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1.脅迫
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魔神王を下し、穏やかな日常が戻ってくると思っていた俺だが、アシル・カバネルが抱えているヤバい業は、遅効性の毒のように俺を襲った。
アシルが強姦したという妹が、面会を求めてきたのである。
実家からは一度顔を出すよう手紙が届いており、俺自身も家督を継ぐために戻るつもりではいた。
しかし、救世主になって多忙な日々を過ごしていた俺は、里帰りを先延ばしにし続けていた。その結果、妹のアメリーが『謝罪しなければあなたの罪を全て白日の下に晒します』という脅迫めいた手紙を送りつけてくるに至った。
身に覚えのない罪ではあるものの、俺にとっては真偽など確かめようもないことだ。
自分を強姦しておきながら、救世主として成り上がり、暴走した王子を止めた男。
妹がどのように今のアシルを捉えているのか。それは、会って確かめるしかない。
「リーナ、ついてきてくれ。俺、一人じゃ帰れる気がしないんだ」
「分かりました。一緒に帰りましょうね」
とにかく甘えさせてくれるリーナである。
「あなた、先週までは一人で決着をつけるとか息巻いてたじゃない。結局リーナを連れてくの?」
「ノーコメントで」
事務所を通してくれと言わんばかりの態度を取ったら、エレナは腰に手を当ててジッと俺を睨んできた。
「アシルは残機があるからいいけど、リーナの命は一つしかないんだからね? 怪我なんてさせたらタダじゃおかないから」
「うっ……」
「きっと大丈夫ですよ。何かあったら治癒してくれますもんね?」
「いっそのこと、妹を闇討ちする訳にはいかないよな」
「良心が許すなら好きにすれば?」
「冗談だよ」
悪いのは(たぶん)本来のアシルで、アメリーは被害者だろうし。
「ところで、エレナは来てくれないのか?」
「行きたいのは山々だけど、女を2人も連れてったら話がややこしくなるじゃない。謝罪する時に女連れとかありえないのに、それが2人になったらいよいよあなた刺されるわよ?」
「それもそうだな」
「せっかくだし、今回は2人でゆっくり過ごしてきたら?」
「エレナさん、ありがとうございます。私、アシル様と2人きりで出かけるの久しぶりです」
エレナがヨシヨシと頭を撫でると、リーナは満面の笑みを浮かべた。
(……可愛い)
家庭環境的に甘やかされることに慣れてないリーナは、エレナのことを姉のように慕っている。
最初は身分の差という壁があった2人だが、今では仲睦まじい姉妹のようだ。
そういえば、俺とエレナは先に知り合ってたから、2人きりの思い出をたくさん持っている。
だけど、リーナは俺とエレナに気遣ってばかりで、そういった機会を得られていなかった。
単純に今までが忙しすぎたというのもあるが、それは言い訳だろう。
娶ると決めた以上は、彼女達を幸せにする義務があるし、幸せになってほしいと思う。
(本当は俺が気を回すべきだったな)
エレナの気配りには頭が下がる思いだ。
本当にありがたい。
「俺がいない間、エレナは何をするんだ?」
「少し魔法の勉強でもしようかしら。得意な分野ではあなたの役に立ちたいし」
「今でも十分助けられてるよ」
「……うん。でも、もっと色々なところで支えになりたいの」
なんて愛情深さだ。献身において、エレナの右に出る者はいないかもしれない。
「気をつけて行ってきてね?」
「分かってるさ。そう心配するな」
「あんな思いは二度としたくないから……」
一カ月前にあったレオンとの戦いで、俺は一度命を落とした。
身体に神獣を降ろすという無茶をしたことで、自壊を余儀なくされたんだ。
今の俺があるのは、女神の慈悲のお陰だ。
「もうあんな思いはさせない」
「ええ。リーナのこと頼んだわよ」
アシルの実家は俺の記憶にないから、一発で転移することができない。
幸い、乗合馬車の便は出ているようなので、移動手段として活用しよう。
実家に戻ることを決めてから3日後、俺とリーナは馬車に揺られていた。
「こんなところ、公爵に見られたら不味いよな。リーナを乗合馬車に乗せるなんて」
「でも、たくさんいちゃつけますよ?」
可愛いリーナの肩を抱く。
「アシル様が盗賊を倒してくれたお陰で、馬車の往来が増えましたね。カバネル領との行き来も増えたので、向こうの領民も感謝して見直してるんじゃないですか?」
「いや、無理だと思う。だって、妹を……だぞ?」
どれだけ善行を積んだところで、実の妹を強姦した鬼畜に感謝しようとは思わないだろう。
今は噂レベルでしかないが、今後アメリーが表舞台に立つようなことがあれば、俺は一気に表舞台から遠ざかるかもしれない。
俺だけならいいが、エレナとリーナに害が及ぶようなことは避けないといけないな。
「納得のいく話し合いになるといいですね」
「本当にな」
「何があっても私達は味方ですから」
エレナも、という意味合いだろう。
俺はリーナの頬にキスをした。
『リア充爆発しろ!』
馬車内でそんな空気を察知したので、これ以上は自重するとしよう。
アシルが強姦したという妹が、面会を求めてきたのである。
実家からは一度顔を出すよう手紙が届いており、俺自身も家督を継ぐために戻るつもりではいた。
しかし、救世主になって多忙な日々を過ごしていた俺は、里帰りを先延ばしにし続けていた。その結果、妹のアメリーが『謝罪しなければあなたの罪を全て白日の下に晒します』という脅迫めいた手紙を送りつけてくるに至った。
身に覚えのない罪ではあるものの、俺にとっては真偽など確かめようもないことだ。
自分を強姦しておきながら、救世主として成り上がり、暴走した王子を止めた男。
妹がどのように今のアシルを捉えているのか。それは、会って確かめるしかない。
「リーナ、ついてきてくれ。俺、一人じゃ帰れる気がしないんだ」
「分かりました。一緒に帰りましょうね」
とにかく甘えさせてくれるリーナである。
「あなた、先週までは一人で決着をつけるとか息巻いてたじゃない。結局リーナを連れてくの?」
「ノーコメントで」
事務所を通してくれと言わんばかりの態度を取ったら、エレナは腰に手を当ててジッと俺を睨んできた。
「アシルは残機があるからいいけど、リーナの命は一つしかないんだからね? 怪我なんてさせたらタダじゃおかないから」
「うっ……」
「きっと大丈夫ですよ。何かあったら治癒してくれますもんね?」
「いっそのこと、妹を闇討ちする訳にはいかないよな」
「良心が許すなら好きにすれば?」
「冗談だよ」
悪いのは(たぶん)本来のアシルで、アメリーは被害者だろうし。
「ところで、エレナは来てくれないのか?」
「行きたいのは山々だけど、女を2人も連れてったら話がややこしくなるじゃない。謝罪する時に女連れとかありえないのに、それが2人になったらいよいよあなた刺されるわよ?」
「それもそうだな」
「せっかくだし、今回は2人でゆっくり過ごしてきたら?」
「エレナさん、ありがとうございます。私、アシル様と2人きりで出かけるの久しぶりです」
エレナがヨシヨシと頭を撫でると、リーナは満面の笑みを浮かべた。
(……可愛い)
家庭環境的に甘やかされることに慣れてないリーナは、エレナのことを姉のように慕っている。
最初は身分の差という壁があった2人だが、今では仲睦まじい姉妹のようだ。
そういえば、俺とエレナは先に知り合ってたから、2人きりの思い出をたくさん持っている。
だけど、リーナは俺とエレナに気遣ってばかりで、そういった機会を得られていなかった。
単純に今までが忙しすぎたというのもあるが、それは言い訳だろう。
娶ると決めた以上は、彼女達を幸せにする義務があるし、幸せになってほしいと思う。
(本当は俺が気を回すべきだったな)
エレナの気配りには頭が下がる思いだ。
本当にありがたい。
「俺がいない間、エレナは何をするんだ?」
「少し魔法の勉強でもしようかしら。得意な分野ではあなたの役に立ちたいし」
「今でも十分助けられてるよ」
「……うん。でも、もっと色々なところで支えになりたいの」
なんて愛情深さだ。献身において、エレナの右に出る者はいないかもしれない。
「気をつけて行ってきてね?」
「分かってるさ。そう心配するな」
「あんな思いは二度としたくないから……」
一カ月前にあったレオンとの戦いで、俺は一度命を落とした。
身体に神獣を降ろすという無茶をしたことで、自壊を余儀なくされたんだ。
今の俺があるのは、女神の慈悲のお陰だ。
「もうあんな思いはさせない」
「ええ。リーナのこと頼んだわよ」
アシルの実家は俺の記憶にないから、一発で転移することができない。
幸い、乗合馬車の便は出ているようなので、移動手段として活用しよう。
実家に戻ることを決めてから3日後、俺とリーナは馬車に揺られていた。
「こんなところ、公爵に見られたら不味いよな。リーナを乗合馬車に乗せるなんて」
「でも、たくさんいちゃつけますよ?」
可愛いリーナの肩を抱く。
「アシル様が盗賊を倒してくれたお陰で、馬車の往来が増えましたね。カバネル領との行き来も増えたので、向こうの領民も感謝して見直してるんじゃないですか?」
「いや、無理だと思う。だって、妹を……だぞ?」
どれだけ善行を積んだところで、実の妹を強姦した鬼畜に感謝しようとは思わないだろう。
今は噂レベルでしかないが、今後アメリーが表舞台に立つようなことがあれば、俺は一気に表舞台から遠ざかるかもしれない。
俺だけならいいが、エレナとリーナに害が及ぶようなことは避けないといけないな。
「納得のいく話し合いになるといいですね」
「本当にな」
「何があっても私達は味方ですから」
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