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24.大司教
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大司教が待つ教会に向かうと、先に到着していたユリアン侯爵の馬車が見えた。
領主のユリアンが親しげに片手をあげて挨拶をしてきた。
「やあ、サミュエル公爵から代わりに立ち合うよう頼まれたんだ」
「多忙ななか来てくださってありがとうございます」
「それほどでもないさ。部下達が優秀だからね」
和やかに挨拶を済ませる。ユリアン侯爵とは定期的に会って食事会をしているので、俺の方もだいぶ慣れてきた。
エレナとリーナを除けば、この世界で一番親身になってくれたのは彼だ。
いずれ俺が抱えている秘密についても打ち明けたいと思っている。
「ユリアン様がいてくださると心強いですよ」
「任せたまえ。ところで、後で時間をもらえるかな。君と個人的に話し合いたいことがあるんだ」
「ええ、もちろんです」
侯爵と共に教会に入る。
荘厳な雰囲気の中、腹の出た司教に出迎えられた。
「これはこれは。当教会にお越しくださってありがとうございます」
「久しいな、フレデリク。また腹が出たんじゃないか?」
「この年になると腹の肉が落ちづらくて困ります」
「まったく、清貧を心掛ける司教の腹とは思えんな」
「私が遠慮ばかりしていると子供達まで遠慮をしてしまいますので」
「よく回る舌だ。子供達に不便はさせてないか?」
「無論です。私が買われているのはその点だけですから」
教会の敷地内には孤児院もある。
フレデリクからは、自分の仕事はこなしているという自負を感じた。
「ジェルマン大司教は私の私室でお待ちです。どうぞついてきてください」
司教の先導で彼の私室へ向かったのだが、案内された部屋は聖職者らしい質素な部屋だった。応接スペースには先に来ていた大司教が腰かけている。
「迎えにも出られず申し訳ない。この年になると立っているのも難儀してね」
口振りとは裏腹に、筋肉質で体幹に振れがない。レベルも相当に高かった。
「女神教団大司教、ジェルマンだ。よろしく」
「ジェルマン大司教、今日はお会いできるのを楽しみにしていました。私は領主のユリアン・アベールです。そして、彼は救世主候補のアシル・カバネルです」
「噂には聞いているよ。まあ、座って話そうじゃないか」
応接用の椅子にそれぞれ腰かけ、話し合いが始まる。
参加者はユリアン侯爵と大司教ジェルマン、そして俺の3人だ。
案内してくれたフレデリク司教は、会議には参加しないようだった。
「さて、教会に救世主と聖女の認定をするようにとの話だったが、救世主の認定には規定の回数奇跡を起こすというルールがあってね。救世主なら5回、万人が認める奇跡が必要になる」
「具体的にはどのような奇跡が必要になるのですか?」
ユリアンの問いかけに、大司教は笑みを深めて答える。
「そうだな。記録にあるのは、魔法を使わずに病を癒した。未来を予知した。水をワインに変化させた。大事故から無傷で生還した……といったものになる。勿論、それ以外でも我々が奇跡だと判断できる内容なら、奇跡として数えさせてもらうよ」
「彼は既に奇跡をいくつか起こしています。盗賊に襲われて無傷で生還したこともそうですし、何より彼は聖剣に主として認められました」
「なるほど。しかし、盗賊に襲われて無事に生還したというのは、相応の実力があれば可能だと考えられるな。聖剣のことも、奇跡というには弱すぎる。ただ適性があったというだけではないか」
「その仰りようはいささか暴論では? 神話の時代以降、この聖剣を使いこなせた者はいません」
「記録がないだけかもしれん。聖剣を持てる者など歴史上そうはいない。担い手に相応しいか確かめること自体が今まで少なかったのだ。彼だけが聖剣を使いこなせるという証明にはならない。それに、慈悲深い女神様は救世主以外であっても手を差し伸べてくださるはずだ。女神様の慈悲を自分の手柄と思ってはならん。それは思い上がりというものだ」
大司教は俺を救世主と認めたくないような口ぶりだ。意地でも俺を認めないというなら、この会談自体が無駄になる。単刀直入に聞くことにした。
「猊下は俺が救世主ではないと判断されたんですね」
「アシル・カバネル。教会は聖人や聖女を認定する際に何をすると思う?」
「起こした奇跡の検証と、家族や友人への聞きこみでしょうか」
「分かってるじゃないか。お前は実の妹に対して姦淫の罪を犯そうとしたそうだな。可哀想に、お前の妹は未だトラウマを抱えていたぞ」
「俺は妹に手を出してなどいません」
元のアシルはともかく、俺は一切手を出していない。しかし、過去について言及されると弱い。実際のところ、何があったかを俺は知らないからだ。
「猊下、アシルの言葉で真実の鐘は鳴りましたか? 彼は妹に手を出していない。それが全てでしょう」
「違うな。この者は記憶を失っているそうではないか。過去の過ちを忘却したのだから、罪を否定して鐘が鳴らずとも不思議ではない」
大司教の中で結論は出ているようだ。これでは話すだけ時間の無駄だ。
「アシル君、時間の無駄になったな。この御仁は噂でしか人を判断できない方だとよく分かった」
「失礼な奴め。わざわざ私が来てやったと言うのに」
わざわざやって来てアシルに失格の烙印を押して帰っていく。そんなことをして、一体大司教に何のメリットがあるんだ? たまたまアメリーの悲劇を聞いて仇討ちの為にやってきた? まさかと思うが、他に理由が思いつかない。
「教会の意向は分かりました。しかし、アベール家とサヴァール家は彼こそが救世主だと考えています。その事だけは、お忘れなきよう」
「覚えておくとも。では、次の用事があるから私は失礼させてもらうよ」
大司教はしっかりとした足取りで部屋の扉の前に立った。そして、ドアノブを引こうとする。だが、扉は微動だにしない。まるで空間ごと固定されたように見える。
「つまらん小細工を。これで奇跡を演出したつもりか?」
もう一度引くと扉は開いた。しかし、すぐさまシスターが大司教の元にやってきた。
「騒々しいな。何かあったのか?」
「た……大変です。女神像が泣いているんです!」
領主のユリアンが親しげに片手をあげて挨拶をしてきた。
「やあ、サミュエル公爵から代わりに立ち合うよう頼まれたんだ」
「多忙ななか来てくださってありがとうございます」
「それほどでもないさ。部下達が優秀だからね」
和やかに挨拶を済ませる。ユリアン侯爵とは定期的に会って食事会をしているので、俺の方もだいぶ慣れてきた。
エレナとリーナを除けば、この世界で一番親身になってくれたのは彼だ。
いずれ俺が抱えている秘密についても打ち明けたいと思っている。
「ユリアン様がいてくださると心強いですよ」
「任せたまえ。ところで、後で時間をもらえるかな。君と個人的に話し合いたいことがあるんだ」
「ええ、もちろんです」
侯爵と共に教会に入る。
荘厳な雰囲気の中、腹の出た司教に出迎えられた。
「これはこれは。当教会にお越しくださってありがとうございます」
「久しいな、フレデリク。また腹が出たんじゃないか?」
「この年になると腹の肉が落ちづらくて困ります」
「まったく、清貧を心掛ける司教の腹とは思えんな」
「私が遠慮ばかりしていると子供達まで遠慮をしてしまいますので」
「よく回る舌だ。子供達に不便はさせてないか?」
「無論です。私が買われているのはその点だけですから」
教会の敷地内には孤児院もある。
フレデリクからは、自分の仕事はこなしているという自負を感じた。
「ジェルマン大司教は私の私室でお待ちです。どうぞついてきてください」
司教の先導で彼の私室へ向かったのだが、案内された部屋は聖職者らしい質素な部屋だった。応接スペースには先に来ていた大司教が腰かけている。
「迎えにも出られず申し訳ない。この年になると立っているのも難儀してね」
口振りとは裏腹に、筋肉質で体幹に振れがない。レベルも相当に高かった。
「女神教団大司教、ジェルマンだ。よろしく」
「ジェルマン大司教、今日はお会いできるのを楽しみにしていました。私は領主のユリアン・アベールです。そして、彼は救世主候補のアシル・カバネルです」
「噂には聞いているよ。まあ、座って話そうじゃないか」
応接用の椅子にそれぞれ腰かけ、話し合いが始まる。
参加者はユリアン侯爵と大司教ジェルマン、そして俺の3人だ。
案内してくれたフレデリク司教は、会議には参加しないようだった。
「さて、教会に救世主と聖女の認定をするようにとの話だったが、救世主の認定には規定の回数奇跡を起こすというルールがあってね。救世主なら5回、万人が認める奇跡が必要になる」
「具体的にはどのような奇跡が必要になるのですか?」
ユリアンの問いかけに、大司教は笑みを深めて答える。
「そうだな。記録にあるのは、魔法を使わずに病を癒した。未来を予知した。水をワインに変化させた。大事故から無傷で生還した……といったものになる。勿論、それ以外でも我々が奇跡だと判断できる内容なら、奇跡として数えさせてもらうよ」
「彼は既に奇跡をいくつか起こしています。盗賊に襲われて無傷で生還したこともそうですし、何より彼は聖剣に主として認められました」
「なるほど。しかし、盗賊に襲われて無事に生還したというのは、相応の実力があれば可能だと考えられるな。聖剣のことも、奇跡というには弱すぎる。ただ適性があったというだけではないか」
「その仰りようはいささか暴論では? 神話の時代以降、この聖剣を使いこなせた者はいません」
「記録がないだけかもしれん。聖剣を持てる者など歴史上そうはいない。担い手に相応しいか確かめること自体が今まで少なかったのだ。彼だけが聖剣を使いこなせるという証明にはならない。それに、慈悲深い女神様は救世主以外であっても手を差し伸べてくださるはずだ。女神様の慈悲を自分の手柄と思ってはならん。それは思い上がりというものだ」
大司教は俺を救世主と認めたくないような口ぶりだ。意地でも俺を認めないというなら、この会談自体が無駄になる。単刀直入に聞くことにした。
「猊下は俺が救世主ではないと判断されたんですね」
「アシル・カバネル。教会は聖人や聖女を認定する際に何をすると思う?」
「起こした奇跡の検証と、家族や友人への聞きこみでしょうか」
「分かってるじゃないか。お前は実の妹に対して姦淫の罪を犯そうとしたそうだな。可哀想に、お前の妹は未だトラウマを抱えていたぞ」
「俺は妹に手を出してなどいません」
元のアシルはともかく、俺は一切手を出していない。しかし、過去について言及されると弱い。実際のところ、何があったかを俺は知らないからだ。
「猊下、アシルの言葉で真実の鐘は鳴りましたか? 彼は妹に手を出していない。それが全てでしょう」
「違うな。この者は記憶を失っているそうではないか。過去の過ちを忘却したのだから、罪を否定して鐘が鳴らずとも不思議ではない」
大司教の中で結論は出ているようだ。これでは話すだけ時間の無駄だ。
「アシル君、時間の無駄になったな。この御仁は噂でしか人を判断できない方だとよく分かった」
「失礼な奴め。わざわざ私が来てやったと言うのに」
わざわざやって来てアシルに失格の烙印を押して帰っていく。そんなことをして、一体大司教に何のメリットがあるんだ? たまたまアメリーの悲劇を聞いて仇討ちの為にやってきた? まさかと思うが、他に理由が思いつかない。
「教会の意向は分かりました。しかし、アベール家とサヴァール家は彼こそが救世主だと考えています。その事だけは、お忘れなきよう」
「覚えておくとも。では、次の用事があるから私は失礼させてもらうよ」
大司教はしっかりとした足取りで部屋の扉の前に立った。そして、ドアノブを引こうとする。だが、扉は微動だにしない。まるで空間ごと固定されたように見える。
「つまらん小細工を。これで奇跡を演出したつもりか?」
もう一度引くと扉は開いた。しかし、すぐさまシスターが大司教の元にやってきた。
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