妹に手を出したというカルマを背負って転生する羽目になったけど、スキルを持ってるの俺だけなんで割と余裕な世界でした

みかん畑

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26.大司教(上)※三人称

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 話は、サミュエルが娘であるリーナに対する侮辱について、王家に抗議したところから始まる。

 その日、大司教ジェルマンは、宰相が国王に直訴する場面に出くわしていた。
 場所は謁見の間ではなく、国王の私室である。

 権力の中枢に食い込んでいるジェルマンは、大司教という身分でありながら、一年の半分を王宮で過ごしている。貴族同士の仲裁を頼まれることも多く、聖職者としてだけではなく、仲裁者としても存在感を示していた。

 いつもであれば涼しい顔で両者の仲を取り持つジェルマンだが、この日は流石に肝を冷やしていた。仲裁する相手が王族のトップと貴族のトップだったからだ。

「陛下、レオン王子の娘に対する当たりの強さは限度を超えています。娘は王子に人生を捧げるつもりで、厳しい妃教育を乗り越えたのです。だというのに、あの方は一切リーナのことを省みない。レオン王子は公爵家を蔑ろにされるおつもりですか」
「宰相よ、お前の気持ちは分かる。しかし、レオンは多感な年頃なのだ。今しばらく見守ることはできぬか」
「いいえ、我慢なりません。私は今までリーナに公爵家の令嬢として耐えることを強いてきました。その結果、娘は迷宮で鍛錬をするまでに思い詰めていたのです。これからは、娘の思うように人生を選ばせてやりたい。王子の為に娘の人生を犠牲にすることはできません」
「宰相殿、貴族の本分は王家を支えること。王なくして国は成り立たない。そのことを忘れてはならん」

 ジェルマンが宥めようとするが、宰相は娘を守る為に一歩も引く気はなかった。

「王の為に民があるのではない。民の為に王があるのだ。王家が重要だということは私とて理解している。だが、ものには限度というものがある。今レオン王子を諫められねば、いずれはお前も暗君に仕えることになるぞ」
「我々聖職者は神に仕える者。その指摘は的外れだな」
「二枚舌め。都合よく聖職者の顔と権力者の顔を使い分け、どっちつかずの蝙蝠がよく言う。女神様も天界で呆れているぞ」
「無礼な! 私はいつだって聖職者だ!」

 大司教と宰相が揉めそうになるのを、国王が制する。
 その顔には疲れが浮かんでいた。

「お前達、やめてくれ。レオンの増長を防げなかったのは私だ。だが、奴も馬鹿ではない。最後に頼りになるのは、妃教育をこなしたリーナであると気づくはずだ」
「もう手遅れです。リーナの気持ちは殿下から離れました。王家に対して婚約破棄を申し入れます」
「いや、待ってくれ。それは困る。リーナは異例の速さで妃教育を終わらせた逸材だ。将来は国の為に尽くしてくれると信じていたし、そうでなくては王家としても困る。この際、多少魔法が使えぬ程度のことは眼を瞑るつもりだし、不満があるなら私が話を聞こう。本人と話をさせてくれないか」
「陛下の願いであろうと、聞き入れることはできません。娘は責任感が強いのです。国の為と言われれば断ることは難しいでしょう。これ以上、娘の精神に悪影響を与えることはできません」

 宰相の頑なな態度に、国王は困惑していた。

「レオンは、リーナ嬢に対しそれ程に酷い態度を取ってきたのか」
「不快な髪色を染めること、後宮に入りミーシャを立てることを嫁ぐ条件にされたようです。話は全てアベール領で聞いています。真実の鐘がある以上、嘘をついていないでしょう」
「何ということだ……。ジェルマンよ、お前はレオンと親しくしているな。お前から見てレオンはどうだ。リーナ嬢に対して、きつく当たっているように見えるか」

 問われたジェルマンは、気まずそうに答える。

「ミーシャ嬢の後ろ楯になってほしいと頼まれましたが、まさかそこまでの条件をリーナ嬢に提示していたとは知りませんでした」
「これは、早急にレオンと話した方がよさそうだ。大司教よ、お前からも話を聞いてやってくれぬか」
「承知しました。殿下にも言い分はあるでしょうし、私から聞きだしてみましょう」
「頼りにしているぞ。大司教」

 王の私室を出たジェルマンは、共に退室した宰相と改めて対峙した。

「まったく、私から見ればどちらも思春期の少年少女だ。大人である我々が振り回されてどうする」
「大司教、最近の王子は行き過ぎている。いずれ神獣を得た時に、あのままではどう暴走するか分からない」
「殿下が魔神王になるとでも?」
「場所を選べ。誰かに聞かれたらどうする。一発で不敬罪だぞ」
「心配には及ばん。私には天の加護があるからな」
「お前の都合で天の加護が働くものか」
「宰相、生真面目に受け取り過ぎだ。上に立つ者は余裕がなくてはならん」

 重苦しい面談から解放されて気が楽になったのか、ジェルマンは饒舌に語り始める。

「話を戻すが、殿下は彼の王に対して王家の汚点とまで言い切っておられた。多少拘りの強いところはあるが、教養もあるし何よりカリスマ性もあられる。ミーシャ嬢の件については私からも取りなそう。だから、結論を急ぐのはよそうじゃないか」
「娘は既に新しい婚約者を選んでいる。陛下は頷いてくださらなかったが、当家では娘の婚約破棄は決定事項として捉えている」
「なんと……。殿下をおいて誰を選ぶと?」

 前のめりになる大司教から、宰相は一歩身を引いた。

「話してもいいが、代わりに協力してほしいことがある。その者が救世主として相応しいか見定めてほしいのだ」
「分かった。名前を聞こう」
「アシル・カバネルだ」
「ふむ。聞かん名だな」
「まだリーナと同じ年頃だからな。身元は侯爵家の嫡男だ。しかし、素行不良であまりいい噂は聞かない。ただ、実際に会った印象としては、王子とは違った意味でオーラを感じる青年だった。彼は私を相手に物怖じせず話をしていた。まるで、身分という価値観に囚われず、物事の本質を見ているようだった。あの若さであの胆力、末恐ろしいよ」
「教会の力を使って改めて身元を調べよう。救世主に相応しいかは、この私が責任を持って確認する」
「そうか。娘の伴侶になるかもしれない男だ。客観的な評価を頼むぞ」
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