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『魔人の討伐おめでとうございます。報酬として『女神の加護』が適用されました。各種ステータスにボーナスポイントを加算いたします。また、新たにストレージの機能を解放しました。解放されたストレージのスキルに、『鑑定』のスキルロールが入っているのでご利用ください。冒険を進めて最強の勇者を目指しましょう』
頭の中で女神の猫を被った声が聴こえたと思った直後、俺は自分にインストールされた力を理解した。
試しにストレージ(格納庫)のスキルを使い、収納されていた『鑑定』のスキルロールを取り出す。巻物のようなそれに触れると、視界に選択肢が出てきた。
『鑑定のスキルロールを使用しますか?』
選択肢に触れると巻物は光となって消滅し、俺はあっさり『鑑定』のスキルを手に入れた。
さっそく手に入れたスキルを試してみる。どうやらこれは、俺が見たものをS~Eの間で評価してくれる能力らしい。試しにアイスを見てみると、彼女は文句なしのS評価だった。種族は精霊で、クラスの精霊王にはSランクの査定がついている。恐る恐る自分のことも評価してみると、英雄クラスでS+という評価になっていた。
「この眼を使えば魔人も識別できそうだな」
便利なスキルを手に入れたと思う。
俺はアイスサークルの『感知』と『鑑定』のスキルを組み合わせ、広範囲に魔人の識別を行えるようにした。思いつきでやってみただけだが、感知と鑑定の相性が良かったおかげであっさり成功した。
アイスサークルを張った範囲内であれば、目視して実際に触れたかのように知覚することができる。この時、同時に鑑定も発動すれば、範囲内にいる者の種族が見える。魔人であれば一目瞭然というわけだ。
この力は大いに役立つだろうと思われた。しかし、どんな力を持っていたとしても、最終的に役立てられるかは環境に左右される。無能の下につけば日の目を見ることもなく今生を終えてしまうだろう。
「……あの女王は駄目そうだな」
アイスサークルを張って女王を鑑定したが、評価はCだった。クラスは女王だが、評価が低すぎる。ちなみに宰相の評価はBでそれなりに良かった。この国がもっているのは女王ではなく宰相の実力だろう。
「アイス、この国を出るとしたらお勧めの国はあるか?」
「他所の国へ移るのですか?」
「今すぐにという訳ではないが、選択肢は幾つか持っておきたいんだ」
「なるほど。そういうことでしたらミナガルデが良いと思います。様々な種族が協力しあって暮らしている国ですので見聞を広げるのにもいいですし、ここでは手に入らないアイテムも多くあります」
ミナガルデか……。選択肢として頭に入れておこう。
ここにいるメリットが薄いのであれば、移動することもやむを得ないだろう。
「ところで、失礼な質問だと思ったら怒って欲しいんだけどな」
「はい、何でしょう?」
「例えば、精霊を二人同時に契約するというのは非常識なのか?」
アイスに激怒されても仕方のない質問だと思ったが、彼女は真剣に考える顔になった。
「マスターの魔力は規格外です。私一人で遊ばせておくよりも、より多くの魔法を覚えていただいた方が今後の為になるかもしれませんね」
「本当か!?」
だったら、是非フレアとも契約をさせて欲しい。彼女は俺の恩人なんだ。前回、俺の為に死なせてしまった負い目もある。是非、契約させて欲しいと思う。
「ただ、マスターの魔力に釣り合う精霊となると限られます。一応、私の友人が釣り合う可能性はあるのですが、彼女は性格に少し難が……」
「いや、アイスの友達なんだ。そんなことはないだろう」
「根はいい娘なんです。情が深くて、面倒見も良くて。ただ、思ったことを素直に話しすぎる子なので、マスターが不快に感じるかもしれません」
「それがいいんじゃないか。俺は契約したい。その子に聞いてもらえないかな」
「分かりました。そこまでマスターが仰るなら、聞いてみましょう」
アイスが遠くを見つめて念話を飛ばし始める。念話をしてると遠くに視線を飛ばすからすぐに分かるんだ。
(……フレア、もう一度俺とやり直してくれ。頼む)
同じ経験をしてない寂しさもあるが、それよりもまた会いたいという思いが強い。長く感じたが、時間にしてみれば数分程度だろう。やがてアイスは溜息をついた。
「すみません、頼んでみたのですが……」
「ダメだったのか!?」
「いえ、引き受けると言ってます。ただ、うるさくなると思います。わずらわしいと思ったらいつでも契約を破棄してください」
「わずらわしいなんて、そんなことあるはずないじゃないか」
本当に嬉しい……。俺は詠唱を唱え、フレアを召喚した。
「精霊よ、我が魔力と引き換えに百年の契約を願う」
『我、汝の呼びかけに応じ、契約に応じよう』
真紅の髪を持つ少女が召喚される。
俺にとっては懐かしい顔だ。
思わずじっと見つめていると、なぜか睨まれてしまった。
「あなた、結構な魔力を持ってるみたいだけど、見てたわよ。アイス相手にデレデレして、かなりのヘンタイみたいね。あたしに舐めた真似してくれたら十倍にして返してあげるから」
「分かってる。召喚に応じてくれてありがとう」
「え……本当にヘンタイなの? どうしてニヤニヤしてるのよ! 悔しくないわけ!?」
「俺がデレデレしてるのは本当のことだからな。二人とも凄く綺麗だし。でも、手は出さないから安心してくれ。二人が自分の魔法にプライドを持ってるのは分かってるつもりだし、俺が手を出したことで二人の名誉を傷つけることになったら最悪だからな」
「「…………っ!」」
見ると二人が息を飲んでる。
興奮しすぎて変なことまで口走ったかもしれない。
「へえ。人間にしては分かってるじゃない。ちょっぴりだけど、アイスが気に入るのも分かるかもしれないわね……」
「マスター……そこまで私達のことを考えてくださってたのですね。確かに、人間と交わることで精霊は不名誉を背負うことになります。ただ、私達だって女の子ですので、そういう可能性が全くないわけじゃないんです。今のは少し、嬉しかったです」
(えええ……っ)
「マスター、優しすぎます」
アイスに抱きつかれる。こ、この展開は予想していなかった。というか、完全に触れることさえNGだと思ってた。いや、実際に前回はそれが原因で契約破棄まで行ったわけだし。
ただ、今のアイスはなんというか、俺に許してくれてる雰囲気がある。熱っぽく潤んだ目で見上げてくるアイスは魅力的で、控えめながらも丸みを帯びた部分が俺の胸に触れて、思わず強く抱きしめたくなる。しかし、前回の失敗があっただけに、俺は彼女を抱きしめることができなかった。またアイスを失うことが怖かったんだ。
「嬉しいけど、節度は守ろうな。人間と精霊なんだし……」
「あっ」
アイスの肩に手を置いて遠ざけると、彼女は裏切られたみたいな声をあげた。
あって何だよ! そんな悲しそうな声出されたら俺が悪人みたいじゃないか!?
でも最初に言ってきたのはお前の方だよ!?
「最低……。ちょっと、今のはないんじゃない? アイスが勇気を出したのに、人間と精霊だからって……。なにそれ、差別じゃない。人間の女の子はいいけど、精霊の女の子は駄目ってワケ?」
「いや、違うよ!? だって、俺が触れると二人の名誉が……」
「……マスター。ごめんなさい。私、勘違いしてました。あくまで契約に則った関係なのに、すみません」
どうするのが正解なんだ?
「アイス、元気出して。あなたは可愛いんだから、そんな顔したらダメよ」
「ありがと。フレアが来てくれてよかった」
誰か教えてくれ! どうするのが正解だったんだ……っ!
俺の悲鳴に答えてくれる声はなかった。
頭の中で女神の猫を被った声が聴こえたと思った直後、俺は自分にインストールされた力を理解した。
試しにストレージ(格納庫)のスキルを使い、収納されていた『鑑定』のスキルロールを取り出す。巻物のようなそれに触れると、視界に選択肢が出てきた。
『鑑定のスキルロールを使用しますか?』
選択肢に触れると巻物は光となって消滅し、俺はあっさり『鑑定』のスキルを手に入れた。
さっそく手に入れたスキルを試してみる。どうやらこれは、俺が見たものをS~Eの間で評価してくれる能力らしい。試しにアイスを見てみると、彼女は文句なしのS評価だった。種族は精霊で、クラスの精霊王にはSランクの査定がついている。恐る恐る自分のことも評価してみると、英雄クラスでS+という評価になっていた。
「この眼を使えば魔人も識別できそうだな」
便利なスキルを手に入れたと思う。
俺はアイスサークルの『感知』と『鑑定』のスキルを組み合わせ、広範囲に魔人の識別を行えるようにした。思いつきでやってみただけだが、感知と鑑定の相性が良かったおかげであっさり成功した。
アイスサークルを張った範囲内であれば、目視して実際に触れたかのように知覚することができる。この時、同時に鑑定も発動すれば、範囲内にいる者の種族が見える。魔人であれば一目瞭然というわけだ。
この力は大いに役立つだろうと思われた。しかし、どんな力を持っていたとしても、最終的に役立てられるかは環境に左右される。無能の下につけば日の目を見ることもなく今生を終えてしまうだろう。
「……あの女王は駄目そうだな」
アイスサークルを張って女王を鑑定したが、評価はCだった。クラスは女王だが、評価が低すぎる。ちなみに宰相の評価はBでそれなりに良かった。この国がもっているのは女王ではなく宰相の実力だろう。
「アイス、この国を出るとしたらお勧めの国はあるか?」
「他所の国へ移るのですか?」
「今すぐにという訳ではないが、選択肢は幾つか持っておきたいんだ」
「なるほど。そういうことでしたらミナガルデが良いと思います。様々な種族が協力しあって暮らしている国ですので見聞を広げるのにもいいですし、ここでは手に入らないアイテムも多くあります」
ミナガルデか……。選択肢として頭に入れておこう。
ここにいるメリットが薄いのであれば、移動することもやむを得ないだろう。
「ところで、失礼な質問だと思ったら怒って欲しいんだけどな」
「はい、何でしょう?」
「例えば、精霊を二人同時に契約するというのは非常識なのか?」
アイスに激怒されても仕方のない質問だと思ったが、彼女は真剣に考える顔になった。
「マスターの魔力は規格外です。私一人で遊ばせておくよりも、より多くの魔法を覚えていただいた方が今後の為になるかもしれませんね」
「本当か!?」
だったら、是非フレアとも契約をさせて欲しい。彼女は俺の恩人なんだ。前回、俺の為に死なせてしまった負い目もある。是非、契約させて欲しいと思う。
「ただ、マスターの魔力に釣り合う精霊となると限られます。一応、私の友人が釣り合う可能性はあるのですが、彼女は性格に少し難が……」
「いや、アイスの友達なんだ。そんなことはないだろう」
「根はいい娘なんです。情が深くて、面倒見も良くて。ただ、思ったことを素直に話しすぎる子なので、マスターが不快に感じるかもしれません」
「それがいいんじゃないか。俺は契約したい。その子に聞いてもらえないかな」
「分かりました。そこまでマスターが仰るなら、聞いてみましょう」
アイスが遠くを見つめて念話を飛ばし始める。念話をしてると遠くに視線を飛ばすからすぐに分かるんだ。
(……フレア、もう一度俺とやり直してくれ。頼む)
同じ経験をしてない寂しさもあるが、それよりもまた会いたいという思いが強い。長く感じたが、時間にしてみれば数分程度だろう。やがてアイスは溜息をついた。
「すみません、頼んでみたのですが……」
「ダメだったのか!?」
「いえ、引き受けると言ってます。ただ、うるさくなると思います。わずらわしいと思ったらいつでも契約を破棄してください」
「わずらわしいなんて、そんなことあるはずないじゃないか」
本当に嬉しい……。俺は詠唱を唱え、フレアを召喚した。
「精霊よ、我が魔力と引き換えに百年の契約を願う」
『我、汝の呼びかけに応じ、契約に応じよう』
真紅の髪を持つ少女が召喚される。
俺にとっては懐かしい顔だ。
思わずじっと見つめていると、なぜか睨まれてしまった。
「あなた、結構な魔力を持ってるみたいだけど、見てたわよ。アイス相手にデレデレして、かなりのヘンタイみたいね。あたしに舐めた真似してくれたら十倍にして返してあげるから」
「分かってる。召喚に応じてくれてありがとう」
「え……本当にヘンタイなの? どうしてニヤニヤしてるのよ! 悔しくないわけ!?」
「俺がデレデレしてるのは本当のことだからな。二人とも凄く綺麗だし。でも、手は出さないから安心してくれ。二人が自分の魔法にプライドを持ってるのは分かってるつもりだし、俺が手を出したことで二人の名誉を傷つけることになったら最悪だからな」
「「…………っ!」」
見ると二人が息を飲んでる。
興奮しすぎて変なことまで口走ったかもしれない。
「へえ。人間にしては分かってるじゃない。ちょっぴりだけど、アイスが気に入るのも分かるかもしれないわね……」
「マスター……そこまで私達のことを考えてくださってたのですね。確かに、人間と交わることで精霊は不名誉を背負うことになります。ただ、私達だって女の子ですので、そういう可能性が全くないわけじゃないんです。今のは少し、嬉しかったです」
(えええ……っ)
「マスター、優しすぎます」
アイスに抱きつかれる。こ、この展開は予想していなかった。というか、完全に触れることさえNGだと思ってた。いや、実際に前回はそれが原因で契約破棄まで行ったわけだし。
ただ、今のアイスはなんというか、俺に許してくれてる雰囲気がある。熱っぽく潤んだ目で見上げてくるアイスは魅力的で、控えめながらも丸みを帯びた部分が俺の胸に触れて、思わず強く抱きしめたくなる。しかし、前回の失敗があっただけに、俺は彼女を抱きしめることができなかった。またアイスを失うことが怖かったんだ。
「嬉しいけど、節度は守ろうな。人間と精霊なんだし……」
「あっ」
アイスの肩に手を置いて遠ざけると、彼女は裏切られたみたいな声をあげた。
あって何だよ! そんな悲しそうな声出されたら俺が悪人みたいじゃないか!?
でも最初に言ってきたのはお前の方だよ!?
「最低……。ちょっと、今のはないんじゃない? アイスが勇気を出したのに、人間と精霊だからって……。なにそれ、差別じゃない。人間の女の子はいいけど、精霊の女の子は駄目ってワケ?」
「いや、違うよ!? だって、俺が触れると二人の名誉が……」
「……マスター。ごめんなさい。私、勘違いしてました。あくまで契約に則った関係なのに、すみません」
どうするのが正解なんだ?
「アイス、元気出して。あなたは可愛いんだから、そんな顔したらダメよ」
「ありがと。フレアが来てくれてよかった」
誰か教えてくれ! どうするのが正解だったんだ……っ!
俺の悲鳴に答えてくれる声はなかった。
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