なぜ、先輩は不親切なのか

しがついつか

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後輩はやる気を失っている

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カズヨが配属されてから1か月経過した。

もし目視できるとしたら、モチコ達の間には腰の高さまでの溝が確実に出来ているだろう。



ここ最近のカズヨは勤務態度がよろしくない。

始業のベルが鳴ってからパソコンを付け、トイレに立つ。
仕事中も何度か席を立ったまま15分ほど戻ってこない。

パソコンに向かっていても、ぼんやりして手が止まっている。
新しい作業を振っていないということもあるが、質問もしてこない。


やる気を失っているのは明らかだ。


――いや、鬱の一歩手前ともいえるだろう。



モチコは何となくわかった。
だが、躁鬱になっているモチコにはカズヨをなんとかする余裕など無い。

崖から落ちそうになっているモチコには、数十メートル先の崖の上に身を乗り出そうとしているカズヨを助けることなど出来ない。


助けを求めているのはモチコも同じだ。


モチコはずっと追い込まれていた。

カズヨから質問されても、モチコが答えを持ち合わせていないこともしばしばあった。
その場合はまとめてから上司に相談しているのだが、後輩の立場からするとすぐに答えが返ってこないのは不満なのだろう。


最近のカズヨからは、この人に聞いてもどうせわからないしなぁという雰囲気がにじみ出ている。

後輩のカズヨ視点からみたモチコはきっとこうだろう。

意見がコロコロ変わる。
質問しても回答が得られない。
冷たい。
話を聞いてくれない。
役立たず。
なんて酷い婆だ。



モチコはそれを肌で感じ取っている。


実を言うと、カズヨはモチコとタイプが似ているのだ。

モチコはカズヨを見ていると、数年前の己を思い出す。
彼女自身も同じように、先輩に対して不満や不信感を抱いたことがあった。
そして仕事に対して不満を抱え、やりがいを見いだせなくなった時期があり、その時の勤務態度が今のカズヨと類似しているのだ。





モチコは今になって思う。
あの時の先輩――当時は心の中でババア呼びしてごめんなさい――から嫌みをよく言われていたが、それは先輩の性格が悪いことだけが原因では無かったのだ。
モチコの要領を得ない質問や、指示された仕事とズレたことをしていること。
また先輩はあのプロジェクトで重圧を感じていたはずだ。
そういったことが積み重なって、モチコへの当たりが辛くなっていたのだろう。


何となく理解できた。

――まあ、だからといってモチコにとってはあの先輩は嫌いな人認定のままだが。



カズヨにとってのモチコも、きっとそうなるだろう。
願わくば、カズヨがモチコのような先輩にならないことを祈る。














モチコはカズヨに言いたい。

「こんなクソみたいな仕事、さっさと辞めた方が良いよ」

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