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酒場にて『アガラ・ゴロシャ』との接触
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「あー、『ファリスの希望』最高だな。ミッション成功だし、お腹も一杯だし。」
「そうだな。」
「なぁ、さっきのお誘い、グラトはどうするつもり?」
「そうだな、なんだかんだ言っても『ファリスの希望』が、雰囲気も待遇も一番なんだよね。」
「だよね。でもそうなると僕はもっと戦斧を避けるスキルを磨かなきゃ。あはは!」
「あはは。でもその前に明日のミッションをなんとかしないとね。」
ホウルの定宿『リーノ亭』に着いた。この宿では食堂が酒場を兼ねており、深夜まで営業している。灯りが煌々とつき時折笑い声が響いてくる。賑わっているようだ。
グラトは4軒先の酒場のない宿『宿屋ポルツ』を定宿にしている。夕飯終わりで食堂は閉店になるので、夜静かに寝られるからだ。
明日の打ち合わせをするために、深夜までやっているリーノ亭に入った。厨房に近いテーブルに陣取る。
「『シューレム』ダンジョンの一角うさぎの角20本か。二人でなら1日でなんとかなりそうだね。」
「うん。ただ『シューレム』ダンジョンはなぁ…」
「あー、あの噂ね…。魔法使い顔負けの魔法を放ってくる黒い魔獣って奴でしょう?本当なのかな?」
「いやー、どうかなぁ。魔獣が魔法を使うなんてありえないよねぇ…。半年前『モンモの爪』パーティと潜ったときは普通の魔物しかいなかったんだけど…」
「噂は2ヶ月前からだよね。2ヶ月前に何かが住み着いたとか?」
「第一発見者の『ローパの轟音』パーティのスチーブさんは怪しいけど、その後『ガリホクの夜明け』パーティのケイジンさんも見たって言うから本当なんだろうけど…」
スチーブさんは30代後半のいつも酔っ払っているような戦士なので、見間違いもありそうだ。ケイジンさんは20代前半の真面目な魔法使いで、時々ミッションで一緒のとき面倒をみてくれるので、二人の間では信用度が高い。
「兄ちゃん達、ちょっといいか?」
先程から酒場の窓際のテーブルで飲んでいた3人組の一人が声をかけてきた。あまり見たことのない20代後半位の男だ。装着している装備は使い込んだ如何にも「討伐慣れしてます」感が出ている。男はニコニコしながら話を続ける。
「今の話、『シューレム』ダンジョンのことだよな?」
「ええ、そうですけど。」
「俺たちは渡りのBランク『アガラ・ゴロシャ』パーティってんだ。今日この街に着いたんだが、ここいらは初めてでな。ギルドに顔繋ぎに行ったら、『シューレム』ダンジョンの黒い魔獣討伐ミッションってのを押し付けられて困っているんだ。詳しい情報が欲しい。どうだ?情報を売らないか?」
テーブルに銀貨を1枚コトリと置きながら2人に聞いてきた。安宿1泊銅貨50枚なので、銀貨1枚なら2泊分。情報提供にこの金額は破格と言って良い。グラトはそっと気配を消し始めた。
「もちろん良いですよ。何でも聞いてください。」
ホウルは銀貨に手を伸ばしながら答えた。男はスッと銀貨を引っ込めながら
「おっと。こいつは情報の中身次第だぜ。お前の知ってる事全部話してくれ。」
男が目配せすると残りの2人も椅子と酒を持ってこちらのテーブルにやってきた。
ホウルは『シューレム』ダンジョンや、黒い魔獣の噂について、2ヶ月前から始まったこと、誰が何を見たのか、自分達は別件で明日行くことなど、知っていることを全部話した。
「へぇ、魔法を使う魔物か…。ギルドからの情報の中にはなかったな。」
「遭遇した6パーティ中2パーティしか魔法を使っているところを見てないし、しかも1つは酔払いの目撃じゃあ 多分、ギルドも眉唾だと思ったからでしょうね。」
「そうかそうか。よく分かった。ありがとうよ。」
男は銀貨をこちらに滑らせて寄越した。
「これは明日の道案内料も含んでるからな。頼んだぜ。」
「…あー…はい。お願いします…。」
さっきまであんなにペラペラと情報提供していたホウルの元気が無くなった。片道1日半、往復3日かかる道案内で銀貨1枚だとトントンだなぁ、情報提供料も含めるとあまり美味しい話ではないと気づいたらしい。
「なんだい兄ちゃん。急に大人しくなって。金額が不服か?いいじゃねぇか、ダンジョン内では護衛してやるからよぉ。」
するとホウルはパッと顔を上げ、
「そうですね。Bランクパーティが一緒なら黒い魔獣を気にせずにアイテム集めできます。」
「そうだろそうだろ。じゃ、明朝一番にギルド前な。遅れんなよ。」
「はい、お休みなさい。」
話していた男は合図をすると、他の2人と共に食堂を後にし、夜の街に消えて行った。
「どうだった?」
「そうだね、話をしていたのは戦士でBランク。両手剣使い。魔法使いはCランク。火、風系。剣士はBランク一歩手前のCランクかな。先制攻撃型のパーティみたいだ。回復・支援役は置かず、薬で代用している。割と高級な筋力増強剤と回復薬を多めに持っていたよ。Bランクパーティというのは本当かもね。ギルドは諸手を挙げて面倒事を押し付けたようだが、黒い魔獣相手にどれだけ保つかな。スタミナ面に不安ありだね。」
分身(うっすら気配)をホウルの横に置いておいて、完全に気配を消した本体で持ち物や身体的特徴を診る。目の前でバッグを漁られていても気づかない程の認識阻害。
あの3人は、自分たちの手札を何も見せずに話を纏めたと思っているだろうが、粗方見抜けている。
「グラトの認識阻害、相変わらず強力だね。解っている僕にも感知できなかったよ。」
「ま、ね。さて、明日も早いから今日はお開きとしようか。」
「そうだね。じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ。」
ホウルは2階へ、グラトは自分の宿へ別れた。
翌朝、ギルド前。
「グラトー、今日で間違いないよねぇ?」
「ああ。」
「朝一って、いつー?」
「そろそろ昼だな…」
『アガラ・ゴロシャ』パーティはまだ来ていない。さっきから同じ会話を繰り返している。
「ねぇーグラトー、僕ら置いていかれたんじゃない?」
「それは流石に無いだろう?だったら案内なんて雇わないだろうし」
「そうかなぁー、あ、来た来た。」
周りをきょろきょろしていたホウルがやっと現れた『アガラ・ゴロシャ』パーティを見つけた。
「おー、坊主共来ていたか。ご苦労ご苦労。」
「遅いっすよー。置いていこうかと思いましたよ。」
「すまんすまん。オネェちゃん達が離してくれなくてな。」
「今から出発しますか?それとも明日にしますか?」
「今から出よう。何か問題あるか?」
「いえ、別にありません。」
「じゃ、出発だ。」
街を出て半日で野宿。『アガラ・ゴロシャ』パーティはみんな二日酔いらしく、思ったより進めなかった。
不寝番はグラトとホウルでやった。『アガラ・ゴロシャ』パーティは起こしても起きなかったのだ。「うるさい」と腕を振り回されて諦めた。
二日目の夕方、なんとかダンジョンの入り口に着いた。ここでキャンプを張り明日アタック開始だ。
今日も不寝番は二人でやった。
「お前さん達はうさぎ相手だろう?こっちは黒い魔獣だぞ。万全の体制で挑まなきゃならねぇから、不寝番は任せるぜ。」
「うさぎ相手って言ったって、Dランクの魔物なんだけどな」
「しょうがないよ。Bランクに殴られてもつまらないし。」
「そうだな。」
「なぁ、さっきのお誘い、グラトはどうするつもり?」
「そうだな、なんだかんだ言っても『ファリスの希望』が、雰囲気も待遇も一番なんだよね。」
「だよね。でもそうなると僕はもっと戦斧を避けるスキルを磨かなきゃ。あはは!」
「あはは。でもその前に明日のミッションをなんとかしないとね。」
ホウルの定宿『リーノ亭』に着いた。この宿では食堂が酒場を兼ねており、深夜まで営業している。灯りが煌々とつき時折笑い声が響いてくる。賑わっているようだ。
グラトは4軒先の酒場のない宿『宿屋ポルツ』を定宿にしている。夕飯終わりで食堂は閉店になるので、夜静かに寝られるからだ。
明日の打ち合わせをするために、深夜までやっているリーノ亭に入った。厨房に近いテーブルに陣取る。
「『シューレム』ダンジョンの一角うさぎの角20本か。二人でなら1日でなんとかなりそうだね。」
「うん。ただ『シューレム』ダンジョンはなぁ…」
「あー、あの噂ね…。魔法使い顔負けの魔法を放ってくる黒い魔獣って奴でしょう?本当なのかな?」
「いやー、どうかなぁ。魔獣が魔法を使うなんてありえないよねぇ…。半年前『モンモの爪』パーティと潜ったときは普通の魔物しかいなかったんだけど…」
「噂は2ヶ月前からだよね。2ヶ月前に何かが住み着いたとか?」
「第一発見者の『ローパの轟音』パーティのスチーブさんは怪しいけど、その後『ガリホクの夜明け』パーティのケイジンさんも見たって言うから本当なんだろうけど…」
スチーブさんは30代後半のいつも酔っ払っているような戦士なので、見間違いもありそうだ。ケイジンさんは20代前半の真面目な魔法使いで、時々ミッションで一緒のとき面倒をみてくれるので、二人の間では信用度が高い。
「兄ちゃん達、ちょっといいか?」
先程から酒場の窓際のテーブルで飲んでいた3人組の一人が声をかけてきた。あまり見たことのない20代後半位の男だ。装着している装備は使い込んだ如何にも「討伐慣れしてます」感が出ている。男はニコニコしながら話を続ける。
「今の話、『シューレム』ダンジョンのことだよな?」
「ええ、そうですけど。」
「俺たちは渡りのBランク『アガラ・ゴロシャ』パーティってんだ。今日この街に着いたんだが、ここいらは初めてでな。ギルドに顔繋ぎに行ったら、『シューレム』ダンジョンの黒い魔獣討伐ミッションってのを押し付けられて困っているんだ。詳しい情報が欲しい。どうだ?情報を売らないか?」
テーブルに銀貨を1枚コトリと置きながら2人に聞いてきた。安宿1泊銅貨50枚なので、銀貨1枚なら2泊分。情報提供にこの金額は破格と言って良い。グラトはそっと気配を消し始めた。
「もちろん良いですよ。何でも聞いてください。」
ホウルは銀貨に手を伸ばしながら答えた。男はスッと銀貨を引っ込めながら
「おっと。こいつは情報の中身次第だぜ。お前の知ってる事全部話してくれ。」
男が目配せすると残りの2人も椅子と酒を持ってこちらのテーブルにやってきた。
ホウルは『シューレム』ダンジョンや、黒い魔獣の噂について、2ヶ月前から始まったこと、誰が何を見たのか、自分達は別件で明日行くことなど、知っていることを全部話した。
「へぇ、魔法を使う魔物か…。ギルドからの情報の中にはなかったな。」
「遭遇した6パーティ中2パーティしか魔法を使っているところを見てないし、しかも1つは酔払いの目撃じゃあ 多分、ギルドも眉唾だと思ったからでしょうね。」
「そうかそうか。よく分かった。ありがとうよ。」
男は銀貨をこちらに滑らせて寄越した。
「これは明日の道案内料も含んでるからな。頼んだぜ。」
「…あー…はい。お願いします…。」
さっきまであんなにペラペラと情報提供していたホウルの元気が無くなった。片道1日半、往復3日かかる道案内で銀貨1枚だとトントンだなぁ、情報提供料も含めるとあまり美味しい話ではないと気づいたらしい。
「なんだい兄ちゃん。急に大人しくなって。金額が不服か?いいじゃねぇか、ダンジョン内では護衛してやるからよぉ。」
するとホウルはパッと顔を上げ、
「そうですね。Bランクパーティが一緒なら黒い魔獣を気にせずにアイテム集めできます。」
「そうだろそうだろ。じゃ、明朝一番にギルド前な。遅れんなよ。」
「はい、お休みなさい。」
話していた男は合図をすると、他の2人と共に食堂を後にし、夜の街に消えて行った。
「どうだった?」
「そうだね、話をしていたのは戦士でBランク。両手剣使い。魔法使いはCランク。火、風系。剣士はBランク一歩手前のCランクかな。先制攻撃型のパーティみたいだ。回復・支援役は置かず、薬で代用している。割と高級な筋力増強剤と回復薬を多めに持っていたよ。Bランクパーティというのは本当かもね。ギルドは諸手を挙げて面倒事を押し付けたようだが、黒い魔獣相手にどれだけ保つかな。スタミナ面に不安ありだね。」
分身(うっすら気配)をホウルの横に置いておいて、完全に気配を消した本体で持ち物や身体的特徴を診る。目の前でバッグを漁られていても気づかない程の認識阻害。
あの3人は、自分たちの手札を何も見せずに話を纏めたと思っているだろうが、粗方見抜けている。
「グラトの認識阻害、相変わらず強力だね。解っている僕にも感知できなかったよ。」
「ま、ね。さて、明日も早いから今日はお開きとしようか。」
「そうだね。じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ。」
ホウルは2階へ、グラトは自分の宿へ別れた。
翌朝、ギルド前。
「グラトー、今日で間違いないよねぇ?」
「ああ。」
「朝一って、いつー?」
「そろそろ昼だな…」
『アガラ・ゴロシャ』パーティはまだ来ていない。さっきから同じ会話を繰り返している。
「ねぇーグラトー、僕ら置いていかれたんじゃない?」
「それは流石に無いだろう?だったら案内なんて雇わないだろうし」
「そうかなぁー、あ、来た来た。」
周りをきょろきょろしていたホウルがやっと現れた『アガラ・ゴロシャ』パーティを見つけた。
「おー、坊主共来ていたか。ご苦労ご苦労。」
「遅いっすよー。置いていこうかと思いましたよ。」
「すまんすまん。オネェちゃん達が離してくれなくてな。」
「今から出発しますか?それとも明日にしますか?」
「今から出よう。何か問題あるか?」
「いえ、別にありません。」
「じゃ、出発だ。」
街を出て半日で野宿。『アガラ・ゴロシャ』パーティはみんな二日酔いらしく、思ったより進めなかった。
不寝番はグラトとホウルでやった。『アガラ・ゴロシャ』パーティは起こしても起きなかったのだ。「うるさい」と腕を振り回されて諦めた。
二日目の夕方、なんとかダンジョンの入り口に着いた。ここでキャンプを張り明日アタック開始だ。
今日も不寝番は二人でやった。
「お前さん達はうさぎ相手だろう?こっちは黒い魔獣だぞ。万全の体制で挑まなきゃならねぇから、不寝番は任せるぜ。」
「うさぎ相手って言ったって、Dランクの魔物なんだけどな」
「しょうがないよ。Bランクに殴られてもつまらないし。」
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