そしてヒロインは売れ残った

しがついつか

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卒業式といえば

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月日が経ち、早いもので今日はリーリエ達の卒業式である。

卒業後、リーリエは地元に帰って農業を手伝う予定である。
エミリアも家業を手伝うために帰郷予定だ。
エマは王都にある工房で、ガラス細工の職人見習いとして働くことが決まっている。


そしてモモは学園中が驚くことに、王国の主要港の役所で通訳としての就職が決まった。

平民でありながら学園在学中に3か国を習得したのだ。
かなり優秀だといえる。
王宮の外交官として働くためには最低でも2か国語のマスターが必須となっているため、モモにもその資格はあったのだが、王宮で働くには彼女の日頃の言動がマイナス評価されてしまった。


主要港では、要人の対応よりも外国籍の船の船員達への対応がメインとなるため、王宮よりはマナーに煩くない。
役所からは『唯一の問題点がはっきりしている分、逆に雇いやすい』と言われた。

モモは問題児ではあるのだが、学園生活の3年間で人の物を盗んだり、悪口を言って陥れたりすることは一度もなかった。
また相手がイケメンじゃなければ、彼女は問題行動をとらないのだ。


迷惑を被るのは顔の良い男子生徒のみ。
女子と、モモのお眼鏡にかなわなかった男子生徒にとっては、学園生活は平穏無事であった。


顔の良い男子生徒からは、厄介な相手への対応方法を学ぶ訓練として捉えられていた。
また婚約者がモモのターゲットになってしまった貴族令嬢からは、モモに対して婚約者がどのように対応するかの試金石として捉えられていた。

容姿が並み以下の男子生徒はもともと、顔の良い男に対する妬み嫉みがあったが、学園生活を送るうちにイケメンにも苦労があるんだなと実感した。モモからのアプローチを見ると『あれは別に羨ましくないな…』と思ったからだ。

女子生徒たちは、モモが可愛い少女であることも手伝い、男子生徒に気軽に声をかけられることへの嫉妬の気持ちがあったのだが、相手にされていない様を目の当たりにすると、嫉妬よりも哀れみの感情が大きくなった。
また『ああなってはいけない』という抑止力となっていた。



相手にはしたくないが、特に嫌ってはいない。
それが男女共通のモモに対する評価だった。





――さて、卒業式である。

式自体は講堂で行われ、下級生は参加しない。
学園長と来賓の国王陛下によりありがたいお言葉を頂戴するのみで、卒業の証となるような物は特に配られない。
卒業したことは国が管理する名簿にしっかりと記録されているため、就職等で学園を卒業しているかどうか証明するためには国の役所に問い合わせればいいのだ。
学園の運営費は税金だ。物品だとその分の製作費用は税金が使われることになる。無駄遣いできない税金を投入して卒業の証を用意しても、破損や紛失――ひどい場合は偽造のおそれがあるため作るだけ無駄だろうと判断された。


型通りの卒業式が終わると、食堂に移動しての立食パーティーとなる。
この日ばかりは貴族の基準に合わせた豪華な飲食物が並ぶ。
平民の生徒にとっては初めての豪華な御馳走。
食べ納めだと己の限界まで料理を胃に詰め込み、保健室で世話になってから学園を去る者が毎年現れる。



リーリエがエマとエミリアとお喋りしながら豪華な料理を頬張っていると突然、騒がしくなった。
騒ぎの中心は、彼女たちのすぐそばである。


(婚約破棄って言った?)


リーリエの耳には、男の声で『お前とは婚約破棄をする』と言ったように聞こえた。
彼女が声のした方に目を向けると、一人の男子生徒が女子生徒に指を突き付けていた。
彼らのすぐ傍にいた無関係な人が少しずつ後ろに下がると、騒動の中心人物を取り囲むような人垣ができる。



険しい顔の男子生徒に対し、不本意ながら注目を浴びてしまった女子生徒は、目の前の婚約者を冷めた目で見ていた。




「ベイブ様、なぜこの場でそのような話をするのですか?」
「ふん。今言わなければ、いつ言うというんだ。学園を卒業したらお前と籍を入れなきゃならないというのに」
「――でしたら、卒業式よりも前におっしゃればよかったのでは? 当日の、それも皆の門出を祝うパーティー会場で、わざわざ宣言することの意味が分かりません」
「お前に直接言っただけでは、もみ消されるだろうからな。逃げられないように皆に証人となってもらおうと思ったのだ」
「無関係の人を巻き込まないでください」


女子生徒――レイナ・ホワイト伯爵令嬢は、心底呆れたような表情で深いため息をついた。
そして婚約者――ベイブ・ピンキー子爵令息に軽蔑した目を向ける。



「なんだその目は。だいたい、お前のことは前から気に食わなかったんだ。会えば小言ばかり。勉強しろ勉強しろと煩いし。男を立てるということを知らないのか」
「女性の扱いと婚約者としての義務を知らないあなたに言われたくありません」
「チっ…。ああ言えばこう言う…」


リーリエ含む周囲のギャラリーは、彼らの様子を静観していた。


言い返されて、ピンキー子爵令息は苛立った様子で髪の毛をぐしゃぐしゃにした後、大きな声で宣言した。



「私には愛する者がいるのだ!」
「私のことね!」
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