7 / 18
淀み
しおりを挟む
賊の襲撃から数日、旅は驚くほど順調に進んだ。
大きなトラブルもなく、天候にも恵まれた。
予定通りに村を経由し補給もできている。
騎士たちの顔からも最初の緊張が抜けてきた。
「この調子なら、あと二日もあれば領境だな」
ここまで誰一人欠けなかったこともあり、皆の表情は明るい。
ユルの咳もここ数日は聞いてない。
空気が明らかに緩んでいた。
――その中で。
俺だけが落ち着かなかった。
理由ははっきりしている。
瘴気の濃さだ。
白夜結界の影響がさらに薄くなっている。
都市部から外れたことで、結界が弱まる範囲もあるだろうとは予測していた。
だが――
いくらなんでも瘴気が溢れすぎだ。
白夜結界は国土防衛の要であり、魔物に対抗する最も有効な手段だ。
それが、こんな歪な循環をしているなんて思いもしなかった。
王都付近の瘴気は徹底的に排除する一方、辺境に続く街道の方は結界の守りが手薄になっている。
俺が王都にいる結界師だからこそ、気づけた点だろう。
「……なあ」
小声でリリカに声をかける。
「少し急いだ方がいい」
「どうして?」
「魔素の浄化が追いついてない。魔物との戦闘になる確率が高い」
一瞬眉をひそめたが、リリカはすぐに頷いた。
「分かった。騎士たちに伝えるわ」
余計な質問はなかった。
少し肩の力が抜ける。
そのときだった。
――俺が張っている結界に、反応があった。
「魔物が来るぞ!」
即座に叫ぶ。
獣人の少女が馬車のなかで身を低くした。
次の瞬間、草むらが大きく揺れる。
そして、枝が折れる音が重なった。
「ついにお出ましか。盗賊みたいに簡単にはいかないぞ」
「分かってる」
騎士への警告が早かったため、魔物側の奇襲にはならなかった。
相手は狼型の魔物だ。
数は三――いや、遅れて四匹目が姿を見せた。
多くはない。だが、動きが速い。
何より統率が取れている。
「馬車から出るな! 皆、一か所に固まるんだ!」
騎士から指示が飛ぶ。
だが、俺は馬車の外へ出た。
「え……フィン!?」
リリカの焦った声が背中に届く。
まさか、俺が前に出るとは思っていなかったらしい。
俺自身、少なからず驚いてはいる。
「あんた、やれるのか?」
「元冒険者だ。どの道、この数の魔物が相手じゃ守り切れないだろ」
剣を抜いて意思表示すると、彼らは口元だけで笑みを浮かべた。
「頼もしいぜ、元冒険者さんよ」
「応援に感謝する」
剣を構えつつ、結界を張る。
結界の範囲は最低限。
――狭く、しかし密に張る。
「くるぞ!」
レオンが叫ぶ。
だが、魔物の跳躍がわずかに鈍った。
足下が悪かったのか? あるいは――
「今だ!」
ハインツの剣が深く通る。
一体が地に伏す。
「今のは……」
「レオン、ぼさっとするな!」
騎士が違和感を感じたようだが、それを確認をする暇はない。
まだ残りは三体。
一体が、俺の方へ向かってきた。
距離は近い。
しかし、低級の魔物だ。
Aランクのダンジョンで目が肥えていたせいか、物足りなく感じる。
俺の剣が閃き、魔物を両断した。
「お見事!」
「あんたらは守りを固めてくれ」
相手のレベルは理解した。
俺でも対処可能な相手だと判断する。
攻めに転じ、動きが鈍い魔物を狙う。
数合打ち込み、喉を深く突いた。
その隙を逃さず、最後の一匹が襲ってきたが、読めていた動きだ。
あっさり袈裟斬りにした。
剣についた血を払い、鞘に戻す。
森に静寂が戻ってきた。
荷台からリリカが走ってくる。
「フィン! 怪我はない?」
「大袈裟だな。見てのとおりだ」
「もう、急に飛び出すから心配したわ」
獣人の少女や少年たちが、こちらを見ている。
俺が片手を挙げると、拍手が起こった。
(……こんなの初めてだな)
寄生虫と呼ばれパーティを追い出された俺が、戦力になれた。
今の戦い、あいつらが見たら何て言うかな。
「どうかした? やっぱりどこかやられたの?」
リリカに腕を引かれて我に返る。
「少し余韻に浸ってただけだ」
「そう。本当に無事でよかった」
リリカがほっと息を吐く。
「フィン、もっと誇っていいのに」
「誇れるほどのことはしてない。弱い魔物だったしな」
リリカは納得がいかないように唇を尖らせた。
「そういうところがあるって、覚えとくから」
「どういうところだよ」
「……フィンは知らなくていいの」
俺は追及を諦めて降参した。
魔物なんかよりよっぽどリリカの方が手強いからだ。
女の子に拗ねられると、俺では対処が思いつかない。
大きなトラブルもなく、天候にも恵まれた。
予定通りに村を経由し補給もできている。
騎士たちの顔からも最初の緊張が抜けてきた。
「この調子なら、あと二日もあれば領境だな」
ここまで誰一人欠けなかったこともあり、皆の表情は明るい。
ユルの咳もここ数日は聞いてない。
空気が明らかに緩んでいた。
――その中で。
俺だけが落ち着かなかった。
理由ははっきりしている。
瘴気の濃さだ。
白夜結界の影響がさらに薄くなっている。
都市部から外れたことで、結界が弱まる範囲もあるだろうとは予測していた。
だが――
いくらなんでも瘴気が溢れすぎだ。
白夜結界は国土防衛の要であり、魔物に対抗する最も有効な手段だ。
それが、こんな歪な循環をしているなんて思いもしなかった。
王都付近の瘴気は徹底的に排除する一方、辺境に続く街道の方は結界の守りが手薄になっている。
俺が王都にいる結界師だからこそ、気づけた点だろう。
「……なあ」
小声でリリカに声をかける。
「少し急いだ方がいい」
「どうして?」
「魔素の浄化が追いついてない。魔物との戦闘になる確率が高い」
一瞬眉をひそめたが、リリカはすぐに頷いた。
「分かった。騎士たちに伝えるわ」
余計な質問はなかった。
少し肩の力が抜ける。
そのときだった。
――俺が張っている結界に、反応があった。
「魔物が来るぞ!」
即座に叫ぶ。
獣人の少女が馬車のなかで身を低くした。
次の瞬間、草むらが大きく揺れる。
そして、枝が折れる音が重なった。
「ついにお出ましか。盗賊みたいに簡単にはいかないぞ」
「分かってる」
騎士への警告が早かったため、魔物側の奇襲にはならなかった。
相手は狼型の魔物だ。
数は三――いや、遅れて四匹目が姿を見せた。
多くはない。だが、動きが速い。
何より統率が取れている。
「馬車から出るな! 皆、一か所に固まるんだ!」
騎士から指示が飛ぶ。
だが、俺は馬車の外へ出た。
「え……フィン!?」
リリカの焦った声が背中に届く。
まさか、俺が前に出るとは思っていなかったらしい。
俺自身、少なからず驚いてはいる。
「あんた、やれるのか?」
「元冒険者だ。どの道、この数の魔物が相手じゃ守り切れないだろ」
剣を抜いて意思表示すると、彼らは口元だけで笑みを浮かべた。
「頼もしいぜ、元冒険者さんよ」
「応援に感謝する」
剣を構えつつ、結界を張る。
結界の範囲は最低限。
――狭く、しかし密に張る。
「くるぞ!」
レオンが叫ぶ。
だが、魔物の跳躍がわずかに鈍った。
足下が悪かったのか? あるいは――
「今だ!」
ハインツの剣が深く通る。
一体が地に伏す。
「今のは……」
「レオン、ぼさっとするな!」
騎士が違和感を感じたようだが、それを確認をする暇はない。
まだ残りは三体。
一体が、俺の方へ向かってきた。
距離は近い。
しかし、低級の魔物だ。
Aランクのダンジョンで目が肥えていたせいか、物足りなく感じる。
俺の剣が閃き、魔物を両断した。
「お見事!」
「あんたらは守りを固めてくれ」
相手のレベルは理解した。
俺でも対処可能な相手だと判断する。
攻めに転じ、動きが鈍い魔物を狙う。
数合打ち込み、喉を深く突いた。
その隙を逃さず、最後の一匹が襲ってきたが、読めていた動きだ。
あっさり袈裟斬りにした。
剣についた血を払い、鞘に戻す。
森に静寂が戻ってきた。
荷台からリリカが走ってくる。
「フィン! 怪我はない?」
「大袈裟だな。見てのとおりだ」
「もう、急に飛び出すから心配したわ」
獣人の少女や少年たちが、こちらを見ている。
俺が片手を挙げると、拍手が起こった。
(……こんなの初めてだな)
寄生虫と呼ばれパーティを追い出された俺が、戦力になれた。
今の戦い、あいつらが見たら何て言うかな。
「どうかした? やっぱりどこかやられたの?」
リリカに腕を引かれて我に返る。
「少し余韻に浸ってただけだ」
「そう。本当に無事でよかった」
リリカがほっと息を吐く。
「フィン、もっと誇っていいのに」
「誇れるほどのことはしてない。弱い魔物だったしな」
リリカは納得がいかないように唇を尖らせた。
「そういうところがあるって、覚えとくから」
「どういうところだよ」
「……フィンは知らなくていいの」
俺は追及を諦めて降参した。
魔物なんかよりよっぽどリリカの方が手強いからだ。
女の子に拗ねられると、俺では対処が思いつかない。
23
あなたにおすすめの小説
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
聖女を怒らせたら・・・
朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる