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26 真紅の姫君
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書斎にやってきたレイナは真紅のドレスを着ていた。
そういう恰好をしているから死亡フラグが立つんだぞ、とツッコミを入れるのを忘れるくらい、その美しさに目が引き寄せられた。
俺の知っている彼女よりは髪が短く、肩で切り揃えられているが、それは彼女の美しさを損なうものではなかった。こうして見ると最早女性にしか見えない。
「まずは嘘をついていたことを謝罪させてください」
「それは、俺に対して謝ることじゃないだろう」
レイナ姫は沈痛な面持ちで俯く。
「いや、すまない。責めるつもりはない」
「いいえ、私は民を欺いている大罪人ですから、好きなように罵ってください」
ああ、頼むからやめてくれ。ものすごく悪いことをしているような気持になる。
メタ的な読みで言えば、彼女が私利私欲の為に玉座を欲しているわけではないことくらい分かるのだ。
彼女は教会の孤児院によく現れるNPCで、その優しさは俺も知っている。
ゲームの存在だったからこそ、見捨てることにも多少の罪悪感しかなかったが、こうして目の当たりにすると助けたいという気持ちにも駆られそうになる。
しかし、彼女を助けることはあまりにリスクを伴うことだ。
王族同士の争いに巻き込まれ、魔王に対抗する為のタイムリミットを失うようなことがあれば、俺だってやりきれない気持ちになる。
この世界に来て、俺にも守りたいものが出来たのだ。
俺の守るべき場所は、ここではないはずだ。
「言い訳をするつもりはありませんが、これには深い事情があります」
「それはそうだろう。だけど、こんなこと正気じゃない。今のうちに王位継承権を手放した方が身の為だ。俺には、あんたが死に向かっているように見える。頼むから、考え直して欲しい」
「いずれ裁きは受けます。ですがその前に、弟の罪を民に知らせねばなりません。アルニスは邪悪な男です。部下を使って実の兄を毒殺し、善人を気取って奴隷を虐げているのですから」
王でありながら奴隷を虐げる。
なるほど、王としての資質は欠けていると言わざるを得ないようだ。
レイナ姫が王位につけばどれだけ素晴らしい国になるだろう。
だが、そんな未来は恐らく訪れない。
この世界は、レイナ姫死亡ルートへ向かっているように思える。
「王族の問題は王族で処理してくれ。申し訳ないが、俺には守るべき場所があるんだ」
「お力添えは頂けないようですね。勇者の役目は魔王を討つことであって、政争に加担することではありません。最初から、分かっていたことでした」
レイナ姫が儚く微笑む。
俺は、とても申し訳ない気持ちになった。
「アルニスには黙っていてください。私が男装して活動していることは、アルジャン公爵とこの屋敷のメイドしか知りません」
「元からそのつもりだ。何があってもあなたの真実は表に出さない」
「それは安心しました。報酬の屋敷については安心してください。権利書を今日の内にお渡ししますね」
俺は土地の権利書を貰う約束をして、彼女の屋敷を出ていった。
別れ際、俺はレイナに礼を言われた。
「そういえば、孤児院のこと、気にかけてくださってありがとうございます。子供達、とても喜んでましたよ」
「ああ……」
「私に何かあったら、大司教と共にあの子達のことをお願いします」
俺はボンヤリと頷くことしかできなかった。
「ふふ、お優しいんですね。でも、大丈夫ですよ。アルジャンは信頼できますし、教会も私を支えてくれています。あなたはどうか、ご自分の役目を果たしてください。私もそうするつもりですから」
俺にとってこの世界はゲームの世界の延長だった。
愛した女や、世話になった人、これから助けようと思っている人、そういう人達のことを人間として扱いつつも、どこかで有名キャラクターのことをNPCだと思っていた。
レイナ姫のことも、そうだった。
だが、何だろうな。この感情は……。
ただのデータの塊でしかなかったレイナ姫が、俺には尊い存在に思われた。
彼女は駆け引きをせずに約束を果たしてくれた。
屋敷を俺に譲り、セラの無実も約束してくれた。
俺は、レイナ姫のお陰で女達を連れて新しい屋敷へ移れた。
だが、どうにも後ろ髪を引かれるような気分が拭えなかった……。
そういう恰好をしているから死亡フラグが立つんだぞ、とツッコミを入れるのを忘れるくらい、その美しさに目が引き寄せられた。
俺の知っている彼女よりは髪が短く、肩で切り揃えられているが、それは彼女の美しさを損なうものではなかった。こうして見ると最早女性にしか見えない。
「まずは嘘をついていたことを謝罪させてください」
「それは、俺に対して謝ることじゃないだろう」
レイナ姫は沈痛な面持ちで俯く。
「いや、すまない。責めるつもりはない」
「いいえ、私は民を欺いている大罪人ですから、好きなように罵ってください」
ああ、頼むからやめてくれ。ものすごく悪いことをしているような気持になる。
メタ的な読みで言えば、彼女が私利私欲の為に玉座を欲しているわけではないことくらい分かるのだ。
彼女は教会の孤児院によく現れるNPCで、その優しさは俺も知っている。
ゲームの存在だったからこそ、見捨てることにも多少の罪悪感しかなかったが、こうして目の当たりにすると助けたいという気持ちにも駆られそうになる。
しかし、彼女を助けることはあまりにリスクを伴うことだ。
王族同士の争いに巻き込まれ、魔王に対抗する為のタイムリミットを失うようなことがあれば、俺だってやりきれない気持ちになる。
この世界に来て、俺にも守りたいものが出来たのだ。
俺の守るべき場所は、ここではないはずだ。
「言い訳をするつもりはありませんが、これには深い事情があります」
「それはそうだろう。だけど、こんなこと正気じゃない。今のうちに王位継承権を手放した方が身の為だ。俺には、あんたが死に向かっているように見える。頼むから、考え直して欲しい」
「いずれ裁きは受けます。ですがその前に、弟の罪を民に知らせねばなりません。アルニスは邪悪な男です。部下を使って実の兄を毒殺し、善人を気取って奴隷を虐げているのですから」
王でありながら奴隷を虐げる。
なるほど、王としての資質は欠けていると言わざるを得ないようだ。
レイナ姫が王位につけばどれだけ素晴らしい国になるだろう。
だが、そんな未来は恐らく訪れない。
この世界は、レイナ姫死亡ルートへ向かっているように思える。
「王族の問題は王族で処理してくれ。申し訳ないが、俺には守るべき場所があるんだ」
「お力添えは頂けないようですね。勇者の役目は魔王を討つことであって、政争に加担することではありません。最初から、分かっていたことでした」
レイナ姫が儚く微笑む。
俺は、とても申し訳ない気持ちになった。
「アルニスには黙っていてください。私が男装して活動していることは、アルジャン公爵とこの屋敷のメイドしか知りません」
「元からそのつもりだ。何があってもあなたの真実は表に出さない」
「それは安心しました。報酬の屋敷については安心してください。権利書を今日の内にお渡ししますね」
俺は土地の権利書を貰う約束をして、彼女の屋敷を出ていった。
別れ際、俺はレイナに礼を言われた。
「そういえば、孤児院のこと、気にかけてくださってありがとうございます。子供達、とても喜んでましたよ」
「ああ……」
「私に何かあったら、大司教と共にあの子達のことをお願いします」
俺はボンヤリと頷くことしかできなかった。
「ふふ、お優しいんですね。でも、大丈夫ですよ。アルジャンは信頼できますし、教会も私を支えてくれています。あなたはどうか、ご自分の役目を果たしてください。私もそうするつもりですから」
俺にとってこの世界はゲームの世界の延長だった。
愛した女や、世話になった人、これから助けようと思っている人、そういう人達のことを人間として扱いつつも、どこかで有名キャラクターのことをNPCだと思っていた。
レイナ姫のことも、そうだった。
だが、何だろうな。この感情は……。
ただのデータの塊でしかなかったレイナ姫が、俺には尊い存在に思われた。
彼女は駆け引きをせずに約束を果たしてくれた。
屋敷を俺に譲り、セラの無実も約束してくれた。
俺は、レイナ姫のお陰で女達を連れて新しい屋敷へ移れた。
だが、どうにも後ろ髪を引かれるような気分が拭えなかった……。
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