妹に手を出したというカルマを背負って転生する羽目になったけど、スキルを持ってるの俺だけなんで割と余裕な世界でした

みかん畑

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25.奇跡

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「馬鹿な。像が泣くわけあるか。誰かの悪戯だろう」
「ミサの最中に、礼拝堂の女神像が涙を流したんです! 参加していた信徒達が証言者です!」
「くだらん」

 不安そうなシスターに対し、大司教は不信感をあらわにして指を突きつけた。

「お前達、私を謀ろうとしているのではあるまいな!」
「そのようなことは……。私達は大司教様がこられる今日という日を心待ちにしておりました」
「もういい。今日は帰る。この教会にはつまらん小細工がなされているようだ」
「お待ちください! 恐れを感じている信徒達の為に、一言だけでもいただけませんか?」
「何の為にフレデリクがいる! あいつに話をさせればいいだろう!」

 言い募るシスターを無視して、大司教は廊下を歩いて行った。
 その背中にユリアンは声を張った。

「ジェルマン大司教! 女神様の奇跡を感じませんか!」
「お前達の狙いは分かっている! つまらん小細工で私を動揺させようとしているんだろう! だが、企みは無駄に終わる! この教会を出れば、小細工のしようもなかろう!」
「我々は何も手出ししていません! この状況は女神様のご意思です!」
「黙れ小僧!」

 立ち止まった大司教が、憎々しげにユリアンを睨む。  

「私は何十年も祈り続けてきた。しかし、大司教である私でさえ、女神の奇跡など見たことはないのだ。妹を暴行するようなクズの為に天におわす女神様が力を振るうものか!」
「今、実際に起きているでしょう? 扉が固定され、女神像が涙まで流した。女神様は猊下にこの若者と対話をするよう促している。そう感じませんか」
「自作自演で白々しい。私はこのまま帰る。女神の奇跡とやらで私の足を止めてみるがいい!」

 頑なに奇跡を信じようとしない大司教は、まっすぐに教会の出入り口へは向かわず、ミサを行っている聖堂に足を向けた。そして、信徒達に向けてよく通る声で訴えかけた。

「お前達、狼狽えるな! 女神像の涙は罰当たりな者達の悪戯に過ぎん。お前達が狼狽えれば狼狽えるほど、悪戯を仕掛けた者達に愉悦を与えるだけだ!」
「しかし、我々は見ました! フレデリク司教が聖句を読んでいる最中に、突然女神像は涙を流し始めたのです。いったいこれはどういう仕掛けなのでしょうか? 私には誰かが仕掛けた悪戯のようには思えませんでした」
「俺も同じ気持ちです! 一瞬、女神像が悲しげにしているように感じました!」

 大司教は悪戯だと言い張ったが、それで納得している信徒はいなかった。むしろ大司教に対する不信感を彼らは抱いている。

「ええい、分からん奴らめ! フレデリク司教、この者達はなぜ私を敬わない!」
「私に当たられましても。猊下の言葉か彼らに響かなかっただけでは?」
「何だと!? お前まで私を裏切るのか!」
「裏切るも何も、私は感じたままに伝えただけです」

 憤怒に燃えた大司教が、パクパクと金魚のように口を動かしている。
 怒りの余り言葉すら出てこないようだった。

「覚えていろよ。教会内で私を謀って無事でいられると思うな」

 捨て台詞を吐いて、大司教が立ち去ろうとする。
 だが、表に通じる扉を開いた瞬間、稲光が鳴った。

「なっ……」

 先程まで快晴だったはずの空が、一瞬にして荒れ模様になっている。
 ゴウゴウと唸りを上げ、まるで台風のような強風が吹き荒れている。
 自分が開け放った扉が強風に煽られて戻ってきて、ジェルマンは尻餅をついた。

 ドンッ! と扉が閉まり、大司教が聖堂の方を振り返る。
 同時に、腰に差していた聖剣が輝き始めた。

 聖剣を中心とした強大な輝きに身体が包まれる。光は天へと伸びていき、巨大な光の柱となった。

 そして、光の柱の中を通り、天使が舞い降りてきた。
 信徒達は熱狂し、ジェルマンは蒼白になった。

「あ……うあぁぁぁ」
「大司教ジェルマン。お前の長年の信仰心に応える為に手を差し伸べたつもりだったが、無駄だったようだな」

 地上に顕現した天使の声を聴いた信徒達が、一斉に平伏する。
 大司教も膝をつき、天使を直視せずに床に頭をつけている。

「申し訳ありません……! まさか、この男が救世主だとは思いもせず!」
「面白い冗談だ。これだけ奇跡を起こしてもその可能性に至らないとは、大司教はよほどこの男を救世主にしたくなかったのだな」
「こ……この男は、妹に手を出したという噂で……」
「真実の鐘がある街で嘘に踊らされる者がいようとは。ましてやそれが大司教だったことに、女神は深い悲しみを抱いている」
「天使様! どうか最後のチャンスをお与えください! 私の名でアシルを救世主に認定します!」

 天使は頭を振ると、「お前はカナエルを裏切った」と告げた。

 突然の告発に、信徒達が騒ぎ始めた。

「大司教様! どういうことですか!」
「あんた隠してることがあるのか!?」
「う……」

 ジェルマンは言いよどむ。

「大司教ジェルマン。お前如きの浅知恵で我々を謀ることができると思ったか。潔く罪を認めぬというなら、貴様には天罰が下るだろう」

 天使に糾弾されたジェルマンは、目を伏せて沈黙した。
 それから、重たい口を開いた。

「……私は王家との繋がりを重視し、奇跡から目を背けました」
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