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親子

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 スタンピードは1ヶ月続いた。女達とのいちゃラブ同棲生活が終わり、名残惜しい気持ちでそれぞれの家に戻っていったのだが、外界は大変なことになっていたようだ。面会を求めてきたエヴラール侯爵は痩せて別人になっていた。

「我が領地を襲ったスタンピードだが、人為的に引き起こされた可能性が浮上してきた。ただの災害ではなかったのだ」

 ゲーム時代にスタンピード関連のイベントは何度かクリアしてきた。ああいうイベントは大体、黒幕がいるからな。

「もし首謀者がいるなら炙り出さねばならんが、今は食糧の備蓄も尽きかけている。情けない話だが、いくらか分けて貰えないだろうか?」
「少し割高にはなるかもしれませんがお譲りしましょう」
「おお、助かる。礼と言っては何だが、他に欲しいものはあるか?」
「そうですね。ドワーフに伝手はないでしょうか? 高度な技能で鍛冶をしてくれる者がいると助かるのですが」
「鍛冶ができる娘か……」

 別に性別は指定してなかったが、侯爵の頭の中では完全に女を融通しろという話になっているようだ。間違ってはないので止める気はないが。

「すまないが、力にはなれそうもないな。人間の領地に亜人はよりつかん。面倒ごとになるから、我が領内では亜人の売買も禁じているのだ」

 奴隷商も頼れないということか。

「無理を言いました」
「いや、それ以外で何か力になれることがあれば言って欲しい。君が貸してくれたミスリルゴーレムは強力だった。外壁の門を守れたのは君のお陰だ。あれがいなかったら、私は責任を取らされて領主の地位を奪われていただろうな……」
「親に助力するのは当然のことです」
「お前がジャネットを選んでくれたよかった。ずいぶんと女を囲ってるようだが、あれは上手く馴染めているか?」
「はい。彼女も村を気に入ってくれているようです」
「そうか。ならば、私から言うことはないな」

 セックスして贅沢させれば文句は言わない女だけど、今度話を聞いておくか。

 エヴラール侯爵と別れた俺は、その足でオレスム領に飛んだ。
 久しぶりに門扉をくぐって歩いていると、年配の侍女が傅いてきた。

「おお、エリク様! エヴラール侯爵家の婿になられたと聞きました。ご立派になられて……」

 伯爵に仕える専属の侍女か。名前はマーサだったか?

「伯爵はいるか」
「そのような他人行儀で呼ばれては……」
「面談ができるなら急いでくれ。あまり時間がないんだ」
「左様ですか。では、すぐに取り次いで参ります」

(……領内も本邸の方は変わりないな。結界とゴーレムで十分に守れたようだ)

 客間で待っていると、立派な身なりをした男が入ってきた。
 エクトル・オレスム。俺の父親だ。

「エリク……。お前に会えたらずっと謝りたかった。すまない。テランスの暴走を許してしまった」

(やっぱりな)

 薄々勘づいてはいたが、やっぱりアレの暴走だったのか。

「本当に絶縁を命じたのはあんたじゃないのか?」
「テランスを遣いにやったが、あれはお前がなかなか戻ってこないから様子を見に行かせただけだ。才は兄に劣ると思っていたが、貴重な男児を無意味に手放したりはしない」
「あいつは最初から俺を放逐する気だったようだぞ」
「……愚かな。エヴラール侯爵との関係が急速に悪化したのもアレのせいだろう。今さらだが、絶縁は撤回させてくれ。そもそも書面上ではそのような処理をしていない。お前はエリク・オレスムのままなのだ」
「家督を俺に譲るなら考えないないでもないけどな」
「……それもいいかもしれん」

 おいおい、冗談で言ったのに真に受けるなよ。

「今回、我が領を守ってくれたのはお前だと聞いている。一方的な絶縁を宣言された状態で、よく領民の為に戦ってくれた。感謝してもしきれない」

 もしかしてアリアが手紙を出していたのか……?
 俺の気づかない所で気を回してくれたのかもしれない。
 スタンピードが一段落したら、一度様子を見に行こうと思うって話してたからな。

「ティボーを討伐し、新種のゴーレムの開発に成功したとも聞いている。お前の名は社交界でもよく聞く。大勢の平民の女を娶ったという悪評も広まっているが、それ以上に才能の輝きが注目されている。テランスのような愚か者に家をやるよりは絶対にいいだろう」

 笑いが込み上げてくる。エヴラール侯爵からあの村を買うか。
 いや、いっそのこと2つの領地を統合してもいいかもしれない。

「エリク・オレスム・エヴラールか。国王の許可が下りるならいいかもしれないな」
「まずは早急にエヴラール侯爵との関係を修復したい。その為の口添えを頼めればと思うのだが、力になってくれるか?」
「引き受けよう。それと、足りない物があれば何でも援助してやる。食料品も高騰していてキツイだろう」
「……ああ。感謝する」

 今の俺には金がある。エリーヌの商売は彼女を村から出さないようゴーレムか俺を介して行うことが多いから、商人連中にはそれなりに顔が利く。王都にコネを作って食糧を大量に買い付けておいたのもプラスに働いている。ストレージを使えば劣化もしないし、買い付けておいて値段が暴騰した時に出庫するだけでも金になる。

 ゴーレムのレンタル料と結界の契約金、ティボーの財宝、まだまだ金はあるし、エヴラール領とオレスム領に食糧をばら撒いても余裕がある。

「お前は生き生きしているように見えるな」
「シンプルに金があるからだ。スタンピードの影響で食糧が尽きかけてるから、今回はだいぶ吹っ掛けられた」
「……まさか、スタンピードを商機と捉えていたのか?」

 俺からすれば逆にこの機を利用しない手がない。何が値崩れして何が暴騰するのか、プレイヤー目線で見れば簡単に分かることだ。事前に準備をして最大限の利益を追求することは当然だった。

「あれだけの災害だぞ……。普通は自分達が生き残るだけで精一杯じゃないか」
「たかが魔物の群れだ。俺からすれば対処できないことの方がおかしい」

 エクトルが言葉を失っている。

「……ところで、金を借りる条件を聞いてなかったな。さすがにタダでとはいかんだろう」
「俺が企画していた歓楽街の女達に便宜を働いてやって欲しい。今はそれくらいだな」
「いずれ引き取るつもりなのか?」
「見てから決めるつもりだ」

 エクトルは俺が出した条件を飲んだ。

 さて、話は済んだし帰るか。
 と思っていたら、テランスが扉を蹴破りそうな勢いで入ってきた。

「おい! あいつが帰ってきたと聞いたぞ!」
「……お前は呼んでない。部屋に戻れ」

 親父がウンザリしている。テランスはそんな父親の表情に気づいて、さらにムキになった。

「父上、こいつを半殺しにして財産を奪おう! 適当な罪をでっち上げて侯爵に身代金を要求してもいい! そうだ! 女関連で問題を起こしたことに――」
「黙れ……!」

 エクトルが立ち上がり、テランスに掴みかかると胸倉を掴んで揺すった。

「場をかき乱すだけの愚か者は黙っていろ!」
「ち、父上……。お言葉ですが、私は王都の学校を次席で……」
「勉強ができることと能力があることは全く別の話だ。お前のような馬鹿のお陰でようやくそのことに気づけた。エリク、先ほどの条件で力添えを頼みたい。どうか、よろしく頼む」

 エクトルが息子の前で頭を下げるのは意外だった。

(そこまでして上下関係をハッキリさせたいんだな)

「父上を負かしたくらいで調子に……」
「調子に乗っているのはお前の方だ! 無能は無能らしく黙っていろ!」
「いくら父上でもその言いようは許せませんよ!」
「侯爵との関係を破綻させたのは貴様だ! オマケに私の許可もなくエリクを勘当にしおって!」
「それは、将来の伯爵家の利益を見込んだのです」
「私情で勝手なことを……! エリクが手を差し伸べてくれなかったら、領民に甚大な被害が出ていたんだぞ!」
「この愚弟にそんな力はありません。何か詐欺を働いているんですよ」
「貴様は勘当だ……」
「は? 父上、今何と……」
「ここまで現実が見えないとは思わなかった。もういい。家を出ていけ。お前は伯爵家にとって害でしかない」

 テランスが金魚のように口をパクパク開いてる。

「父上まで騙されないでください。エリクは無能なんです。こいつは魔法も使えないクズで……」
「クズはお前だ。多少魔法が使える程度で調子に乗って、自分の信じたいものだけを信じた結果が今の有様だ」
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