11 / 69
11 魔人
しおりを挟む
「そういえば、誰も気づいてないようだけど元帥は魔人よ」
「……は?」
部屋で夕食を取っていると、唐突にフレアが告げた。
「一国の元帥が魔人で、誰も気づかないなんてことあるのか?」
「魔人を見た目で区別するのは不可能なのよ。彼らを区別する為には、体内の魔力の色を見る必要がある。ただの人間にはできない芸当でしょうけどね」
「精霊と契約した魔術師がこの国にも一人くらいいるだろう。誰も気づかないなんてさすがに……」
「精霊はほとんどがスピリタニア……エルフ国か他所の大国に留まってるから期待しても無駄。この国はつけいるのに丁度良かったんでしょうね。目的まではあたしにも分からないけど」
最悪だ……。魔人が国の中枢に入ってるような国に召喚されるなんて……。
「道理で俺を殺そうとしてくるはずだよな。魔法が使える戦力になりそうだから削ろうとしてたのか」
「そうねえ。あなたの魔力量を見て彼は相当焦ったはずだし、きっと今もあなたを消そうと躍起になってるでしょうね」
この一週間、襲撃とかはなかった。
タイミングを図っているのだろうか。
「……やられる前にやるしかないのか」
「まあ、安心しなさい。あたしもアイスと並ぶ精霊の王だし、小物の魔人一匹に遅れは取らない。そもそも、あたしとアイスがここに居合わせたのは、女神アイシスからあなたを守るよう神託を受けたからでもあるのよ」
「そうだったのか。なのに、俺はアイスを……」
「過ぎたことを気にしてクヨクヨしても無駄でしょ? アイスに何かあった時の為にあたしが控えてたんだし。それより、一緒に元帥への対処を考えましょう」
そうは言われても、俺は魔人に関する知識をほとんど持ってない。
俺の迷いを感じ取ったのか、フレアは俺が尋ねる前に説明してくれた。
「女王から簡単には聞いてるでしょうけど、魔人の特性について話しておくわね。まず、魔人の平均寿命は千年と言われているの。彼らは力を重視し、他者を出し抜く為に独自の魔法をそれぞれ磨いてるわ」
「魔人は精霊と契約しなくても魔法が使えるのか?」
「彼らは産まれた瞬間からオリジナルが使える。それが特徴の一つ。正直、練度に関しては人間の比じゃないと思うわ。単純に、寿命が長いし」
「嫌になるくらい強そうだな」
「ええ、人の倍以上も生きている彼らが生涯をかけて磨いてきた術なんだから、決して侮ったりしたら駄目。単独で討伐することは難しいし、よほど才能があるか、運に恵まれないとできないことよ。だから、人はチームを組んで戦うの」
女王も言っていたことだ。一人で魔人に立ち向かうべきではないと。
「圧倒的に不利な状況に聞こえるな」
「否定はしない。でも、あなたには私がついてるでしょ? 魔人の寿命は千年だけど、精霊は魔力さえあれば不老不死。いざとなればあたしも戦うし、今回はそれで乗り切るべきだと思うわ」
「身を削るような真似をさせてすまないな。だけど……。本当に心強いよ」
フレアの目を真っ直ぐに見つめる。
「あまり熱っぽく見ないで。あなた全然反省してないじゃない」
フレアが呆れたように笑う。
釣られて俺も笑ってしまった。
「今夜は明日に備えて寝るか……」
「生憎だが、貴様らの時間はここで終わりだ」
それは、何の前触れもなく起きた襲撃だった。
空間を割いて現れた男の指が輝いたと思ったら、俺の身体は吹き飛んでいた。
「か……は……っ」
吐血する。腹に風穴が開いており、明らかに助からないと分かる出血量だ。
契約主である俺が死の淵にいることで、フレアの身体は透けてしまっている。
地上に召喚されている間、精霊は契約者の魔力で動くと言っていた。
つまり、俺がこんな有様になったせいで、フレアは魔力の供給が断たれたということだ。
正直、俺の死はもう避けられないものだと思う。
せめて、フレアにだけは逃げて欲しいと思った。
(逃げろフレア……)
思念を飛ばすが、彼女は無視した。
透けた身体で尚、戦おうと懸命に魔力を集めようとしている。
しかし、無理だ。契約者の俺がこの有様なんだからな。
「頼むから……逃げ……ろ」
「私の落ち度ね。まさか空間に干渉できる魔法を持つ魔人がいたなんて……。警戒されても結界を張っておくべきだったわ」
「逃げ……」
「あたしは自分の契約者を見捨てたりしない。フレアー―」
フレアの魔法が霧散した……。
終わりだ……。
俺が死の淵にいることで、契約が消滅したのだ。
精霊は、地上にいる限り人間の魔力でしか魔法を使えない。
「頼む……逃げろ……」
「ごめんね。今のあたしじゃ傍にいてあげることしかできない」
甲冑を身にまとった巨体が消えたと同時、薄れた身体で微笑むフレアの頭を炸裂させていた。
知らず、俺は涙を流していた。
フレアはいつでも逃げられたんだ。
戦えないことだって分かってたはずなのに……。
「愚かな精霊だ。さっさと契約を破棄して逃げれば命まで失わずに済んだものを」
「ドーグ……!」
怒りで視界が赤く染まっている。腸が煮えくり返るというのはこういうことを言うのだろう。キレすぎて歯の根が合わない。
「人間というのは変化がなければ同じ日常が永遠に続くものと錯覚するようだが、精霊も同様に油断をするらしい。いかに優れた術師であろうとも、所詮は女神の造った欠陥品か。やはり、エルゴガーデン様に造られた我々の方が、被造物としては一枚も二枚も上手だったようだ。いやはや、一週間、待った甲斐があると言えるな」
「貴様ぁ……」
「戦いを挑むならタイミングも考えた方がいいぞ。貴様はここで死ぬからな。次に生かされることはないだろうが」
敵は強すぎた。
何の前触れもなく空間を転移して、相手を殺傷する能力。
音も気配も何もない。気づいたら目の前にいて、魔法を撃ってくるのだ。
だが、絶対にこいつだけは許さない。
何度でもやり直せる俺は、どんな情報だって持ち帰ることができる。
今度は確実にフレアの仇を取る。
次の瞬間、俺の意識は弾け飛んだ。
「……は?」
部屋で夕食を取っていると、唐突にフレアが告げた。
「一国の元帥が魔人で、誰も気づかないなんてことあるのか?」
「魔人を見た目で区別するのは不可能なのよ。彼らを区別する為には、体内の魔力の色を見る必要がある。ただの人間にはできない芸当でしょうけどね」
「精霊と契約した魔術師がこの国にも一人くらいいるだろう。誰も気づかないなんてさすがに……」
「精霊はほとんどがスピリタニア……エルフ国か他所の大国に留まってるから期待しても無駄。この国はつけいるのに丁度良かったんでしょうね。目的まではあたしにも分からないけど」
最悪だ……。魔人が国の中枢に入ってるような国に召喚されるなんて……。
「道理で俺を殺そうとしてくるはずだよな。魔法が使える戦力になりそうだから削ろうとしてたのか」
「そうねえ。あなたの魔力量を見て彼は相当焦ったはずだし、きっと今もあなたを消そうと躍起になってるでしょうね」
この一週間、襲撃とかはなかった。
タイミングを図っているのだろうか。
「……やられる前にやるしかないのか」
「まあ、安心しなさい。あたしもアイスと並ぶ精霊の王だし、小物の魔人一匹に遅れは取らない。そもそも、あたしとアイスがここに居合わせたのは、女神アイシスからあなたを守るよう神託を受けたからでもあるのよ」
「そうだったのか。なのに、俺はアイスを……」
「過ぎたことを気にしてクヨクヨしても無駄でしょ? アイスに何かあった時の為にあたしが控えてたんだし。それより、一緒に元帥への対処を考えましょう」
そうは言われても、俺は魔人に関する知識をほとんど持ってない。
俺の迷いを感じ取ったのか、フレアは俺が尋ねる前に説明してくれた。
「女王から簡単には聞いてるでしょうけど、魔人の特性について話しておくわね。まず、魔人の平均寿命は千年と言われているの。彼らは力を重視し、他者を出し抜く為に独自の魔法をそれぞれ磨いてるわ」
「魔人は精霊と契約しなくても魔法が使えるのか?」
「彼らは産まれた瞬間からオリジナルが使える。それが特徴の一つ。正直、練度に関しては人間の比じゃないと思うわ。単純に、寿命が長いし」
「嫌になるくらい強そうだな」
「ええ、人の倍以上も生きている彼らが生涯をかけて磨いてきた術なんだから、決して侮ったりしたら駄目。単独で討伐することは難しいし、よほど才能があるか、運に恵まれないとできないことよ。だから、人はチームを組んで戦うの」
女王も言っていたことだ。一人で魔人に立ち向かうべきではないと。
「圧倒的に不利な状況に聞こえるな」
「否定はしない。でも、あなたには私がついてるでしょ? 魔人の寿命は千年だけど、精霊は魔力さえあれば不老不死。いざとなればあたしも戦うし、今回はそれで乗り切るべきだと思うわ」
「身を削るような真似をさせてすまないな。だけど……。本当に心強いよ」
フレアの目を真っ直ぐに見つめる。
「あまり熱っぽく見ないで。あなた全然反省してないじゃない」
フレアが呆れたように笑う。
釣られて俺も笑ってしまった。
「今夜は明日に備えて寝るか……」
「生憎だが、貴様らの時間はここで終わりだ」
それは、何の前触れもなく起きた襲撃だった。
空間を割いて現れた男の指が輝いたと思ったら、俺の身体は吹き飛んでいた。
「か……は……っ」
吐血する。腹に風穴が開いており、明らかに助からないと分かる出血量だ。
契約主である俺が死の淵にいることで、フレアの身体は透けてしまっている。
地上に召喚されている間、精霊は契約者の魔力で動くと言っていた。
つまり、俺がこんな有様になったせいで、フレアは魔力の供給が断たれたということだ。
正直、俺の死はもう避けられないものだと思う。
せめて、フレアにだけは逃げて欲しいと思った。
(逃げろフレア……)
思念を飛ばすが、彼女は無視した。
透けた身体で尚、戦おうと懸命に魔力を集めようとしている。
しかし、無理だ。契約者の俺がこの有様なんだからな。
「頼むから……逃げ……ろ」
「私の落ち度ね。まさか空間に干渉できる魔法を持つ魔人がいたなんて……。警戒されても結界を張っておくべきだったわ」
「逃げ……」
「あたしは自分の契約者を見捨てたりしない。フレアー―」
フレアの魔法が霧散した……。
終わりだ……。
俺が死の淵にいることで、契約が消滅したのだ。
精霊は、地上にいる限り人間の魔力でしか魔法を使えない。
「頼む……逃げろ……」
「ごめんね。今のあたしじゃ傍にいてあげることしかできない」
甲冑を身にまとった巨体が消えたと同時、薄れた身体で微笑むフレアの頭を炸裂させていた。
知らず、俺は涙を流していた。
フレアはいつでも逃げられたんだ。
戦えないことだって分かってたはずなのに……。
「愚かな精霊だ。さっさと契約を破棄して逃げれば命まで失わずに済んだものを」
「ドーグ……!」
怒りで視界が赤く染まっている。腸が煮えくり返るというのはこういうことを言うのだろう。キレすぎて歯の根が合わない。
「人間というのは変化がなければ同じ日常が永遠に続くものと錯覚するようだが、精霊も同様に油断をするらしい。いかに優れた術師であろうとも、所詮は女神の造った欠陥品か。やはり、エルゴガーデン様に造られた我々の方が、被造物としては一枚も二枚も上手だったようだ。いやはや、一週間、待った甲斐があると言えるな」
「貴様ぁ……」
「戦いを挑むならタイミングも考えた方がいいぞ。貴様はここで死ぬからな。次に生かされることはないだろうが」
敵は強すぎた。
何の前触れもなく空間を転移して、相手を殺傷する能力。
音も気配も何もない。気づいたら目の前にいて、魔法を撃ってくるのだ。
だが、絶対にこいつだけは許さない。
何度でもやり直せる俺は、どんな情報だって持ち帰ることができる。
今度は確実にフレアの仇を取る。
次の瞬間、俺の意識は弾け飛んだ。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる