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6 勇者の使命

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「私ですか?」
「さっきの会話聞いてたんですけど、あんた精霊なんですよね? 勇者と精霊ってよくある組み合わせだし、そんな巻き込まれただけの一般人より俺と組んだ方がよくないですか?」
「お前、言わせておけば勝手なことばっか言うなよ! 俺が彼女と契約するまでにどれだけ苦労したか分かってんのか?」

 二度も失敗して六カ月も拷問されたんだぞ!

「は? ちょっと呪文唱えて契約しただけじゃん。選ぶのはアイスさんだし。オッサンの嫉妬とか見苦しいー」
「24でオッサンとか言ってたら同い年になった時に後悔するぞ!」
「で、アイスさんの答え聞かせてもらっていいですか?」

 期待に弾んだ声が腹立たしい。
 外見の年齢で言えば、アイスは十代の半ばあたりで、ユウスケの方に靡きそうな気がする。
 ちょうど同年代で釣り合いも取れそうだ。

 しかし彼女を失うってことは、俺の手駒が消えることを意味する。
 そうなれば、また牢獄に行く可能性だって捨てきれない。
 いや、きっとそうなるだろう。

 アイスの答えで俺の運命が決まってしまう……。

「お断りです」
「はぁ!?」

 俺も少し驚いた。
 なんか、もうちょっと迷うものかと思ってた。
 最初から答えは決まってたみたいに、アイスはハッキリと拒絶した。

「重ねて言いますが、ありえません」
「いや、なにそれ。即答じゃん。こんなオッサンがいいわけ?」
「マスターほどの膨大な魔力を持ってる方に仕えるのは、精霊にとって至上の悦びです。あなたの魔力量はマスターの十分の一以下。契約などありえないのでお断りします」
「俺がこいつより下だって!?」」

 悔しそうだなぁ。
 俺はアイスの腰に馴れ馴れしく腕を回した。
 まだ幼さを残したアイスの腰を抱く姿はロリコンだが、優越感に浸れるならそれもいい。

「お前は俺の契約精霊だもんなぁ?」
「はい、私の主人はマスター以外にありえません。少年というのは自意識の塊ですね。身の程を知るべきです」
「馬鹿にしやがって……!」
「馬鹿になどしていません。客観的に見たあなたに対する評価を伝えただけです」

 どうだ思い知ったかよクソガキ! 俺の魔力量は全宇宙の時を静止させるほどなんだ! お前なんか逆立ちしたって俺には勝てないんだよ!

「……話は終わりでよろしいでしょうか? 勇者の使命について説明させていただきたいと思います」

 女王の声が少し疲れているように聞こえた。意外と打たれ弱いのかもな。

「その前に、まだ名乗っていませんでしたね。私はトリテア王国の国王、クアラ・ミア・トリテインです。あなた方の名前も聞かせていただけますか?」
「俺はミツキ・ユウスケです。早く勇者の能力とか教えてください」
「それについては自己紹介が全て終わってからにしましょう。異世界の方、名前を聞かせてください」
「俺はサイハラ・ハジメだ」

 こんな女に敬語など使ってたまるか。

「貴様、女王陛下に向かって……」
「いいのです。先に手を出したのはこちら側なのですよ? ハジメ様が不信感を抱くのも無理からぬことです」

 寛大な風を装っているが、内心では苛立ってるに違いない。あるいは、俺を利用する算段でも考えているのか。いずれにせよ心を許す気などないが。こいつは俺の敵だ。

「今、この世界は邪神エルゴガーデンの魔の手によって、魔人が蔓延る混沌とした世界へと作り変えられています。邪神を倒す為には聖剣グラムの覚醒が必要であり、グラムを扱えるのは勇者様だけなのです」
「俺だけ? へえー。俺しか扱えないんだぁ」

 分かりやすく気が大きくなってるな。
 勤めてた会社にも役職がついた瞬間に増長するクズがいたけど、こいつも絶対人の上に立たせちゃいけない類の人間だ。残念ながら既に立ってしまっているが。

「勝手に召喚して重たい責任まで押しつけて、タダで世界を救えとか言わないですよね?」
「もちろんです。王家が所有する財宝と、爵位を与える準備があります」
「いや、それだけじゃ足りないし。俺にもこういう綺麗な女の子をくださいよ」
「……分かりました。立候補する者がいれば紹介しましょう」
「もっと確実な方法とかないわけ? 奴隷とかでもいいんだけどさー」

 ユウスケの身勝手な要望に呆れてしまう。
 いくらなんでも浅ましすぎる。

「奴隷でよければ融通できます」
「へえー! エルフとかいんの!?」
「ええ、用意できます」
「最高じゃん異世界転生……。そのエルフはいつもらえるの?」
「一週間以内には……」
「そんなに待たされるのかよ。こいつが連れてるのと同じくらい綺麗なのじゃないと返品するからな?」

 ゲスが。人を何だと思ってるんだ。

「マスター、ないとは思いますが、精霊をそういう対象として見ないでくださいね。人間と交わることなどありえませんから」
「俺にそんなつもりはないよ」

 彼女は大事な手駒だ。
 無理に抱こうとして契約を破棄されても困るからな。
 女は別で調達しようと思っていたら、女王がニコリと微笑んだ。

「ご安心ください。ハジメ様にも御礼はするつもりですから」
「俺が引き受ける前提なんだな」
「きっと助力をいただけると信じています」
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