ストーカーにさらわれちゃいました!

ムニエル

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   カタカタカタ

   時刻は11時。
   今日も見事に残業だ。

  「あとちょっとだよ。頑張ろう。」

   「…ハイ。」

  後輩のミスと日頃の仕事を黙々と処理していく。

  夕方後輩が大きなミスをしてしまった。部長は申し訳なさそうな顔をしながら俺に仕事を容赦なく振ってくるし、ミスのカバーも頼まれてしまった。教育係だからしょうがないのだろうか…。

   カタカタ

    ーーーー

  40分ほどしてほとんど終わった。

   「あー…そろそろ休憩しよっか。終わりそうだし。」

   「はい…!」

   休まず画面を見続けていたから目が乾いた。

   「何飲む?」

   「え!ミスもカバーしてもらってるのに…いいんですか…?」

   「大丈夫だよ。」

   「じゃあ、お言葉に甘えてココアで…。」

    自販機のすぐそばにあるベンチに座って先程買ったコーヒーを飲む。 

    「その、すいません。僕のミスで残業させちゃって。」

   「いいよ。普通に渡された仕事あったし、次から頑張ろう。」

   「ありがとうございます…!」

   ーーーーーー

    仕事もミスの修正も完了したが、会社を出るにも電車がなかった。後輩くんも同じようだ。

   「仮眠とる?ベンチとかでなら大丈夫だけど。」

   「目が覚めきっちゃってて…。」

     「奇遇だね。同じだ。」

     「…そういえば、真山先輩ってお家に恋人とか、ご家族とかいらっしゃるんですか?」

    「え、あー。一人暮らしだし。恋人はいないな。」

   「モテそうだから彼女さんとか奥さんがもういるのかと思ってたから意外です。」

   とても痛いとこをつかれた…。この会社の結婚率は高いし恋人がいる人も多い。いないのは部長と俺ぐらいだろう。

   「あ、後輩くんは…いるの?」

   「います!むちゃくちゃ可愛いです。」

   「そっか…。」

   「でも、僕の仕事の件で揉めてて。」

   「仕事?後輩くんの?」

   「はい…。ここに務めてから彼女と過ごす時間が減ってて。初めてから少しだけだから続けようかと思ったけど彼女が仕事と私どっちが大事なの!私よね!新しいとこ探してあるから!って。」

   本当に言う人いるのか。

  「そうなんだ。もしかして辞めちゃう?」

   「はい…。お世話になってて申し訳ないんですけど…。」

   「そっかぁ。彼女さん大切にね。」

      「ありがとうございます。そうだ!先輩は何か悩みとかないんですか…?」

   「悩みか。うーん。強いて言うなら、帰り道とか家にいる時見られてる気がするんだよね。」

   「ストーカー…!?」

   「ハハハ、そんな大層なもんじゃないよ。多分。それに、非モテのおじさんストーカーして何が楽しいの。」

   「先輩まだ30手前じゃないですか。28でしたよね。」
    
   「その、病院で言われたけど内臓年齢50らしいんだ…。」

  「その話ストーカー疑惑より重くないですか…?」

    ーーーーーーー
    
   朝7時。後輩くんは今日仕事がないため帰るらしい。

   「気をつけてねー。」

   「先輩こそ内臓大切にしてくださいねー!」

    「気をつけるよー。」 

    さて、後輩くんも帰ったことだしやるかぁ…。 今日の仕事をしなくてはいけない。量の多さにため息がでる。

   「あれ、これ社長のだ。混ざった…?」

   溜まった仕事の中に社長のものであろう書類があった。

   「困るだろうし、…持ってくか。」

   部署から出て社長室に向かう。土曜日には出勤してないはずだけど大事な書類みたいだし社長室の前の書類入れにいれとこう。

   「徹夜明けに歩くの辛いなぁ。」

   軽く息を切らしながらも社長室の前についた。

   「あれ、ドア空いてる…?」

   少し開いた扉があった。昨日戸締まりしなかったのかは分からないけど良かったかもしれない。机に置いて戸締りして仕事に戻ろう。

   机に置こうとしたら書き置きが見えてしまった。

   【これを読んでいるであろう春樹はるきへ。申し訳ないけど会社を続けれなくなったんだ。重ねてある紙を各部署に貼っておいてくれないかな。一生のお願い。】

   「ぇ…?」

   驚いたけどなにかの冗談かと思いスマホを手に取り、社長であり双子の兄であるように電話をかける。

  プルルルル

  『もしもーし。どうしたの春樹?書き置k』

  「陽!どういうこと?会社なくなるって…!」

  『まんまだよ。倒産ってやつ。大っきい規模の取引先無くなっちゃって共倒れー。』

 「28にもなって無責任だって。告知とかもっとなかったの?」

  『そりゃね?ブーイング受けるからさぁ。春樹お願いね。ー、ーーーガーーー』

  プツ、ツーツーツー

  「どうしたら…。」

  途方に暮れるが誰かが助けてくれる訳では無い。一先ず来る社員はいないか書類を漁って確認する。幸い今日の勤務は俺だけのようだ。小さい会社で良かったというべきか。

  「…帰るか。」  

  陽が置いていた紙を各部署に貼り付け会社を出る。そのまま駅に行き電車に乗り家へと帰る。

  ガチャ
 
  家に入りドアを閉める。鍵をかけることも忘れない。

  「はぁぁ…。」

  ズルズルと壁に縋ってそのまま安心感からくる眠気に抗えなかった。

   



   

  

   
    

   


    
   

   







   
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