嬢はモモに対して嫌悪や怒りはなく、ただ呆れているようだった。
あまりにもわかりやすく無礼であり、彼女の目的が顔の良い男子生徒と近づくことだとはっきりしているため、貴族令嬢からは一周回って無害判定されているようだった。
罠を仕掛けるでもなく、婚約者の令嬢を陥れるでもなく、真正面からやってきて『私可愛いでしょ?』アピールをするだけなのだ。
これにひっかかるような男なら、こちらから願い下げである――と貴族だけでなく平民の女子生徒は思っていた。
モモのお眼鏡にかなう何人かの男子生徒が彼女に笑顔で接しているため、彼女は脈ありだと感じているようだ。
「ロベルト様にマイク様、ウィル様でしょ~。あと、ボブ君もね。みーんなモモのことが好きだから、困っちゃうわ~!」
モモは寮の部屋でリーリエ達に、毎日のように得意げに宣う。
日々、出てくる名前が増えていっているのが気になるところだ。
貴族と平民関係なく、顔のいい男の名前が追加されていく。
モモに声をかけられて『迷惑だからやめろ』とはっきり言った男子生徒がいたのだが、彼はモモの中で『自信がなくてモモの横に立つことができないのね。可哀そうに』とされていた。
はっきり拒絶すると、それ以降はモモから付きまとわれることがないとわかったため、男子生徒の方でも対処ができるようになっていた。
『いいわ、貴方が自信をもって私の横にたてるようになったら、貴方から声をかけてきてね』というスタンスのためである。
男子生徒にもモモと同郷の生徒が数名いたため、入学式から1か月たった今では、要注意人物であることが男女、学年関係なく学生たちの間に広まっていた。
病気や怪我で通学できない場合を除き、3年間の学園生活は義務であるため、よっぽどのことがなければ退学処分されることはまずない。
ましてやモモは、ただ顔のいい男に声をかけるだけの問題児でしかない。
退学や停学処分とするには、大したことをやっていない。
時折、同郷であり寮が同室のエマに対して『どうにかしろ』と苦情を言ってくる生徒――主に顔の良い婚約者を持つ令嬢――もいるが、死んだ魚のような眼をしたエマとしばらく会話すると『あなたに言ってもしょうがないわね。ごめんなさいね』と同情した様子で帰っていった。
モモは都度都度、教師に叱られているのだが『先生、私が可愛いからって僻まないでくださいよぅ』と女性教師に言い、男性教師には『やだぁ、先生ったら。先生も私が好きなんでしょ?でもごめんね、先生は私の好みじゃないんだ!』と言い放つ。
お手上げであった。
最低限の人間としての常識は持ち合わせているようで、授業を妨害することはないため、教員たちも静観することにしたようだ。
長年この学園に努めている教師は、『貴族に無礼を働く平民は過去にもいたが、こういうのは初めてだ…』とボヤいているらしい。
モモはやらかしていた。
『ついにやらかした』とかではない。彼女は『毎日やらかしている』のだ。
入寮した日には男子寮を探し当て突撃し、顔のいい男子生徒にのみ『あなたなら私の隣に並んでもいいわよ!』と宣言して回った。
突撃した男子寮は平民用だったので厳重注意のみで済んだのだが、貴族用だったら下手したら排除されていただろう。この世から。
入学式では、新入生代表挨拶を行ったロベルト・パシフィック侯爵令息に対して、入学式後に教室へと移動する生徒の流れを無視して一直線に彼のもとに行き、自己紹介とともに仲良くしてほしいと告げた。その際、無礼にも彼の手を両手で握った。
周囲が目を見張る中、令息はにこやかな笑みで「そう」とだけ言い、そっとモモの手を離した。
彼女はすぐさま教師に捕獲され、連行された。
拒絶されなかったためか、それからパシフィック侯爵令息は度々モモに絡まれることとなる。
その度に令息は、にこやかな笑顔で対応していた。
昼休みの食堂で彼が婚約者と昼食をとっていてもお構いなしだ。
婚約者であるアリア・オーシャン伯爵令嬢の存在など眼中にないようで、モモの視線はまっすぐに侯爵令息に向いていた。
リーリエが目撃した限りでは、オーシャン伯爵令嬢はモモに対して嫌悪や怒りはなく、ただ呆れているようだった。
あまりにもわかりやすく無礼であり、彼女の目的が顔の良い男子生徒と近づくことだとはっきりしているため、貴族令嬢からは一周回って無害判定されているようだった。
罠を仕掛けるでもなく、婚約者の令嬢を陥れるでもなく、真正面からやってきて『私可愛いでしょ?』アピールをするだけなのだ。
これにひっかかるような男なら、こちらから願い下げである――と貴族だけでなく平民の女子生徒は思っていた。
モモのお眼鏡にかなう何人かの男子生徒が彼女に笑顔で接しているため、彼女は脈ありだと感じているようだ。
「ロベルト様にマイク様、ウィル様でしょ~。あと、ボブ君もね。みーんなモモのことが好きだから、困っちゃうわ~!」
モモは寮の部屋でリーリエ達に、毎日のように得意げに宣う。
日々、出てくる名前が増えていっているのが気になるところだ。
貴族と平民関係なく、顔のいい男の名前が追加されていく。
モモに声をかけられて『迷惑だからやめろ』とはっきり言った男子生徒がいたのだが、彼はモモの中で『自信がなくてモモの横に立つことができないのね。可哀そうに』とされていた。
はっきり拒絶すると、それ以降はモモから付きまとわれることがないとわかったため、男子生徒の方でも対処ができるようになっていた。
『いいわ、貴方が自信をもって私の横にたてるようになったら、貴方から声をかけてきてね』というスタンスのためである。
男子生徒にもモモと同郷の生徒が数名いたため、入学式から1か月たった今では、要注意人物であることが男女、学年関係なく学生たちの間に広まっていた。
病気や怪我で通学できない場合を除き、3年間の学園生活は義務であるため、よっぽどのことがなければ退学処分されることはまずない。
ましてやモモは、ただ顔のいい男に声をかけるだけの問題児でしかない。
退学や停学処分とするには、大したことをやっていない。
時折、同郷であり寮が同室のエマに対して『どうにかしろ』と苦情を言ってくる生徒――主に顔の良い婚約者を持つ令嬢――もいるが、死んだ魚のような眼をしたエマとしばらく会話すると『あなたに言ってもしょうがないわね。ごめんなさいね』と同情した様子で帰っていった。
モモは都度都度、教師に叱られているのだが『先生、私が可愛いからって僻まないでくださいよぅ』と女性教師に言い、男性教師には『やだぁ、先生ったら。先生も私が好きなんでしょ?でもごめんね、先生は私の好みじゃないんだ!』と言い放つ。
お手上げであった。
最低限の人間としての常識は持ち合わせているようで、授業を妨害することはないため、教員たちも静観することにしたようだ。
長年この学園に努めている教師は、『貴族に無礼を働く平民は過去にもいたが、こういうのは初めてだ…』とボヤいているらしい。
837
あなたにおすすめの小説
このわたくしが、婚約者になるはずでしょう!?
碧井 汐桜香
恋愛
先々代の王女が降嫁したほどの筆頭公爵家に産まれた、ルティアヌール公爵家の唯一の姫、メリアッセンヌ。
産まれた時から当然に王子と結婚すると本人も思っていたし、周囲も期待していた。
それは、身内のみと言っても、王宮で行われる王妃主催のお茶会で、本人が公言しても不敬とされないほどの。
そのためにメリアッセンヌ自身も大変努力し、勉学に励み、健康と美容のために毎日屋敷の敷地内をランニングし、外国語も複数扱えるようになった。
ただし、実際の内定発表は王子が成年を迎えた時に行うのが慣習だった。
第一王子を“ルーおにいさま”と慕う彼女に、第一王子は婚約内定発表の数日前、呼び出しをかける。
別の女性を隣に立たせ、「君とは結婚できない」と告げる王子の真意とは?
7話完結です
夏の眼差し
通木遼平
恋愛
伯爵令嬢であるティナの婚約者とティナの妹が恋仲になり、ティナは婚約を解消することになる。婚約者に対して特に思い入れはなかったが、姉妹の婚約のすげ替えについての噂と勝手なことばかり言う妹に気疲れしたティナは、昔から彼女を気にかけてくれていたイライザ夫人の紹介で夫人の孫娘リネットの話し相手として雇われることになった。
家から離れ、リネット共に穏やかな日々を過ごすティナは、リネットの従兄であるセオドアと出会う。
※他サイトにも掲載しています
乙女ゲームは始まらない
みかん桜
恋愛
異世界転生した公爵令嬢のオリヴィア。
婚約者である王太子殿下の周囲に、乙女ゲームのヒロインを自称する女が現れた。
だが現実的なオリヴィアは慌てない。
現実の貴族社会は、物語のように優しくはないのだから。
これは、乙女ゲームが始まらなかった世界の話。
※恋愛要素は背景程度です。
あなたに何されたって驚かない
こもろう
恋愛
相手の方が爵位が下で、幼馴染で、気心が知れている。
そりゃあ、愛のない結婚相手には申し分ないわよね。
そんな訳で、私ことサラ・リーンシー男爵令嬢はブレンダン・カモローノ伯爵子息の婚約者になった。
結婚が決まったそうです
ざっく
恋愛
お茶会で、「結婚が決まったそうですわね」と話しかけられて、全く身に覚えがないながらに、にっこりと笑ってごまかした。
文句を言うために父に会いに行った先で、婚約者……?な人に会う。
走馬灯に君はいない
優未
恋愛
リーンには前世の記憶がある。それは、愛を誓い合ったはずの恋人の真実を知り、命を落とすというもの。今世は1人で生きていくのもいいと思っていたところ、急に婚約話が浮上する。その相手は前世の恋人で―――。
絵姿
金峯蓮華
恋愛
お飾りの妻になるなんて思わなかった。貴族の娘なのだから政略結婚は仕方ないと思っていた。でも、きっと、お互いに歩み寄り、母のように幸せになれると信じていた。
それなのに……。
独自の異世界の緩いお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる