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イリステラ王国編

161話 主人公、ドラゴンの本質を知るー6

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 ソラと名乗った美女は、タムに抱きついて離れようとしない。イリスと同じくらいスタイルが良い女性に抱きつかれて、タムが固まっている。

「あっ、あの…。胸が、胸があたってるだよ…。」

「これが…。これが運命の相手。アイツが言ってた通りだ。相手の思念が読めないし、ドキドキが止まらないよ……。」

「ちょ、ちょっと離れてほしいだよ。」
 タムは、顔を真っ赤にして懇願するが、女性は離れようとしない。

「離れないよ!だって、やっと出会えた運命の相手なんだから!ボクのこと嫌い?」

「いや、そういうわけではないだが…。運命の相手って言われても…。困るだよ。」

 どうなってるんだろう?
 理解できなくて、ただただ見ているしかなかった僕だが、ティアの一言で疑問が解決する。

「やっぱりソラだ!そっちの姿の方が良いよ!可愛いし!」

 そっちの姿?

「ティア、どういうこと?ソラって?あの女性はソラなの?」

「うん!ティアが知ってるソラはあの姿だよ。子供のソラは作戦中だけなんだよ!」

 子供のソラ?作戦中?
 いろいろと気になることはあるけど、これだけは聞いておかなくては。

「ソラって男なんだよね?」

 その僕の言葉に、タムが反応した。

「えっ?ソラは男なんだか?こんなに綺麗なのに?悪いけんど、オラは女性とお付き合いすると決めているだ。ソラの気持ちは嬉しいだが、お断りするだよ。」

 それを聞いた女性が悲しそうな顔になる。
「拒絶の言葉でこんなに心が痛くなるなんて…。やっぱりタムが運命の相手…。」

「なっ、泣かないでほしいだ。でも、オラは男性とお付き合いするのは…。」

 ソラはタムの言葉をさえぎって、話しはじめる。

「ボク、まだちゃんと自己紹介してなかったね。ボクの名前はソラ。純血のドラゴンだよ。純血のドラゴンには性別はないんだ。運命の相手に合わせて、変化するから。」

 性別がないだって!?

 でもまてよ。どこかで同じようなものを見たような…。

 あっ、カクレクマノミって魚!

 カクレクマノミは、群れを作って生活する魚で、産まれた時には性別が決まっていないという。そして、群れの中の最も大きな個体がメスとなり、その次に大きな個体がオスとなり、その2匹がカップルになる。

 アースの自然界にもあることなんだけど。

「タクミ!ドラゴンはドラゴンだよ!魚で例えるのはやめて!」

 僕の思考を読んだソラに怒られる。

「ボク達ドラゴンには、性別はない。そういう存在なんだよ!」

 やばい、すごく怒ってる…。

「だから言ったでしょ?ボク達は何にでも変現できるって!ボクはいま、正真正銘のヒト種のメス!」

 メスって…。そこはせめて、女性って言おうよ!

「わっ、分かっただけど。とりあえず離れてほしいだ。いきなり運命の相手って言われても困るだよ…。」

 戸惑っているタムの顔を見たソラは、やっと手を離す。

「タムはボクを選んでくれないの?本体じゃないから?こんなことは初めてだから、さっぱり分からない…。」

「ソラぁ。強引に誘うだけじゃダメよぉ。時には引くことも重要よぉ。押してダメなら引いてみろって言うでしょ?」

「そうなの?分かった。ありがと!イリステラ王!」
 笑顔でイリスに礼を言うソラが、言葉を続ける。
「お礼にその質問に答えるよ。」

「あらぁ、私はまだ何も言ってないわよ。でも分かっちゃうのね。さすがドラゴンねぇ。」

「大いなる呪いについて、ボクは話すことはできない。それが答えだよ。」

「そう、残念ねぇ。ライルから連絡があったから、聞いてみたいと思ってたのだけど。でもひとつ分かったこともあるわ。大いなる呪いについて、『知らない』ではなく、『話せない』って返事だったもの。貴女は何かを知っているのね?」

「そうかもね。」
 ソラが曖昧な返事をする。

「ふふっ、いいわよぉ。簡単に教えてもらえるなんて思ってなかったわぁ。」

 やっぱりソラは、何かを知ってるんだ。じゃあ、流浪の民についても知ってるに違いない。でも答えてはくれないんだろうなぁ。

 ソラはタムに夢中だし。

「タム。ボクのことは受け入れられない?」
「そういうわけではないだよ。ただ、オラはまだソラのことを知らないから。」
「じゃあ、可能性はある?」
「それは…。わからないだよ。」
「分からない?無理ってことじゃないんだね?じゃあ、これを受け取って。」

 ソラは空中にドラゴンの紋様を表示する。

「ボクは分身体。タムについて行きたいけど、本体じゃないからできない。だから、どこにいても連絡ができるように印をつけたいんだよ。」

「んだども、それは大丈夫なヤツだべか?」
 タムが怪しんでいる。

「タム!大丈夫だよ。僕にもソラからもらった紋様があるよ。それがあると、ソラと連絡することができるんだ。ソラは紋章システムが使えないから、それの代わりだよ。」

 ソラの必死な顔を見たら、放っておけないよね。僕は援護射撃をする。

「んだか?連絡ができないのは不便だな。いいだよ。」

「ホント?良かった!」

 タムの手のひらが光る。
 ドラゴンの紋様が薄っすら刻まれるが、すぐに見えなくなる。

「タム、絶対また会ってね!」

 名残惜しそうにタムを見つめながら、ソラの姿が消えていく。そして、消えながら、イリスとティアに声をかける。

「そんなに楽しかったのなら、このダンジョンを2人にあげる。イリステラ王国の名物にするといいよ。この神殿は遥か昔、恋愛成就の神殿だったんだ。このダンジョンをカップルでクリアすることで、仲良くなって恋が上手くいくって仕組みなんだよ。恋が苦手な人達の後押しをしてあげるのも、この国の役目だと思う。頑張ってね。」

 その言葉を最後に、ソラの姿は見えなくなった。

「あらぁ。お見通しだったわねぇ。」
「うん!このダンジョンいいなって思ってたの、バレバレだったね!」
「いいものもらっちゃったわぁ。これで、恋に臆病な子達も、恋の素晴らしさを知るキッカケになればいいわねぇ。」

 このダンジョンはそんな目的があったんだ。
 それにしてもイリス様とティアはたくましいな。ちゃっかりとダンジョンを譲り受けるなんて。女性って強いよな。

 こうして、僕達はこのダンジョンを後にしたのだった。

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